表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/52

その話は──

※軽いキスシーンがあります。

 篤実(あつみ)行博(ゆきひろ)は、三田(みつだ)頼之(よりゆき)に話し始めた。


「私には、同性愛者の友人がいてね。あぁ、もちろん君のことじゃないよ──」


 そう言って微笑む。

 

「友人は、片思いしていた相手と付き合うことができた。それはそれは、毎日嬉しそうに何があったとかこんな事をしたとか、些細なことを聞かされたよ。本当に毎日が充実してたんだろうな」

「……でしょうね」

「そう思うだろ? でも、それは突然壊れるんだ」


 微笑みが消えて、眉間に少しシワが寄った。

 頼之の鼓動が少し速まる。


「友人の恋人は、女性と付き合ってたんだ……浮気っていうのかな。友人は、どうしてかと恋人に訊いたそうだ。そしたらそいつ、何て言ったと思う──?」


 頼之は黙ったまま、行博を見る。

 鼓動が少しずつ、速まっていく。


「『お前とは、遊びだよ。女に飽きたから、ちょっと付き合ってみただけだ。男でも気持ちいいのか興味あっただけ。それに、俺そっちの()ないから──』だってさ。それに続けて最後に言った言葉……、わかるかい──?」


 頼之は小さく首を横に振った。


「『気持ち悪いな、お前──』」

「な……っ」


 胸を締め付ける、好きな相手から一番聞きたくない言葉──脳裏に焼き付いて、離れない。何度も何度も、リピートされる……。

 やがてそれは、心に刻まれる。深く深く──。


「……泣いていたよ。それで別れた──それからは誰とも付き合ってない」


 と行博は窓の方に顔を向けた。

 頼之は胸の辺りに手をやって、ぐっと握り込む。


「……最低だ──」

「そうだろ? ……君も、付き合ってる相手がそうじゃないとは言い切れない。毎日笑顔で話したり、抱きしめ合ったり、キスしたり……その裏で、君の恋人が君のことを悪く言ってないとは限らない。例えば……」


 と行博は振り向くと、頼之を真っ直ぐ見据えた。

 頼之は、少し後ろに退(しりぞ)く。

 鼓動が速くなっていく。


「『気持ち悪いんだよね──』」


 ドクドクと心臓が脈打ち、頼之の息遣いが荒くなっていく。

 行博の言葉が、頼之の頭の中で天使(あまつか)(わたる)の声に変換され、響く。

 そんなことはないとわかっていても、止められない──。


「三田くん──」

「あ、こんな所にいた。篤実さん、新巻(あらまき)が探してましたよ」


 カチャリとドアが開かれ、仲原(なかはら)ゆずほが入ってくる。

 内心、頼之はほっとした。


「……そうか。ありがとう──じゃ」


 行博は頼之に微笑みかけると、休憩室を出て行った。


「休憩室にいるの珍しいわね……って、三田大丈夫? 何か息荒いけど……」

「っ……大丈夫だ。とりあえず、ありがとな」


 と頼之は息を整えて言う。


「なんかよくわかんないけど……どういたしまして──」


 ゆずほはぺこっと頭を下げた。


         *


 頼之は行博の言葉が離れないまま、家に帰った。

 車を駐車場に停め、エレベーターに乗り込む。

 三階に着くまで、頼之は長く感じた。いつもなら、渉に会えるとわかっているので、早く感じるのだが、今日は違う。

 エレベーターから降り、頼之は302号室に向かった──。



「ただいま……」

「お帰りなさい」

「ん──」


 渉を通り過ぎ、スーツをソファーに置く。


「あ、サンタさん。スーツはハンガー!」

「……あ、悪い──」


 何回目ですか。と渉は少し怒りながら、スーツをハンガーに掛ける。


「……テンシ」

「はい?」


 と渉はスーツを片してから頼之を見た。

 頼之は、口を開いてからつぐむ。


「サンタさん……?」

「……いや、何でもない──それより、昼は何だ?」

「昼ですか? 昼はパンです」

「そうか──」


 着替えてくる。と頼之は寝室に向かっていった。


「……何かあったのかな」


 渉は少し気になりながら、目玉焼きを作りにキッチンに入った。


         *


 お昼も済ませ、渉は食器を洗いながら、ソファーにぼーっと腰掛ける頼之を見ていた。

 お昼の時に話しかけたら、返事が少し遅かった。

 視線もあまり合わせようとしない。


「……サンタさん」

「ん……?」


 ゆっくりと顔を渉に向ける。


「体調悪いんですか?」

「え?」

「なんか、反応が鈍いんで──朝はそうでもなかったですよね。会社で何かあったのかな……みたいな」


 洗い終わった食器を布巾で拭きながら、渉は頼之に言う。


「あれですよ。手伝いに来てる時しかサンタさんのこと見てないですけど、ちゃんとわかりますよ。サンタさんがおかしいのくらい──」


 返事遅れてるし、いつも話す時目合うのに、今日はあんまり合わないし……。と渉は少し口ごもりながら言う。

 頼之は少し目を見開いてから、小さく笑った。


「……いや、問題ない──」


 少しまだ不安はあるが、渉が気にしてくれていることが、頼之は嬉しかった。


「本当ですか?」

「あぁ──」


 と頼之はソファーから立ち上がって、渉に近づいていく。

 渉は布巾を干して、手を拭いていた。


「わ、びっくりした──」


 振り返ると、頼之がすぐ後ろにいた。


「渉」

「な、んですか……」


 不意に名前を呼ばれると、渉はドキドキしてしまう。きっとそれは、これから先も変わらないだろう。


「何でもない──」


 渉の腕の下に腕を通すと、腰に手を回し優しく抱き寄せる。

 渉も、遠慮がちに頼之の背中に手を回した。


「……ありがとな」

「え……?」


 耳元で囁いて、頼之は微笑む。

 渉は、どういたしまして? と呟いた。

 頼之は渉を見てから、チュッと(ひたい)に口付けをして、そっと離れた。


「な……なんですか?!」

「何でもない──」


 と頼之はふっと笑って、ソファーに戻っていく。

 渉は(ひたい)を触りながら、何でもないってなんだ……! と心の中でツッコむ。


「渉、こっち──」


 頼之はぽんぽんと隣を手で叩き、渉に座れと合図する。

 普段の頼之に戻ったのがわかり、渉は何観るんですか? とほっとしながら頼之の隣に向かった──





テレビ鑑賞

渉「面白いですね」

頼之「テンシとなら何でもいい(微笑)」

渉「…………(赤面)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ