表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/52

距離と鍵

黒いマフラーと合い鍵──

※途中キスシーンあり。

 天使(あまつか)(わたる)三田(みつだ)頼之(よりゆき)に気持ちを伝えてから、二人の距離は前と変わった──。


「どう? 彼女に言えたか?」


 大学の講義室で、新巻(あらまき)(たく)が隣に座って講義の準備をしている渉に訊く。


「……まあ、うん。言った」


 “彼女”じゃないけど。と思いながら、渉はリュックからノートと筆箱を出しながら答えた。


「どうだったよ」

「……うん。喜んでたと思う」

「やったな! あ、でも大変じゃね?」

「何が?」


 巧はだって、と前置きしてから言う。


「テンシ、毎日家事の手伝いしに行ってるだろ? そしたら、彼女とデートとかする時間なくないか?」

 

 渉は一瞬ドキッとしてから、笑って言った。


「べつに、手伝いが終わってからでも時間あるし、大丈夫だよ、うん」

「そっか──てか、手伝いしに行ってる人の名前は? 聞いてなかったけど」

「お兄さんから聞いてないのか?」

「んー。なんか、(かたく)なに教えてくんなかった──あ、でも仕事以外だらしないってことは聞かされた」

「へえ……」


 何で巧に紹介しなかったのか、何となくわかる気がする……。と思いながら、渉は巧を見て言った。


「三田頼之さんって人のとこ」

「そうなの──。てかさ、社会人で仕事以外だらしないって……やばくね? ちゃんとしろよって感じ」


 そう言った巧に、渉はむっとして口を開いた。


「ちゃんとしてるよ──ただ、それが仕事以外に向けられないだけだ」

「そうだとしてもさ、俺はそうはなりたくないね」

「じゃあお前、家事全般出来るようにしろよ」


 と渉は冷たく言い放った。

 巧は渉の異変に気づいて首を傾げた。


「……何怒ってんの?」

「べつに怒ってないけど」

「怒ってんじゃん。むっとしてる」


 と巧は自分の眉間を指差して渉に言った。

 渉はすっと自分の眉間に手をやって、あ……と気づいた。若干シワが寄っていた。


「……ごめん。怒ってないんだけど」


 と渉は眉間をさする。 

 巧はいいよいいよ、と手をひらひらさせると、


「俺にはいいけど、彼女にそんな顔見せんなよ? 怖がられるからな」


 と言う。


「はは……気をつけるわ」


 と渉は苦笑いした──。


         *


「こんにちは──」

「おぉ……寒くなかったか?」


 頼之は部屋に招き入れながら、渉に訊く。


「だいぶ寒くなってきました。もう冬が近いんですかね」


 そう言った渉の鼻の頭は、少し赤くなっていた。


「……テンシは、ここまで何で来てるんだ?」

「えっと……自転車で来てます。家から大学まで自転車で行って、そのままサンタさんのとこに──」


 と内側がもこもこしているパーカーを脱ぎ、テーブルのイスに掛けながら答える。


「手袋とか、マフラーはしないのか?」

「まだ大丈夫ですよ。それに、動くと(あった)まるし」


 と渉は袖を(まく)って、キッチンに向かう。


「それより、サンタさんこそ体気をつけてくださいよ? 寒くなってきてるから」

「大丈夫だ。ちゃんとベッドで寝てる。それに──」


 頼之はキッチンで食器を片している渉の後ろに立つと、そっと腕を腰に回して顔を肩に乗せた。

 頼之の髪が、渉の頬に当たる。


「……こうすれば、暖はとれる」

「ちょ、ちょっと、洗いにくいじゃないですか……」

「あと一分──」


 渉はスポンジを手にしたまま止まって、ふと思い出したことを頼之に言う。


「……今日巧に、サンタさんのこと悪く? 言われて、俺ちょっと怒ったぽくって……眉間にシワが寄ったんですよ。何かむっとしちゃって──」


 おかしいですよね。と渉は笑う。

 それを聞いて、頼之は優しげな声で言った。


「おかしくないさ。俺だって、渉のことを悪く言われたら、眉間にシワぐらい寄る──大体、恋人を悪く言われたら、誰だってそうだろ?」


 渉は頼之の言った一言に、ドキリとした。


「……恋人、ですか?」

「他に何がある? 付き合ってる人か?」

「俺たち、付き合って……るん、ですか?」


 渉はドキドキしながら頼之を見る。

 頼之は渉から離れると、あたりまえのように言った。


「そうだろ? それとも、好きだけじゃ足らないか?」

「えっ、あ、いや……その、付き合ってくださいとか、そういうの言ってなかったから……」


 と渉はしどろもどろになりながら頼之を見る。


「確かに、言ってないな……。けど──」


 チュッと渉の頬にキスをすると、頼之は微笑んで言った。


「付き合ってなければ、こういうことはしない」

「……っ?!」


 渉はボッと顔が熱くなった。


「はは。(あった)まったろ?」

「あ、熱いですよっ……!」


 渉はスポンジを泡立て、食器を洗い始める。

 頼之は笑って、テーブルのイスに座り、渉を見る。

 カウンターキッチンなので、テーブルのイスに座ってても渉の姿がよく見える。


「……サンタさん仕事は?」

「今日の分は終わりだ」

「そ、そうですか……っ──!」


 渉は赤くなっている顔が恥ずかしくて、隠せないのはわかっているが、俯いて頼之に見られないように食器を洗った──。


         *


「じゃ、また明日──」

「ちょっと待て」


 と頼之は部屋から黒いマフラーを持ってくる。


「……お出掛けですか?」

「違う──ほら、これで(あった)かい」


 頼之はマフラーを渉の首に巻いた。


「来たとき、鼻の頭が少し赤くなってたからな。帰りはもっと寒い。だから、していけ」

「え……でも」

「俺はコートで首が隠れるから、まだマフラーは使わない。だから、それは渉が使え。それにマフラーはあと一つあるからな──手袋はなかったから、諦めた」


 渉は気遣いが嬉しくて、笑って頼之を見る。


「はは、ありがとうございます」

「あとこれな──」


 と頼之は部屋の鍵を渉に渡した。


「もし俺がいなかったりしたら、それで入ってくれ。外は寒い」


 渉は渡された鍵を見てからぎゅっと握り込んで、


「はい。わかりました──」


 とリュックにしっかりとしまった。


「気をつけてな」

「はい。また明日──」


 渉はドアを開けて、外に出た。

 少し風が吹いたが、渉は頼之がくれたマフラーのおかげで、寒くは感じなかった。


「……サンタさんの臭いだ……」


 マフラーから、少しだけ頼之の臭いがした。

 渉は頼之に包まれているような気がして、(あった)かくなるのを感じた──





巧「兄貴、兄貴の友だちってどんな人?」

慎「……仕事以外だらしない奴だな」

巧「へぇ……(テンシ大変そうだな……)」


投稿は、諸事情により今月出来ても一回、来月の第二週、もしかしたら三週目からになるかもしれません……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ