選択肢
お久しぶりです。
※後半キスシーンあり。
「よ、おはよう」
「あぁ、おはよう──」
三田頼之は挨拶をしてきた新巻慎に返して、自分のデスクに向かう。
今日からしばらく新人研修のため、頼之は出社したのだ。
「そういえば今日からか、新人研修」
「あぁ。新人が慣れるまで出勤だな──」
と慎に答えながら、頼之は準備する。
「説明だけで大丈夫だよな?」
「まあ、大体で大丈夫だろ。わからなかったら聞きに来させればいいしな」
「だよな」
と頼之は確認しつつ資料を出したり、パソコンを起動させる。
「ん……、来たんじゃないか?」
「え? あ、ほんとだ──」
慎に言われ、頼之が目を向けた先にはスーツをきっちり身につけた女性が、ドアの前でキョロキョロしていた。
そして頼之と目が合うと、少し会釈してから近付いてくる。
「失礼します。先日も挨拶させていただきましたが、改めて……今日から働くことになりました。井上晴実です。よろしくお願いします……!」
頼之と慎を交互に見てから、晴実はお辞儀をした。
頼之と慎も軽く頭を下げて挨拶する。
「あぁ、よろしく頼む」
「まあ、わからないこととかあったら、色々訊いてよ。よろしく」
二人を交互に見てから、晴実は緊張気味に笑顔を作って頷いた。
「はい、よろしくお願いします!」
「いいね、元気があって──じゃ、俺は戻るわ」
「あぁ──じゃあ、早速だが話を始めようか」
と自分のデスクに戻る慎に軽く返事をして、頼之は晴実に向き直った。
「はい……!」
と晴実はささっとメモ帳とペンを取り出す。
頼之はやる気が伝わってくるなと思いながら、席に案内するのだった──。
*
「ただいま……」
「お帰りなさい──って、凄い疲れた顔してますね……」
と天使渉は帰ってきた頼之を見て苦笑いする。
頼之は「あぁ……」と呟いてスーツを脱ぎながら渉に言った。
「新しく入った新人なんだがな、やる気はとてもあるんだが、それが空回ってな……」
「同じミスを何回も……」と頼之はソファーに沈むように座り込む。
「それは……大変でしたね。でも慣れるまでの辛抱ですよ」
と渉はスーツをハンガーに掛けながら相槌を打つ。
頼之はネクタイを緩めながら「そうだといいんだが」と呟いた。
「あ、サンタさんお風呂先入りますか? それともご飯にします?」
「もう沸かしてあるんですよ、どっちでも大丈夫なように」と渉が笑顔で言うと、頼之が少し考えてから口を開いた。
「……その選択肢の中に、テンシはないのか?」
「え?」
と渉はきょとんとしてから、少しずつ顔を赤くする。
「あ、あった方がいいですか……?」
「そうだな。あった方が嬉しい」
と頼之が笑って言うので、渉は少しの間沈黙してから、もう一度頼之に訊いた。
「ぉ、お風呂先にしますか? それともご飯にします? それとも……俺……っ?」
恥ずかしそうに言う渉が可愛くて、頼之はニヤけそうになるのを手で隠しながら答える。
「っ……、テンシかな」
「……笑ってません? サンタさん笑ってますよね?!」
「いや……、はは、うん、ちょっとな──」
と頼之はくくくと笑ってから、少し拗ねる渉に手招きして近くに呼ぶ。
「渉」
「……何ですか」
渉が少し距離を取った所で立ち止まるので、頼之は「はぁ」と一つ息を吐いて立ち上がった。
「からかったわけじゃないんだ、悪かったよ」
「別に、怒ってるわけじゃないんで、謝らなくていいです……」
と渉は頼之を見ようとしないので、頼之はそっと渉の顔に手を添えて、目を見るようにさせる。
「悪かったって」
「……っ、いや、だから別に、怒ってない……」
「ですって……」と小さい声で言って目を逸らす渉に、頼之はそっと顔を近付けた。
「こっち見て」
「……っ」
顔を近付けると、渉は真っ赤になる。
頼之はその反応が面白くて、また少し顔を離した。
「さ、サンタさん、俺のことからかってません……!?」
「いや、からかってないよ」
「いやいや……、絶対からかって──っ」
「ますよね?!」という言葉は、頼之の唇で塞がれて言えなかった。
一旦顔を離して、頼之はまた渉に口付ける。今度は深く、味わうように──。
「ん……っ──」
「……、ありがとう渉。癒されたよ。お風呂入ってくる」
と頼之は満足そうに微笑むと、渉の頭を軽く撫でてお風呂に向かっていった。
「……はずっ……!!」
残された渉は唇を軽く拭いながら、いまだに慣れない深いキスにドキドキするのだった──
頼之「ほんと、可愛いな……」




