翌日
翌日。
朝、三田頼之は起きて、ふっと微笑んだ。
ベッドの隣のすぐ下で布団を引いて、天使渉がすやすやと寝ていたからだ。
「……治ったな──」
頼之は額の熱さまシートを剥がして、ゴミ箱に捨てた。
そして、ぐっと伸びて関節をチェックする。痛くはない。
「ふぅ……。風呂入るか……昨日入ってないし──」
一人呟いてベッドから下りる。
ついでにしゃがんで、渉の頭をそっと撫でてから、頼之は寝室を後にした。
*
「……ん〜、……あれ?」
渉は起きて、ベッドに頼之がいないのを見て、ばっと立ち上がった。
それから、すぐに寝室から出ようとして、使った布団を片さなければといういつもの習慣が頭をよぎり、はやる気持ちを抑えて布団を片してから、寝室を後にした。
「サンタさん──! あれ……?」
リビングに頼之はいなかった。キッチンにもいない。
「ん? ……あ、お風呂か」
微かに聞こえてきたシャワーの音で、渉は理解した。
「じゃあ……朝ご飯の準備しようかな──」
そう言って渉は顔を洗ってから、昨日頼之が言っていた卵入りのお粥を作り始めた──。
*
「さっぱりした──ん、いい匂いがする」
「あ、お粥出来ましたよ。治ったんですね!」
良かった〜、と渉が安心したように笑う。
頼之は、ああ。と頷いて、準備が整っているテーブルの前のイスに座った。
渉も頼之の前のイスに座り、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます──」
渉は頼之が食べるのを見て、感想を待つ。
「……、うん。おいしい」
と頼之は渉を見て言った。
渉は少し赤くなりながら、良かった。と笑う。
「ん……。そういえばテンシ、お風呂入ったか?」
「あ、はい。昨日入りました。まずかったですか……?」
と渉は手を止めて頼之を見る。
頼之は、いや、まずくない。と食べながら言う。
「遠慮して入ってないんじゃないかと思ってな」
「あー……、ちょっと迷いましたけど、やっぱり入りたかったんで」
と渉は頭を掻く。
頼之はふっと笑って、そうか。とお粥を口に運んだ。
*
「サンタさん、仕事なんてありませんよね?」
朝ご飯を食べ終えて、渉は食器を洗いながら頼之に訊く。
頼之はテーブルのイスに座ったまま、渉を見て言った。
「うん。今日はない──しいて言うなら、テンシとの時間を楽しむ予定だな」
カチャンッとスプーンを落として、渉は慌てて拾い上げた。
「何言ってるんですか……っ!? 今日一日は安静にしてくださいよ?!」
「っはは、わかってる──」
と頼之は微笑んで、ソファーに移動する。それから渉に声をかけた。
「テンシ、DVD観ようと思うんだが、一緒に観ないか?」
「へぇ、どんなのですか──?」
と渉は食器を洗い終えて、ソファーに向かった。
「漫才やコントだな」
「観ます観ます! てかサンタさんお笑い観るんだ」
「結構な──渉、隣」
と離れて座ろうとした渉に、頼之は手招きする。
渉は一瞬戸惑ってから、失礼します……と隣に座った。
「こうやって、並んで座るのは初めてだな」
「そうです、ね……」
と渉はぎこちなく答える。
向かい合って座ることはあっても、並んで座ることはなかったので、渉は少し緊張していた。
「じゃ、ちょっと準備するから待ってろよ」
と頼之は立ち上がって、テレビの下のデッキで準備を始める。
そして準備を終えて、リモコンを手にした頼之は渉の隣に戻った。
「楽しみだな」
「はい……──」
と渉は、少しどぎまぎしながら頷く。
そんな渉に気づいていない頼之は、再生ボタンを押して、前の低いテーブルにリモコンを置いた。
テレビでは、男性二人組が、どうもどうも〜! と手を叩いて舞台に上がり、漫才を始めた。
「…………ふっ」
しばらくしてから、小さく笑う声がして、渉はそっと隣を見た。
見ると、頼之が面白そうに笑っていた。
「面白いな、このコンビ」
「……ぁ、はい。そうですね!」
笑っている頼之を見ると、緊張する必要なんかないじゃん、と渉は思った。
それからは、笑って漫才やコントを堪能した──。
*
DVDを見終わると、ちょうどお昼になる頃だった。
「今日は、チャーハンにしますか」
「じゃあ、俺も手伝おう──」
渉がキッチンで腕捲りをしていると、頼之も腕捲りしてキッチンに入った。
「え……大丈夫ですか? 包丁持ったこととか?」
「ない」
「え……。じゃあいいですよ、危ないし」
「手伝いたいんだ。めったにこういう機会はないから──」
だめか? と頼之は渉を見る。
渉は悩んだ結果、炒めるのをやってもらうことにした。
「……渉、上手いな」
頼之は隣で、野菜などを手際よく刻んでいる渉を見て言う。
渉は、当たり前でしょ、毎日やってるんですから。と得意気に言った。
「……じゃあはい、炒めてください──」
と渉がフライパンに野菜をいれて、頼之に混ぜてください、と指示を出す。
「よし、任せろ──」
と頼之はおぼつかない手つきで、野菜を炒めていく。
そこに渉が塩胡椒をして、ご飯も投入する。
「……なんか、腕痛くなってきたな……」
「じゃあ代わります。サンタさんはお皿とか準備してください──」
と渉が炒めるのを代わる。
頼之は食器棚からお皿を出しながら、渉に訊く。
「テンシは、いつも腕が痛くなったりするのか?」
「ん〜……作る物にもよりますけど──」
と頼之が出したお皿に、渉は盛りつけていく。
そして盛り付け終わった頃に、頼之はすっと渉を抱きしめた。
「……サンタさん?」
「うん……抱きしめてなかったから──」
耳元で声がして、渉はドキドキし始める。
「さ、サンタさん、冷めますから! チャーハン冷める前に食べましょうよ……!」
「冷めたら、レンジで温めればいい──」
頼之は離す気がないらしく、まだくっついている。
「ちょっ……サンタさん──」
「おーっす、治ったか……?」
「っ……!?」
渉は声がした方を見て固まった。
渉が見た方向には、コンビニの袋を持った新巻慎が立っていた──
慎「俺、参上──(笑)」
次回、頼之に抱きしめられているのをばっちり見られた渉は……




