始めたいこと
とてもお久しぶりです。
頼之が始めたいこととは…。
※後半キスシーンあり。
春。出会いと別れの季節。
三田頼之と天使渉も、それぞれ新しい出会いをしたり、新しいことを始めようとしていた──。
*
「サンタさん、俺バイトしようと思います──」
夕飯の支度をしながら、渉が言った。
頼之は読んでいた新聞を畳んで、渉に顔を向ける。
「ほう。いつからだ?」
「これから面接なんで、いつからかはまだわからないんですけど、受かれば明後日とかからですかね」
「そうか……」
と少し寂しそうに呟いた頼之に、渉は明るく言った。
「大丈夫ですよ、これからだって毎日来ますし、家事だってちゃんとやりますから」
「それはいいんだ。ただ……、テンシと過ごす時間が少なくなるのは、ちょっと惜しいな──」
と頼之は苦笑いしてから、自分の言ったことに少し恥ずかしくなり、また新聞を広げた。
渉は頼之の口からそんな言葉が出るとは思ていなかったので、少し笑って言う。
「サンタさんもそういうこと言うんですね」
「まあ、人並みに独占欲や執着心はあるからな」
「そういうことですか」
「そういうことだ──」
まだ少し顔を赤くしたまま言う頼之を見て、渉は少しくすくすと笑いながら夕飯の支度を進めるのだった。
*
そして二人で食事を終えて、頼之は黙々と食器を洗う渉を見ながら、さっきの話を思い出すように訊く。
「……そういえば、バイト先はどこなんだ?」
「えっと、大学とサンタさんちの間にあるコンビニです。結構使わせてもらってて、店員さんもいい人たちばっかりで──。ここにしようって思って」
「そうか」
「はい」
と頷いた渉に、頼之は微笑んで続けた。
「じゃあ、無事採用になったら様子でも見に行こうか。渉が普段どういう風に人と接しているのか、少し興味がある」
「え、いいですよ来なくて──!」
「いいじゃないか、質の悪いお客をするわけじゃないんだから」
「そういう問題じゃないですから……!」
まだ納得できないというような顔をする頼之に「ほんとにやめてくださいね!」と念押しして、渉はお皿を拭く。
頼之は、渉のバイトが始まったら一回は見に行こうと心の中で決めた。
「……それより、サンタさんこそ何か新しく始めようと思ってることとかないんですか?」
「俺か? そうだな……」
渉の強制的な話題変更に、頼之は「う~ん……」と顎に手を当て小さく唸った後、思いついたようにポンと手を叩いて答える。
「テンシと色々なことがしたい」
「へ……?」
色々な事と言われ、渉は一瞬あらぬ方向に思考がいってしまい、徐々に顔を赤くして言葉に詰まった。
「色々って……、その、俺、えっと……、が、頑張ります?!」
「ふっ、顔真っ赤」
「だ、だって……!」
と赤い顔をする渉に、頼之は少し意地悪をする。
「色々な事、で渉が何を想像したのかはわからないが、俺はデートとかの意味で言ったんだぞ?」
「なっ……サンタさん! からかうのはやめてください……!」
「でも……頑張ってくれるってことは、俺とそういうことをすることに抵抗感はないってことだろう? それなら、俺は嬉しいよ──」
と優しく微笑む頼之に、渉はドキリとして手元のお皿に視線を落とす。
お皿を拭きながら、渉は少し考える。
色々な事と言われて、確かに渉は頼之と一線を越えることを想像してしまった。でもそれに嫌な気はしなかった。
「……」
「渉」
ぼーっとしていた渉に近づいて頼之が声を掛けると、渉は顔を赤くしたまま「え……?」と頼之の方を向いた。
頼之は明らかに意識している渉に欲が刺激され、渉の手からそっとお皿を取った。
「え、あの……」
「残りは後で拭けばいい──」
近くにお皿を置くと、頼之は渉の腰に手を回しそっと引き寄せる。
渉はなんとなくこれからされることがわかって、じっと頼之を見つめた。
頼之もじっと見つめて微笑むと、そっと唇を重ねる。
短いキスをして、頼之は「もう一回……」と今度は優しく渉の唇を開けて、舌を滑り込ませた。
一瞬ピクッと渉は反応したが、その後は頼之にされるがままに唇を塞がれていた……。
「……ン、ん、……ふ、ぅン──」
渉の口から漏れる吐息と、袖を掴んでくるのが愛しくて、頼之は優しく渉の唇をついばむようにしてから、そっと顔を離した。
「っ……。大丈夫か……?」
渉の唇を軽く拭いながら頼之が訊くと、渉は赤い顔を見られないようにしながら頷く。
「……ほんとか?」
「だ、大丈夫です、恥ずかしいだけなんで……っ」
と耳まで赤くした渉に、頼之は「そうか」と嬉しそうに笑って頷いた。
「お……お皿、まだ途中なんで拭きますね……!」
わたわたとお皿を拭くのに戻る渉に「よろしくな」と一言残し、頼之はテーブルに戻る。
まだ赤い顔で黙々とお皿を拭く渉を見ながら、もし一線を越えることになったら……と頼之は考え、自分の欲を抑えられるかどうか、少し不安になるのだった──
渉「……(めっちゃ深かった……っ!)」




