第119話 姉妹の再会
アルヒ王国西部の村に自由の羽でやってきたルクスは、飛翔を使って、海上都市ベルムマレにいる聖女の一団に合流した。
「おかえり、ルクス」
「おかえりなさい、ルカ君」
「ただいま、バート、ラエティティア」
「それで、どうだった?」
心配そうなバートの表情を見て、ルクスは満面の笑みを浮かべ「万事解決!」と言った。
「あ、説明すると長くなるから、宿屋の中で話そう」
ルクスとラエティティアとバートは中に入った。そして、当事者である聖女ヨナのもとに向かった。
ヨナは丁度、一階のラウンジにいた。
「!ルクス様、姉は、姉は生きていますか?」
「うん、生きてる。無事救出したよ」
「良かったです……」
ヨナは緊張の糸が切れたのか、バートの胸に飛び込んで、泣きだした。
「ヨナ様……」
バートはヨナの背を擦った。
ヨナが泣いている間、ルクスはラエティティアと共にラウンジの近くにあるカフェでオレンジジュースを四つ購入した。
ラウンジにある机に、ラエティティアと共にオレンジジュースを四つ並べたルクスは、ヨナが泣き止んだのを見計らって声を掛けた。
「じゃあ、みんなでオレンジジュースを飲みながら話そうか」
ちなみに、オレンジジュースはベルムマレでよく飲まれる名物飲み物だ。
「さ、聖女様、お座りになってください」
「あ、はい」
ラエティティアに誘われたヨナはラエティティアの対面にあるソファに座った。
バートはルクスの対面に座った。
「さて、聖女様のお姉さんであるブレアさんはアルヒ王国にある俺の屋敷で保護しました。枢機卿ナダブは、俺が見つけた不正の証拠を法王に渡して、法王が聖騎士や神殿騎士を動員したから、もう捕まると思う。ま、逃げても俺が見つけるけどね」
ルクスは最後に「だから、もう、大丈夫ですよ。聖女様」と言って微笑んだ。
ヨナは涙を流しながら「ありがとうございます……」と言い、頭を下げた。
「ヨナ様は、これからどうしたいですか?」
これから、と聞かれてヨナは思案した。
「そう、ですね、枢機卿がいなくなっても、私は法国所属の聖女です。一度、戻らないといけませんね」
「そう、ですよね」
バートは本当はヨナにアルヒ王国に来て欲しかった。だが、ヨナを困らせたくなくて、そのことを口にしなかった。
ルクスとラエティティアは顔を見合わせて、頷き合った。
「バート、聖女様、俺はラエティティアとベルムマレでデートする約束をしているから、失礼するよ」
「え、ルクス?」
「失礼しますね、バートさん、聖女様」
二人は恋人みたいに腕を組んで(婚約者同士なので、問題ないが)外に出て行った。
「(気を利かせたんだろうな、ルクスとラエティティアさん……)ヨナ様、そろそろお昼ですから、何か食べに行きますか?」
立ち上がったバートはヨナに手を差し伸べた。
「はい、一緒に行きましょう」
ヨナは立ち上がって、バートの手を握った。
冠月(八月に相当)二日。西部を回り切り、全ての慰問を終えた聖女の一団は、王都にやってきた。
聖女ヨナは、ルクスの屋敷で保護されている姉ブレアのもとにやってきた。
「お姉ちゃん……」
「ヨランダ!」
ブレアは飛び込んできた聖女ヨナを抱きしめ、目に涙を浮かべた。
二人は抱き合い、号泣していた。
「えっと、ブレアさん」
しばらくして、泣き止んだブレアにルクスが声をかけた。
「ぐす、はい、ルクス様。何でしょう」
「聖女様のことを何故、ヨランダさんと……」
「ああ、この子の名前は元々ヨランダで、洗礼名がヨナなんですよ」
「あ、そういう……教えてくれて、ありがとうございます」
ルクスとその説明を聞いていたバートは納得したような表情を浮かべた。
「どういたしまして」
ブレアはそう言って、愛おしげに聖女ヨナの頭を撫でた。
「じゃあ、俺たちはこれで」
ルクスたちは気を利かせて、その場から去った。
聖女ヨナと姉のブレアは、会えなかった間のことをたくさん話した。
王城で聖女の一団の為の宴が開かれた。
ルクスはラエティティアと踊っている。バートもヨナと踊りたかったが、貴賓席に座るヨナに声を掛けるのは戸惑われた。
だが、聖女の元に貴族の令息らしき若い男が群がり始めたのが見えたバートは注意しようと、その集団のところに向かおうとした。
そのとき、聖騎士セラヤが聖女の前に立ち、鋭い眼光で睨みを利かせたため、令息たちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
バートの出番はなかった。
夜遅くまで続いた宴は国王の一言で締め括られ、貴族たちは自分のタウンハウスに戻り、聖女の一団は、王城に泊まることになった。
バルコニーに出たバートはいつかの夜のように、横のバルコニーを見た。
そこに、聖女の姿はなく、ただ、バルコニーがあるだけだった。
バートはぼーっと満天の星空を眺めた。
「あら?バート様?」
バートが横を向くと、隣のバルコニーに聖女ヨナがいるのが見えた。
「ヨナ様……」
「ふふ、バート様、良かったら、いつかのようにこちらに来て話しませんか?」
「はい!」
バートは浮遊で宙に浮かび、ヨナのいるバルコニーに降り立った。
ヨナは白いネグリジェ姿で、バートは白い寝間着姿だ。ヨナとバートが成人していたなら、大人たちにキツく注意されるだろうが、子供なので、そこまで言われることはないだろう。
まず、バレないので、その心配はないが。
「星がとっても綺麗ですね、バート様」
「はい、そうですね」
「私もバート様みたいに空を飛びたいです」
「……じゃあ、一緒に飛んでみますか?」
「え?」
ちょっと失礼、と言ってバートはヨナを横抱きつまりお姫様抱っこした。
「わ、バート様」
ヨナは落ちないように、とバートの首に腕を回して掴まった。
「よし、行きましょう。【飛翔】」
バートは風属性魔法の飛翔で夜空に舞い上がった。
「きゃあ」
ヨナは怖くてバートの肩に顔を埋めた。
「ヨナ様、大丈夫ですよ。ほら、見てください」
ヨナは顔を上げて、前を見た。
美しい星空が地平線まで続いている。ヨナは目を輝かせ。上を見たり、横を見たり、後ろを見たりした。まるで、たくさんの星々がヨナに語り掛けているようだった。
「きれい……」
「はい、とても綺麗です」
眼下には、星空よりも少し明るい王都の夜景が広がっている。
この宝物のような瞬間を心に刻もうと、ヨナはじっと見つめていた。
バートはそんなヨナの美しい横顔をどきどきしながら、見つめていた。
しばらくして、我に返ったバートが風邪を引いてはいけない、とヨナを抱いて地上に戻るまで、ヨナは星空と夜景を楽しんでいた。




