心の距離
お久しぶりです。
渉と巧が三年に。
天使渉が通う大学も、長い春休みの幕が閉じた。
キャンパスには、新入生を誘う各部活動が、盛んに活動している。
渉はその波を切り抜け、講義室に向かった。
「よ、テンシ──ヤバイな、新入生勧誘」
「だな、すげー人」
と先に座っていた新巻巧の隣に座り、渉も頷く。
渉と巧も三年になり、また知らない後輩が増えるのだと新入生勧誘を見て思う。
「俺たちも、もう三年だなー」
「だな、来年には就活だしな」
「あー、早いー、まだ学生のままがいいー」
と巧は駄々をこねる。
「はは、無理だろ」
「だよなー。あ、最近どうなの、三田さんと」
「ん、あぁ、いつも通りだよ──」
と渉は答える。
巧の兄である慎の友人で、三田 頼之の所に渉は家事全般をしに行っている。
最近はバイト代を貰うのをやめて、渉の意思で家事の手伝いをしている。
「あ、あれ、バイト代貰うのやめた」
「へえ、そうなんだ。じゃあ通い妻ならぬ、通い旦那、夫? だ」
と巧が笑う。
渉も「何だそれ」と笑った。
「でも、テンシは彼女っぽいよな。家事全般出来るし」
「はあ?」
「ははは、冗談冗談──」
と巧は笑うが、渉は冗談に聞こえないんだけど……と苦笑いするのだった。
*
「遅くなりました──」
と渉が頼之の部屋に行くと、ちょうどスーツを脱いでいるところだった。
「サンタさんどっか行ってたんですか?」
「ん、ちょっと会社までな──新入社員がそろそろ入り始めるから、その準備とかで足運ぶのが増えるんだ」
「へえ、そうなんですね」
と渉はスーツを受け取ってハンガーに掛けていく。
「俺も、また知らない後輩が増えますよ」
「ははは──」
と頼之は笑って、ワイシャツの袖を捲りながら渉に訊いた。
「コーヒー、飲むか」
「はい」
「ん──」
頼之は笑って、キッチンに向かう。
その間、渉は部屋を軽く掃除する。
「うん……、今日はあんまり汚れてない」
「だろ──? 最近は定位置管理を頭にいれてるんだ」
と頼之がコーヒーを二つ持ってやってくる。
「良いですね、その心掛け!」
「はは──」
ぐっと親指を立てる渉に頼之は笑い、自然と二人はテーブルに向かい合って座る。
「……渉は、三年になったのか」
「はい。来年は就活だーって、巧と話してました」
「そうか」
「はい──」
二人は静かにコーヒーを啜って、顔を見合わせた。
「……なんか、こうして向かい合ってゆっくりするの、良いですね」
「そう思うか?」
「はい」
と渉が微笑むので、頼之もつられて微笑む。
「俺も、そう思うよ──ずっと続けばいいなって」
そう言ってコーヒーを啜る頼之に、渉も少しコーヒーを啜ってから頷いた。
「ですね……」
渉が頷いたのに少し驚きつつ、頼之は嬉しくて小さく笑う。
「……どうしました?」
「ん? いや……、ちょっと抱き締めたいなと思って」
「え……あ、じゃあ、どうぞ……?」
と渉がそっと席を立ったので、余計可笑しくて頼之は口を押さえた。
「っ、はは──」
「な、何で笑うんですか、ちょっと今勇気出したのに……!」
「恥ずかしいじゃないですか……!」と渉は徐々に顔を赤くしていくので、頼之は微笑んで席を立った。
「まだいいか?」
「ど、どうぞ……!」
ぎこちなく手を広げる渉に近づいて、頼之はそっと渉を包み込む。
渉からドキドキと伝わってくる鼓動に、頼之は安心するとともに、嬉しくなる。
そっと離れて見つめると、少し目を逸らすも、またしっかりと見つめてくる。
頼之はそのまま、渉に口付けた。
「……ぁ、悪い」
と頼之が顔を離すと、渉は少し顔を赤くしてはにかんだ。
「はは、大丈夫です……」
「ん、ありがとう──」
また頼之が包み込むと、渉もちゃんと腕を回してくれて、着実に心の距離が近づいているのを頼之は感じた──
渉「まだ、サンタさんに抱き締められるのは慣れないな…(赤くなる)」




