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前兆

渉、風邪を……?

※後半、キスシーンあり。

「っくしょん──」


 食器を洗いながら、天使(あまつか)(わたる)はくしゃみをした。

 腕で鼻を擦り、ズズッと啜る。


「風邪か?」


 珍しくテーブルで仕事をしていた三田(みつだ)頼之(よりゆき)が、パソコンから顔を上げて渉を見る。


「いや、違うと思います。確かに一昨日雪合戦しましたけど、ちゃんとお風呂入ってあったまったし……まあ、その後ここ来て朝ご飯作ったけど」

「その後雪だるま作って、湯冷めしたんじゃないか?」

「ぁ、まあ……作りましたけど、そんな体弱くないですよ」


 と渉は笑う。

 それからまた、くしゅんとくしゃみをした。


「ほんとか?」

「……たぶん──」


 泡を水で流し、お皿を横に置いていく。


「……テンシ、今日の夕飯は?」

「あ、何にします? まだ決めてないんですよね」


 洗ったお皿を布巾で拭きながら、渉は頼之を見る。

 そうだな、と頼之は少し考えてから言った。


「野菜炒めが食べたい」

「野菜炒めですか。わかりました──」


 拭いたお皿を片して、渉は冷蔵庫の中を確認して頷く。

 キャベツ、にんじん、豚肉はあるし、玉ねぎもある。


「うん、作れる。あとはご飯と味噌汁でいっかな」

「テンシ──」

「はい?」


 呼ばれて頼之の方に行くと、頼之は出掛ける準備をしていた。


「ちょっと会社に行ってくる。すぐ戻るから」

「わかりました。気をつけて」

「あぁ」


 頼之はコートと手袋を身につけて、鞄を持つ。

 渉が気づいて、手袋……と呟くと、頼之は微笑んで言った。


「暖かいよ」

「そう、ですか──」


 はにかむ渉に、行ってくる、と頼之は言って出て行った。


「……、よし! お米研いで、洗濯物部屋に入れて畳んで、夕飯の準備だ!」


 渉は頼之に手袋を使ってもらっているのがわかって、嬉しく思った。


         *


「……終わった──」


 お米研ぎに洗濯物を畳み、夕飯の支度を終わらせ、渉はソファーに座ってくつろいでいた。


「サンタさん、もうそろそろ帰って来るかな……てか」


 暑いな──と渉は長袖を捲る。

 まだ外は寒く、室内は暖房が利いている。

 少しして、玄関の開く音がして頼之が部屋に入ってきた。


「ただいま」

「あ、お帰りなさい──」


 と渉はソファーから立ち上がって、コートを受け取りながら言う。


「あの、言い忘れてたんですけど、そろそろ冬期休暇が終わるんで、また大学終わってから来ますね。あと、ちゃんとお昼食べてください」

「そうか、わかった──今年テンシは何年になるんだ?」


 聞いたことなかったけど、とネクタイを外しながら頼之は聞く。


「今年三年になります」

「三年か──じゃあ来年は就職活動か?」

「そうですね、来年四年で、再来年が就職ですね」

「そうなのか──」


 と頼之は言って、ふと渉の顔を見てから言った。


「テンシ、顔赤くないか? あと(ひたい)に汗出てるぞ」


 頼之が自分の(ひたい)を指差して言う。


「え……?」


 渉は手の甲で(ひたい)に触れた。

 確かに濡れている。


「結構動いてたから……」

「そんなにか?」


 と頼之は不思議な顔をする。

 渉はそうですよ、とコートを片しに行く。

 戻ってきてから、渉は言った。


「大丈夫ですよ、ちょっと体温上がってるだけだし」

「…………」

「大丈夫ですって」


 頼之が疑うように渉を見るので、渉は笑って手を振った。


「……ちょっと、ソファー座っていいですか? 休憩──」


 と渉はソファーに座り、ふぅ、と息を吐く。

 頼之はそんな渉を見て、隣に立った。


「……どうしました? 座らないんですか?」


 渉が頼之を見上げるように訊くと、頼之が(ひたい)にそっと手を当てた。

 手袋をしていたとはいえ、外から帰ってきたばかりの頼之の手は、少し冷たい。


「……気持ちいい──」


 渉は思わず目を閉じて言っていた。


「やっぱり……。熱あるだろ」

「へ……? いや、ないない。病は気からっ……?!」


 と弁解しようとすると、頼之は両手で渉の頬を挟んだ。


「熱いものは、熱い」

「…………」


 頼之は手を離し、はぁ、と息を吐く。

 渉は頼之から目を逸らして言った。


「あ、明日には、治ってますよ……」

「……じゃあ、おまじないしてやる」

「おまじない……ですか?」

「あぁ。熱が下がるおまじない──」


 頼之は渉の頬に手を添えて、そっと唇にキスをした。


「これで大丈夫だな」


 と頼之は微笑む。

 渉はぼっと顔が熱くなった。


「ま、全くっ、大丈夫じゃない! むしろ熱いですけど!?」

「明日の分がきてるんだ。だから、明日には治ってる」


 頼之は自信あり気に笑うと、着替えてくる、と部屋を出て行く。

 渉はソファーに横になり、治るわけないだろ……と一人呟いた──





渉「おまじないじゃない──(赤面)」

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