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そばに──

「帰れ」と言われたけど──

※後半、軽いキスシーンあり。

 外に出てから、天使(あまつか)(わたる)はドアに背中を預けた。


「……なんだよ、帰れって──」


 うつしたら大変って……自分の方が今大変なくせに……。と渉はむかむかしてくる。


「…………よし──」


 そしてあることを思いつき、渉は歩き出した──

   

         *


 三田(みつだ)頼之(よりゆき)は、一人カップラーメンを食べてから、ベッドに横になっていた。


「……はぁ──」


 温もりが欲しい……、寒い……。

 暖房をいれたはずなのに、寒さは変わらない。


「……帰さなきゃよかったな……」


 口から漏れた本音に、頼之は苦笑いする。

 

「だめだな……これじゃ──」


 そう言って目を閉じ、また眠りに落ちた。


         *


「……なに? そんな荷物持って。泊まり?」

「え? ……あぁ、うん──明日講義ないから。それに、明日の夜には帰って来る」


 と渉は着替えを詰めたカバンを抱えて、母に言った。


「どこに泊まるの?」

「三田さんとこ。前に手伝いしに行くって言ったところ。風邪引いてるみたいだから、看病してくる」

「ふーん……そう。行ってらっしゃい」

「んー。行ってくる──」


 渉は頷いてから靴を履くと、家を出た。


「さてと……。ゼリーとか、何か栄養になる物とか買って──」


 と自転車の前かごに荷物を詰め込み、サドルにまたがる。

 そして、近くのコンビニに向かって漕ぎ始める。


「んで、帰れって言われても、絶対帰らん──」


 サンタさんが怒ったって絶対帰らないで、そばに居てやる……! とさっきのむかむかを決意に変えて、足に力を込める。


「ぁ……でも……」


 嫌われたらやだな──と一瞬そんなことが渉の頭をよぎったが、それよりもサンタさんの容態の方が今は大事だと思い直し、スピードをあげるのだった。


         *


「……ん……?」


 頼之は目を覚ますと、(ひたい)に違和感を覚えた。

 触ってみると、それはよく熱が出た時に貼る、熱さまシートだった。

 こんなの貼った覚えはないんだが……? と少しの間考えていると、寝室のドアが開かれた。


「あ、起きちゃいましたか? 何か飲みます? ポカリとか」


 とコンビニの袋を持った渉が入ってくる。


「なんで──」


 帰ったんじゃ……? と頼之は上体を起こして座る。


「……飲むゼリーとかも買ってきましたし、お腹空いたら飲んでください。置いておきますから」


 頼之の言葉を軽く無視して、渉は続ける。


「まだ熱あるみたいなんで、熱さまシート貼っときました。あと、まだ夜なんで寝て大丈夫ですよ。俺、起きてますから」


 とビニール袋からペットボトルのポカリスウェットと、飲むゼリーを取り出して、近くの小さい机に置く。


「……。渉──」

「帰りませんよ。俺」


 頼之が言うよりも早く、渉は口を開いた。


「絶対、帰りませんから。サンタさんのそばに居ますからね! 怒ったって無駄ですよ──それに、弱ってるときって、一人は寂しいじゃないですか……。小さい頃風邪引いたとき、俺一人で寂しかったんです。だから、余計なお世話かもしれないけど、サンタさんが寂しくならないように、俺が近くで看病します」


 そう言って、渉は真剣な目で頼之を見た。

 頼之はぽかんとしたあと、口元に手を持ってきて笑った。

 

「なっ、なんで笑うんですか!?」

「っ……いや、ははっ……。それじゃあ俺が子どもみたいだと思ってな」


 そう言われてから、渉はハッとして訂正する。


「あ、いや、べつにバカにしたわけじゃ──」

「わかってる。ありがとう。嬉しいよ」


 とわたわたと両手を動かす渉を見て、頼之は微笑む。

 それを聞いて渉は、恥ずかしいのと嬉しいので、頼之から目を逸らして訊いた。


「……怒らないんですか?」

「なんで?」

「帰れって言われたのに来たから……。サンタさん怒るかと思った」


 渉はベッドの近くに丸イスを持ってきて座る。


「……ほんとはな、帰さなきゃよかったって思ってたんだ」

「え……?」

「今日はまだ、ちゃんと話せてなかったしな。それに、抱きしめればよかったと思ってたから──でも……まだ触れないな」


 治ってからじゃないと、と頼之は苦笑いする。

 渉はさっきよりも恥ずかしくなって俯く。


「は、早く治してくださいよ……? 俺、サンタさんが辛そうにしてるの見たくないですから……」


 さっきもちょっとうなされてたし……と渉は黙る。


「あぁ──明日にはよくなってるよ。なんたって、渉が居てくれるんだからな」

「……ぁ、えっと……そうだ! 俺、朝ご飯のお粥作ってきますね──!」


 とうとう恥ずかしさに耐えきれなくなった渉は、イスからさっと立ち上がって行こうとする。

 だがそれは、頼之の手によって阻止された。


「明日でいい」


 渉は頼之に腕を掴まれ、振りほどくことができなかった。

 頼之は渉を見て、もう行かないだろうと判断すると手を離す。


「……顔、赤いぞ? うつったか?」

「うつってません……! 恥ずかしいんですよ……」


 と渉はストンとイスに座り直す。


「恥ずかしい? どうして」

「サンタさんが、恥ずかしくなるようなこと言うから……」

「……言ったか?」

「言いましたよ──ありがとうとか嬉しいとか……抱きしめたかった的なこととか、俺がそばに居るから治る、的な……」


 渉は顔が赤くなるのを感じて、ふいっと横を向く。


「そんなの、普段言われ慣れてないのに、サンタさんに言われたら、恥ずかしいに決まって……」


 チュッと、頼之が頬にキスをした。

 渉はぽけーっと頼之を見る。


「……悪い。つい……、うつしたらごめんな」


 と頼之は謝る。


「なっ……、許しません! それより早く寝てくださいよ!」


 渉は赤くなりながら、頼之に言う。

 頼之は笑うと、はいはい。と上体を倒した。


「……おやすみなさい」

「おやすみ──渉」

「はい?」


 とイスから立ち上がった渉は頼之を見る。

 頼之はすっと手を伸ばしてから、何を思ったのか手を伸ばすのをやめて言った。


「……明日、大学は?」

「あぁ。明日は、講義ないんで行きません。だから、明日はずっと居ますよ」

「そうか……。じゃあ明日だな──」


 と頼之は笑う。

 渉は意味がわからず首を傾げる。


「明日、何かあるんですか?」

「いや、なんでもない──朝ご飯は、卵入りのお粥がいいな」

「そのつもりです。おいしくなるように頑張りますよ」


 と渉は力こぶを作るように腕を曲げてみせた。


「……それは楽しみだ──」


 頼之はふっと笑ってから目を閉じた。

 そして、明日治ってたら、テンシを抱きしめよう。と思いながら、夢に落ちていった──




熱さまシートを貼ったとき。

渉「熱さまシート、貼っときますね……(ペタリ)」

頼之「……っ──ん……(一瞬歪んでもとに戻る)」

渉「……寝顔(微笑む)」


次回、翌日。

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