クリスマス
遅くなりました、
クリスマス。
「……お前か」
三田頼之は、玄関を開けて苦い顔をした。
「お前かって何だよ──」
と新巻慎が、邪魔するぞ。と勝手に中に入る。
はぁ……、と頼之は溜め息を吐き、慎の後に続く。
「お前さ、インターホン出ないですぐ玄関に来たけど、誰かと勘違いしたんじゃねえの?」
今日クリスマスだけど──? と慎がからかうように頼之を見る。
頼之は何かを言おうとしてから、口を閉じた。
「まあ、誰とは言わないけど」
「……今日は家で過ごすんじゃないのか?」
「んー、そうだよ。でも、ちょっと昨日お前に悪いことしたかな〜と思ってな──」
昨日約束させなきゃ、二人で過ごせてたんじゃないかと思って。と慎はイスに座る。
昨日頼之は慎たちと飲みに行き、今日を天使渉と過ごす予定だったのだが、渉には今日予定があり、過ごせない。
「……仕方ない。そういう時もあるだろ──」
と頼之はコートと昨日渉から貰った手袋を身に着ける。
「出かけるのか……?」
「ああ。渉にプレゼントをな──」
頼之は手袋をつけた手を、開いたり閉じたりする。
慎はそれを見て、そういえば、と口を開いた。
「昨日、友梨香が天使くんに会ったって言ってたぞ」
「へえ──」
「それで、大事な人がいるって言ってたって聞いた」
友梨香は慎の妻で、昨日手袋を買いに行っていた渉と会ったのだ。
頼之は手を動かすのをやめて、慎を見る。
「名前までは聞いてないって言ってたけど、どうせお前だろ」
「……そうだといいな──」
頼之はきゅっと手を握り込んだ。
頼之は渉のプレゼントを買うため、外に出た。
慎も家に戻るということで、並んで歩いている。
「……あ、巧だ──天使くんの隣にいる」
大学より少し離れた所で、慎が弟の巧を見つけた。隣には、渉がいた。あとは数人の友人がいる。
「あれがお前の弟か」
「ん、そう」
「……そうか」
と頼之は少しの間巧を見つめる。
「何? 巧に嫉妬してんのか」
「な訳ないだろ──」
と頼之は苦笑いする。
すると慎が、
「天使くん、何してんだ?」
と渉を見て言う。
渉はスマホを取り出して、友人たちに、ちょっと先行ってて、という風なやりとりをしたあと、何やらスマホをいじり、よし。と笑うとポケットに突っ込んで、友だちたちの所に駆けていった。
「……さあ──ん?」
頼之は慎に言ったあと、コートの中で振動した携帯を取り出した。
「…………」
「……何だよ、ラブラブかよ──」
と慎は頼之の携帯を覗き込んで言った。
渉がスマホをいじっていたのは、頼之宛てにメールを打っていたからだった。
『件名:初めてのメールです。
本文:これから飲みに行ってきます。それじゃ、また明日(^^)』
頼之は、気をつけて。また。と返信して、携帯をしまった。
「楽しそうなら、何よりだ」
と頼之は呟く。
「そりゃそうだ──じゃ、俺はこっちだから。じゃあな」
「ああ──」
頼之は慎と別れて、デパートに向かった。
デパートに入って、頼之はケーキを買った。
二人で食べるのにちょうど良い、小さなイチゴのホールケーキ。
プレゼントを買おうと思ったのだが、前にマフラーをあげたので、他にクリスマスらしいプレゼントがケーキ以外思い浮かばなかった。
頼之はパックを手に、明日食べようか。と思いながら自宅に向かった。
*
夜、渉たちは居酒屋で飲んでいた。
「リア充がなんぼのもんじゃーい!」
と巧がジョッキをドンっとテーブルに置く。
座敷で飲んでいるので、多少酔いつぶれても、イスから落ちるということはない。
「巧、飲み過ぎんなよ?」
「ぶはははは、だいじょーぶ! 帰ったら寝るだけだ!」
「いや、そういう問題じゃ……」
と渉が苦笑いした時、ポケットでスマホが振動した。
「……誰だろ──」
少し隅に移動して、スマホを確認する。
「あ、サンタさんだ」
頼之から、メールが来ていた。
『件名:明日
本文:ケーキ食べよう。買った。』
はい、食べます! と返信をしてから顔を上げると、赤い顔の巧が目の前にいた。
「うおっ──!? 酔ってんだろ!」
「ぶはははは、酔ってないっ!」
顔を赤くしたまま、巧はにへらっと笑う。確実に酔っている。
「巧これで何杯目だよ──」
テーブルには、空のジョッキが三つ。
絶対酔ってる──! と渉は顔を引きつらせる。
「無礼講じゃーい、ヒック」
「何が無礼講だ!」
すると、渉のスマホが振動した。さっきよりも長い。電話だった。
「……もしもし?」
『テンシか──』
頼之からだった。
渉は巧を友人に預け、隅で会話する。
「どうしたんですか?」
『ちょっとな……声が聞きたくなって』
と頼之は静かに言う。
「ご、ご飯食べましたか?」
『ん。出前取った』
「そうですか──」
『でも、渉のご飯の方がいいな』
「…………」
『……テンシ?』
「も、もう切り」
ますよ──と言う前に、渉のスマホは巧の手に渡った。
頼之は、黙って耳を澄ます。
携帯の向こう側から、何やら争うような声と共に、渉ではない声が耳に入った。
『渉の彼女さんですかっ? こいつ、ホントは別に彼女いるんですよ〜サイテーですよねぇ〜こんな奴と付き合うなら、もっと他に──』
『やめろこの酔っ払い! すいません、巧が酔ってるだけです。今のは全部嘘ですから! じゃ、また明日──プツ……』
一方的に切られて、頼之は怪訝な顔になったが、携帯越しに聞こえてきた騒音を思い出し、仕方ないか……。と携帯を閉じた。
渉はスマホをしまいながら、巧を止めていた。
「いい加減飲むのやめろよ。帰るぞ──」
「あと一杯だけ〜」
「テンシ、新巻頼んだ!」
と友人たちはお金を置いて出て行く。
皆、巧の面倒は見たくないのだろう。
「はあっ?! ちょっ、お前ら覚えとけよ──?!」
友人たちは、悪い! と拝みながら、離れていく。
「はぁ……」
「……テンシ」
「ん?」
「さっきの、通話相手誰?」
テーブルに伏せながら、巧が訊く。
渉は、三田さんだよ。と答えながら、チュウハイを口に運ぶ。
「……お前の彼女、見たいな〜」
と巧が顔を上げて渉を見る。
「いつか連れてこいよ〜、ヒック」
「…………。飲み過ぎだ。ほら、帰るぞ──すいませーん、勘定お願いしまーす」
渉は、そろそろ巧に言っておかないとな……と勘定を済ませながら思った──
頼之「あったかい──(手袋)」
次回、ケーキ。




