表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/52

遠慮

クリスマス、予定が──

「よっ、ちゃんと言ったか?」


 大学の講義室で、新巻(あらまき)(たく)天使(あまつか)(わたる)に訊いた。

 昨日、巧は渉にクリスマスの予定を勝手に取り付けたのだ。


「あー……、言うの忘れた」


 と渉はリュックからノートを取り出しながら答える。

 昨日言うはずが、思わぬ来客がいたりと、頭からすっかり約束が抜け落ちてしまっていた。


「早めに言えよ? 相手にも予定とかあるんだからさ」

「わかってる。今日言うよ──」


 軽く口笛を吹きながらノートを出す巧を見て、渉は言った。


         *


「お。珍しい。今日は会社でやるのか?」


 コートをイスにかける三田(みつだ)頼之(よりゆき)に、新巻(あらまき)(しん)が声をかけた。


「ん、ああ──知らせに来たんだ。あと、これからやることの確認」

「へえ──あ、そうそう」

 

 と慎が頼之の隣に来て言った。


「今年も集まりあるんだけど、来るよな?」

「忘年会か? 忘年会は出ないぞ」


 どんちゃん騒ぎは苦手だ。とノートパソコンを起動させながら、頼之は言う。


「違う違う。そっちは自由参加だろ? 俺が言ってんのは、クリスマスイブの方だよ──」


 と慎が人差し指をチッチッチッと動かして言った。

 毎年クリスマスイブに、慎とその他の社員数名で居酒屋で飲む決まりが出来ている。

 なぜクリスマスイブなのかと言うと、皆が彼女や妻子持ちだったりするので、クリスマスは空けておくことにしているからだ。


「クリスマスは、天使くんと過ごすんだろ? でもイブだから大丈夫だよな」


 と慎は耳打ちして笑う。


「予定だけどな──そうだな。イブなら付き合おう」

「よし。絶対な。なら酔いつぶれても安心だな! 目一杯飲むぞ!」

「……ほどほどにしろよ──?」


 と頼之は、今から何飲もうか考えている慎を見て、苦笑いした。


         *


 渉はリビングで座りながら洗濯物を畳みつつ、頼之に切り出した。


「あの、サンタさん。クリスマスなんですけど、俺巧に誘われちゃって来れないんですけど、大丈夫ですか?」

「……クリスマスか?」


 と頼之が渉を見る。


「はい……、すいません。どうしても断れなくて──でも、イブなら大丈夫ですから、夜豪華にしましょう!」

「……悪い、イブは俺がだめだ」

「ぇ……そうなんですか……」


 と渉は畳む手をとめて、頼之を見た。


「俺も断れないんだ……。もう少し、俺が早く誘えばよかったな」


 頼之は苦笑いして言った。


「付き合って初めてのクリスマスは、渉と過ごそうって思ってたんだが。遅かったな──」

「ぁ……違います! 俺が昨日誘われたのに、言うの忘れたから……」


 と渉はぎゅっとタオルを握る。


「そういう時もあるさ。仕方ない──」

「でも……、あ! 今からでも断れるかもしれないし、巧に」

「いい──俺も言わなかったのが悪いんだ。来年一緒に過ごそう」


 と頼之は微笑んだ。それからソファーに寄りかかり、目を閉じる。


「…………はい──」


 と渉は返事をして、タオルを伸ばしてから畳む。

 畳みながら、サンタさんは気を遣ってるんじゃないか? と思う。

 いつも微笑んでばっかで、肯定する。嬉しいけど、気は遣わないでほしい──と渉は頼之を見つめる。


「サンタさん……」

「ん?」

「気、遣ってないですよね?」

「……気?」


 とソファーから体を起こして、渉を見る。

 渉はタオルに視線を落として言う。


「そうです……。まずいのにおいしいとか、嬉しくないのに嬉しいとか──」


 渉が前を見ると、いつの間にか頼之が前にしゃがんでいた。


「気は遣ってない。……そうだな、遠慮はしてるかもしれない」

「え……?」


 頼之はそっと渉の頬に手を添える。


「口に、キスしてみようか。でも、拒まれたら嫌だな……とか?」


 親指で、下唇をツー……っと撫でる。

 渉はきゅっと口を結んで、頼之を見つめる。触れられた所から熱くなって、鼓動が速くなっていく。


「……悪い、からかいすぎた──」


 そっと立ち上がって頭を軽く撫でると、頼之はキッチンに向かった。

 渉はぼやっとした頭の中で、整理する。

 サンタさんは、口にキスしたいけど、遠慮してる……?

 頼之は、いつも(ひたい)や頭、頬にキスをする。確かに今まで、一度も口にしてきたことはなかった。


「……サンタさんっ──」

「アドレスと電話番号交換しよう」


 と頼之は携帯を渉に見せる。

 渉は出鼻を挫かれ、はい……。とポケットからスマホを取り出す。


「交換してなかったからな」

「そう、ですね──」


 頼之は携帯をカチカチと打って、準備を始める。

 渉もタップして、準備する。


「赤外線か?」

「あ、はい。じゃあそれで──」


 と渉は頼之の所に向かう。

 交換して、登録する。


「よし……。これでいつでも連絡出来るな」

「……サンタさん」


 ん? と頼之は携帯を閉じて渉を見る。

 渉は頼之を見上げて言った。


「遠慮しなくていいです──俺、遠慮してないし。それに……サンタさんなら、大丈夫だから……。でも、他の同性だったら……絶対無理! サンタさんだけだから!」


 必死に言った渉を見て、頼之はぷっと笑ってから頷いた。


「わかった──そうか……。ありがとう」


 頼之は笑って、渉を抱き寄せた。


「お、お礼を言うほどのことじゃないと思いますけど……」


 と渉も少しだけ、腕を回す。

 今まで腕を回してきたことがなかったので、頼之は嬉しくなり、ぎゅっと抱きしめた──





渉・頼之(プレゼント、何にしようか……)


次回、クリスマスイブ──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ