小さな決意
お久しぶりです。
渉、決意する──。
大学の講義室で、天使渉と新巻巧は、講義が始まるまで駄弁っていた──。
「テンシ~、新入生見たか? 結構可愛い子いたな」
「チェック早いな」
「もちろん! 未来の彼女かもしれないだろ?」
「理由が嫌だな」
「彼女ほしいんだよ、お前にはわからないだろうけどな!」
と悔しそうな顔をする巧に、渉は苦笑いする。
「まぁ、それは仕方ないだろ、俺は三田さんと付き合ってるからな」
「……へえ、もうそんな熱々な関係なんですか~? キス以上のこととかしちゃったりしちゃって?」
おいおい、と巧は渉の腕をつつく。
渉は「してないわ」と答えながら、つつくのを止めさせる。
その答えに、巧は興味津々というような顔で渉に訊く。
「え、じゃあさ、ぶっちゃけテンシは三田さんとそういうエッチなこととかできんの?」
「はっ!?」
「やっぱ気になんじゃん? てか顔赤!」
と巧は笑う。
渉はそんなに顔赤いか?と思わず顔に触れる。
「……で、どうなの。冷やかしとかノリとか、そういうんじゃなくてさ」
巧を見ると真剣な顔をしていて、渉は心配してくれてるのかと思う。
「いや、別に嫌なら話さなくていいんだけどな、うん」
「……ありがとう──たぶん、できるとは、思う……。けど、三田さんは、俺の気持ち優先してくれてる。それよりも……最近始めたバイト内容覚える方が今は大変……」
と渉はふっと顔に暗い影を落とした。
「あー、コンビニだっけ?」
「……そう。主に品出しとレジなんだけど、まだレジがな、もたついちゃうことがあってさ」
「よくやるな、お疲れ!」
他人事のように巧は笑って、渉の肩を軽く叩く。
「軽いなー」
「まあな、俺が働いてるわけじゃないしな!」
とにっと笑う巧に、そりゃそうだけどな、と渉も笑うのだった。
*
講義終了後、バイトも済ませた渉は三田 頼之の家に来ていた。
いつものように部屋を軽く掃除して、夕飯と朝食の準備を始める。
「……サンタさんと、そういうことができるかどうか……」
支度をしながら、渉は巧に言われたことを思い出して考えていた。
きっと頼之とそういうことをするとなれば、渉が受ける側だろう。
前にそういうことを想像してしまった事があったが、その時想像した自分は頼之を受け入れられていた。
実際そうなってみないとわからないだろうが、もしかしなくても想像のように上手くいくとは思えない。頼之は経験者だが、渉は男同士の経験はないのだ──。
「……ん、来てたのか」
その声にはっとして顔を向けると、そこにはパンツ一丁で首からタオルを提げた頼之がいた。
「サンタさん?! ちょ、何でパンツ一丁なんですか!」
「いや、服を準備したと思ってたんだが、忘れていた。今着るよ──」
と頼之は「悪いな」と背を向ける。
渉はそんな頼之を見て、ふとこの人に抱かれるのか……と考える。
普段裸を見ることはないが、よく見ると筋肉があるし、肩もがっしりとしていて、押さえられたら逃げられないかもしれない……。
「……テンシ? どうした、ぼーっとして」
「え、あ、いや、何でもないです、ちょっと大学の課題の事考えてて……」
ははは、と渉は笑って誤魔化す。
頼之に抱かれる事を考えていたとは言えない。
「そういえば……、バイト始まったんだろう? 慎から聞いたぞ」
「えっ、巧のやつ……話したな……」
と渉はアイツめ……と心の中で舌打ちをする。
慎は巧の兄で、頼之の友人でもあるので、巧から情報が行っていてもおかしくはない。
「今度、用事が出来たら行こうか」
「いいですって……。そういうサンタさんは新しい何か始まったりとかしてないんですか?」
と渉が話題を逸らす。
頼之は服を着てから答えた。
「そうだな、新入社員を一人教育することになった。大体のことを教えたら各自勤務形態を決めてやってもらうんだが、それまでは会社で教えないとならなくてな、だから当分出勤することになった」
「そうですか、わかりました。ちなみに新入社員さんはどんな人ですか?」
「ん……、テンシより少し年上っぽいな。あとは、明るい」
と頼之は思い出すように言って頷く。
「うん、そんな感じだな」
「へえ……」
と渉は言って考える。
男性か……女性でもあれだけど……うーん、サンタさんは両方ともと付き合えるからなぁ、と渉がぼーっと考えていると、頼之が近付いて渉の頭を撫でた。
「……わ、サンタさん?」
「変なこと考えてないか? 大丈夫だぞ、俺は一途だ」
そう頼之が微笑むので、渉は自分の考えていた事が伝わってしまった気がして恥ずかしくなる。
「いや、はは……」
「俺はテンシの方が心配だけどな」
「え、何でですか」
「バイト先で言い寄られないか」
と頼之が苦笑いするので、渉は胸を張って言った。
「俺だってサンタさんに一途ですから! 心配いりませんよ」
ふふんと笑ってから、渉は自分が言ったことに恥ずかしくなり、少し丸くなる。
「……ちょっと、見ないでください……恥ずかしいんで……」
と渉が顔を手で隠すと、頼之はその手をどけてキスをした。
「……っ、何ですか……」
「いや……ちょっと、したくなった──悪い」
と頼之は口を手で押さえて、少し赤くなる。
「何でサンタさんが赤くなるんですか、俺の方が熱いんですけど……!?」
と渉も赤くなって言うと、頼之は赤くなったまま言った。
「いや、いい歳して恥ずかしいなと思ってな……」
「次は気を付けるよ──」と仕事部屋に向かう頼之を見て、これは……我慢させているのか……?と渉は少し申し訳なくなる。
「……そろそろ、だよなぁ……」
頼之からは言ってこないが、そろそろ次に進んで良い頃なのだ。
抱き締め合ったり、キスをしたり、そしたら次に行きたいものだろう。
渉だって高校の頃付き合っていた彼女とは、お互い同意した上で先に進んでいた。
「……よし……」
頼之の新入社員教育が終わったら、言ってみようと渉は小さく決意する。
それからタイミングを間違えないようにしないとな、と思いながら渉は食事の支度を進めるのだった──
渉「うん、大丈夫! 大丈夫……、なはず……!!」




