焼きおにぎり、フライパンに立つ
波の音が「ザザーン、ポカポカ」と妙にのんびり響く不思議な島、ポカポカ諸島。
ここには、人間界の常識なんて一切通用しない、愛らしくもシュールな生き物たちが暮らしている。
真っ白な砂浜の真ん中。カセットコンロの上に鎮座する大きな黒いフライパンの中で、一頭身の巨大なおにぎり——通称「ニギリ先輩」は、じっと遠くの水平線を見つめていた。
「おい、ニギリ先輩。今日の海は青いねえ」
「ああ、そうだな……ところでキビ丸、火加減はどうなっている?」
「強火の遠火って言いたいところだけど、カセットコンロだから中火だよ。いい感じにパチパチ言ってる!」
踏み台の上にちょこんと乗り、小さな木べらでニギリ先輩の表面に特製醤油タレをヌリヌリしているのは、黄色くて丸い身体の「キビ丸」だ。自称・ポカポカ諸島の三ツ星シェフである。
「よしよし、香ばしい匂いがしてきたぞ。この海苔の巻き具合もバッチリだ。先輩、熱くないかい?」
「うむ。お米の一粒一粒が情熱で燃え上がっておる。だがな、キビ丸……足元を支えてくれているモチ太の様子が少しおかしいのだが」
ニギリ先輩が目線を落とすと、フライパンの長い取っ手を小さな両手で必死に掴んでいる薄ピンク色の「モチ太」がいた。モチ太はぷにぷにの体をプルプルと震わせ、白目をむきかけている。
「ひ、ひぃぃ……! 重い……っ! ニギリ先輩、今日ちょっと米の密度が高くないスか!?」
「すまんモチ太、今朝はツナマヨをいつもより余計に詰め込んでしまったのだ」
「ツナマヨ入ってるの!? 焼きおにぎりに!? 贅沢だけど重いよぉぉぉ!」
モチ太が泣き叫ぶ横で、砂浜にぽっかり開いた穴から、水色の「モグ」がひょっこり顔を出した。その手にはなぜか銀色のフォークが握られている。
「まだ〜? こんがり焼けた〜? ボク、お腹空いたんだけど」
「ちょっとモグ! フライパンの真下からフォーク出して狙うのやめなよ! 穴掘りすぎだし!」
「だって下から突ついた方が、中のツナマヨに早く到達できるでしょ」
「直直に食べる気か! 焼き上げる儀式というものを大事にしなさい!」
キビ丸が木べらを振り回して怒ると、浅瀬の方からぷかぷかと妙な一行が近づいてきた。
大きな白いアヒルに跨がり、頭に赤い三角パイロンを被った紫色の「パイロンくん」だ。手には竹の釣り竿を持ち、のんびりと糸を垂らしている。
「みんな、なにやってるの〜? 香ばしい匂いが海まで漂ってきたよ〜」
「見ればわかるでしょ! ニギリ先輩を香ばしい焼きおにぎりに仕上げる至高のプロジェクトだよ!」
「ふ〜ん。ボクも釣りのエサに醤油塗ろうかなあ」
「やめなさい! 魚が引く前にタレが海に溶けるわ!」
沖合では、水面から一本だけ生えた緑色の「きゅうり師匠」が、無表情のままじーっとこちらを見つめている。
さらにその隣では、ピンク色のアイスにチェリーを乗せた「チェリーちゃん」が、波に揺られながら「焦がさないでね……焦げは苦いからね……」とボソボソ呟いていた。
そして一番奥で静かに佇むのは、頭に小さな赤タコを乗せた巨大な白い島「タコ島さん」だ。タコ島さんは哀愁を帯びた目で、ただじっとコンロの火を見つめている。
「よし! 醤油の二度塗りに入るぞ! モチ太、耐えろ!」
「限界突破ぁぁぁ!!」
「モグ、フォークを下げなさい!」
「やだ、焦げ目のカリカリしたとこ狙ってるんだもん!」
ポカポカ諸島の平和な朝は、香ばしい醤油の香りと、ちぐはぐな仲間たちの賑やかな大騒ぎとともに明けていくのであった。




