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第1話 診療所の御令嬢

 キハヤ国は山に囲まれた小さな国である。この国の王であるサニー王は、ハークレイ法師の勧めで貧しい人たちのために療養所を作った。そこには毎日のように多くの病に苦しむ人たちが押し寄せていた。


 その日の午後、診療所は大騒ぎになった。

「痛い!痛い!」と悲鳴を上げる患者が担ぎ込まれたからだった。


「どうした?」


出て来たのは一人の老人だった。彼は手入れされていない白髪とヒゲをしていて、何か言い知れない威厳と温かみがあった。患者を連れてきた男は言った。


「重い物をもって腰をひねったらしい。動けなくなって家でうんうん唸っていたのを連れてきた。」

「そうか・・・うむ。確かに腰をひねったな。」


老人はその患者を診て、その腰に手を当てて何やら呪文を唱えた。すると


「あれ!楽になった。」


患者は何事もなかったように立ち上がった。


「方術で痛みを取ったからあとは家で休んでいるのじゃ。2,3日でよくなろう。」

「ありがとうございます。」


患者は喜んで何度も頭を下げた。



 その騒ぎに多くの人たちが集まっていた。


「よかった。この療養所の医者たちがすべて流行り病で寝込んでしまったからどうしようと思っていたんだ。」

「ああ、旅の方術師のライリー先生が来てくれたから助かった。医術の心得があって代わりに診てくれるのだからな。」

「腕もいいぜ。方術を使って痛みなんかすぐに取ってくれるしな。でも医者たちが回復したらすぐに旅に出るそうだ。ずっといて欲しいのにな。」


集まった人たちは口々に話していた。



その診療所には手伝いをする若い娘の姿もあった。


「さあ、こちらに。」「大丈夫ですか?」「お大事に。」


彼女がかけるやさしい言葉と笑顔で病に苦しむ患者たちの心がいくらか救われていた。


「ミイナ様が来てくださってありがたいことじゃ。」

「そうだ。気分が明るくなった気がする。」


患者たちは口々に言った。だがミイナは、


「いえ、ライリー先生の方術のおかげですよ。」


と言って微笑みかけた。


「いいや、あなたの力が大きい。みんなもあなたがいたらすぐに元気になったようじゃ。儂の方術など取るに足らしな。まあ、病気になったここの先生もすぐに良くなるから、儂もすぐにお払い箱じゃ。はっはっは。」


老人は愉快そうに笑った。


「まあ、そんなこと・・・」


ミイナは照れながら次の患者を呼びに行った。老人はそばの患者に訊いた。


「あの方はいつもここに?」

「ミイナ様ですか?ええ。あの方はお優しい方です。しばらく前からここを手伝われています。この国のユーマス公爵の御令嬢というのにね。私どもにも親切にしてくださる。」

「ほう、そうなのですか。」


老人は感心したように深くうなずいた。しかしそばにいた別の患者は


「そうだな。でもあのことさえなければ今頃はもっと幸せだっただろうに・・・」


とつぶやいた。


「そのこととは?」


老人は気になって尋ねた。すると周りの患者たちは急に顔を見合わせて口をつぐんだ。どうも言いづらいことがあるようだった。


(ミイナさんに何があったのか?)


気になった老人は懐から水晶玉を取り出してじっと見つめた。




 城下にひときわ大きな屋敷があった。そこはこの国の大臣も務めるユーマス公爵の屋敷だった。そこで


「ミイナ!ミイナはおらぬか?」


ユーマス公爵がミイナを探す声がしていた。しかしいくら探しても彼女の姿はここになかった。


「ミイナは出かけております。」


夫人が出てきてそう言った。それを聞いてユーマス公爵は不機嫌になった。


「なに! また療養所の手伝いか? まさかあの男のところではないだろうな?」

「ミイナはもう子供ではないのですよ。少しは自由にさせてやっては。」


夫人はなだめようとしたが、ユーマス公爵は聞く耳を持たなかった。


「ならぬ! ならぬ! 特にあの男のところには絶対やってはならん!ミイナにもきつく言っておかねば。」


ユーマス公爵はきっぱりと言った。もしあの男のところだったらすぐにでも首に縄をつけてでも連れて帰らねば・・・と言わんばかりだった。

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