プロローグ
人は黒と聞いてなにを思い浮かべるだろうか?
夜、宇宙、ブラックホール、闇。
俺が瞬間的に思い浮かべられるものはそのくらいだ。中でも闇なんて漆黒の、なんてつけて黒歴史ノートに書き込みたいくらいだ。
元々黒と言うものは、
「そこに光が全く存在しないということ」か、
「そこにある物が全ての光を吸収しているか」
のどちらかであるから、実際に人間が見ている黒の中に本当はなにが在るのかは誰にも見えないと言えるかもしれない。
こんなことを考えるのは中学2年生かもしくは、2年生を過ぎても妄想に浸る存在が黒歴史な人間のどちらかだと思うが。
…しかし
「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。本当どうでもいい…」
そう俺はそんなことを考える暇などないのだ。今までの話は全て現実逃避なのだから。いや、走馬灯の一種なのかもしれない。
今俺は走っているひたすら走っている、逃げて逃げて逃げている。別に何か悪さを働いたとかキレた暴力系美少女に追いかけられているわけでもない。
自分が何から逃げているのかすらわからないのだ。夜でも宇宙でもブラックホールでも闇でもない何かから。何かわからない黒くて暗い見えない何かから。ひたすら逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて。どこともわからない裏路地を走っている。息を切らしながらただ前だけを見つめ、後ろは絶対振り返らない。
そうしないとすぐ後ろから塗りつぶされそうで、ただがむしゃらに走る。
どのくらい走っただろう。恐らくそんなに時間は経ってないのだろうが、この時間が永遠に感じるほど背後のなにかに圧倒されていた。
その時、目を凝らすと前にほんの少しの光が見えた。
俺は全力で走った
広い道が見えた
並んでいる店から漏れる光
助かった
だんだんその光に近づく
目の前に光が来たとき
道にでる直前後ろへ
振り向く
そこに「何か」は来ていなかった
よかった…
そう思った俺は安易だったんだろう。
こういう時は振り返ってはいけなかったのだ。
後ろになにもないということは必然的にそのなにかは別のところにいるのだということを考えなければならなかった。
今まで見聞きしてきた物語の経験でこの展開は予想できたはずだった。
そして俺は前にあったはずの自分の影が、後ろから照らされる光と共に消えたことで気づく。
諦めたように前に向き直る
そして俺は目の前にあるものに呆れた。
そこにはあった。黒く暗い見えないなにかが。
間近で見たそれは何故か泣いているようにみえた。
やっとわかった…こいつは影だ。
暗くて見えないくらい黒い。
「…またあったな。」
諦めそう笑い掛けた俺に、影も笑い返した気がした。
そして意識は途絶える。