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くしゃみ

くしゃみ。

「っくしゅっ……さむ──」


 三田(みつだ)頼之(よりゆき)は、仕事部屋で身震いした。

 夢中でパソコンと向かい合っていたので、暖房をいれるのを忘れていたのだ。

 指先が冷えてきていた。


「はぁ〜……」


 両手に息を吐きかけて、手をこすりあわせる。


「……コーヒー──」


 かけていた眼鏡を外して近くの机に置くと、頼之はキッチンに向かった。


「さすがに、夜は冷えるな……」


 コーヒーを淹れて一口飲むと、体に染みるように広がった。


「はぁ……、もう一頑張りしたら寝るか──」


 コーヒーを仕事部屋に持って行き、頼之はまた眼鏡をかけてやり始めた──。


         *


 ──ヴーヴー、ヴーヴー、ヴーヴー


「……はい」

『もしもし? 俺だけど』

「あ゛〜……」


 携帯に耳を当てて、頼之はぼーっとする頭を働かせる。

 電話の相手は、新巻(あらまき)慎(しん)だ。


『なに? お前、今起きたの?』

「ん゛〜……そうだ──」


 と頼之は仕事部屋でまた身震いして、机に伏せていた状態からゆっくり起き上がる。


「いたたたた……」

『ベッドじゃないのか?』

「あぁ……昨日は、仕事部屋で一頑張りしたら寝ようと思ってたんだが、そのまま寝てしまったらしい……っくしゅんっ」

『大丈夫か?』


 と携帯の向こう側で、慎が心配そうに訊く。


「大丈夫だ。……っくしょんっ」

『ほんとかよ』

「……あぁ──」


 カップを持って、頼之は仕事部屋から移動する。

 そしてキッチンに行き、カップを水道に置く。


「……で、何か用か?」

『あぁ──なんかな、仲原(なかはら)が体調崩したとか何かで、俺らに仕事が回ってきたから、知らせとこうかと思って』

「取りに行った方がいいのか? それともお前が届けてくれるのか?」

『取りに来いよ……。今俺会社だから──』


 大体、取りに来るのが普通だろ。と慎は呆れたように言う。


「……わかったよ、取りに行く。またな──」


 頼之は携帯を閉じてから、会社に行く準備を始めた──。


         *


 会社に着いて、頼之は自分の仕事場に向かう。

 

「っくしゅんっ……」


 ずびっと頼之は鼻をこする。


「……やばいな」

「おぉ、来たか──」


 と慎が茶封筒を持ってやってくる。


「……あぁ。来ないわけにはいかないからな」

「そりゃそうだ──。はい。これ、お前の分な。やってくか?」

「いや、家でやるよ──家の方が気楽だからな」


 茶封筒を受け取って、頼之は言う。


「そっか──ちなみに、それ期限明日までだから。気張れよ?」

「このぐらい余裕だろ。じゃあな」

「ははっ、さすが頼之だ。またな──」


 頼之は慎に軽く手をあげて、踵(きびす)を返した。


 外に出ると、冷たい風が頼之を包んだ。


「さぶ──」


 体を縮めて、頼之は乗ってきた車に急ぎ足で向かった──。


         *


「失礼しまーす」

「……だから、お前が言ったとおりにやってるだろ──?」


 天使(あまつか)渉(わたる)が頼之の部屋に来ると、頼之は誰かと電話をしていた。


「指定した所がちょっと違う? 仲原がそう言ったんだろ? はあ? ……あぁ。うん──」


 頼之は渉に気づくと、悪いな。というように片手を顔の前に持ってきて渉を見た。

 渉は、大丈夫ですよ。というように手を振って、家事を始める。


「……ああ。それでいいんだな? ん。わかった。お大事にな──」


 携帯を閉じて、はぁ。と頼之は息を吐く。


「仲原さんですか?」


 洋服を集めながら、渉が頼之に訊く。

 頼之は頷いてから答える。


「あぁ。体調崩したらしくてな。その分が俺と新巻に回ってきてて……っくしょんっ──」

「大丈夫ですか?」

「んん。大丈夫だ……」


 ずずっ、と鼻水を啜って、頼之は鼻をこする。


「……仲原の分をやらなくちゃいけなくなったんだが、あいつはこだわりがあるから、コピーして送ってもすぐダメ出しの電話が掛かってきてな……。でも期限は明日までだから、今日中に終わらせないといけないんだ」

「そうなんですか……」


 大変だな。と渉は思いながら、


「頑張ってください」


 と言った。

 頼之は笑って、ああ。と頷く。


「今日は、勝手に帰っていいからな。テンシが終わるまでに仕事が終わりそうにないんだ」

「そうですか……。わかりました」

「ん。じゃ──」


 頼之は渉が頷いたのを確認してから、仕事部屋に向かった──。


         *

  

「っくしょんっ──」


 手をこすりあわせながら、鼻を啜る。


「頑張らないとな──」


 キーボードに手を乗せて再開しようとしたとき、渉がコーヒーを持って入ってきた。


「寒くないですか──? えっと、これ。淹れたので、よかったらどうぞ……」


 と近くの机に置く。


「渉」

「はい?」

「ありがとう──」


 すっと渉の腕を引いて、抱き寄せる。

 ちょうど渉のお腹に頼之の頭がくる。


「どう、いたしまして……」

「……砂糖は少なめか?」

「す、少なめです──ね、寝るとき! ちゃんとベットで寝てくださいよ? 風邪引きますから……」


 と渉は少しドキドキしながら頼之に言う。


「わかってる──」


 頼之はそんな渉を見てふっと笑うと、そっと離れて手首を回してから、キーボードに手を乗せた。


「……じゃあ、また明日来ます」

「あぁ──」


 渉が仕事部屋を出て行くのを見送ってから、頼之はキーボードを打ち始めた──。


         *


「……終わった──」


 途中渉が作った夕飯を食べたり、お風呂を済ませた。

 それから頼之は、仕事部屋でずっと仕事をしていた。

 頼之の悪い癖は、夢中になると他のことに一切気が向かないことだ。

 なので、暖房をいれていなかった……。

 そして、仕事が終わったという解放感と、集中して疲れた目を休めようと目を閉じてしまったが最後。


「……数分だけ…………」


 と寒さよりも疲労の方が勝ってしまった頼之は、数分後に起きることなく、そのまま眠り続けた──




頼之「──っくしょんっ」

渉「サンタさん。これどうぞ(ティッシュを渡す)」

頼之「ん……ありがとう(受け取って鼻をかむ)」


次投稿するのは、来月の第二、三週目からになります。

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