第111話 商業都市クロイツヴェーク
アルヒ王国聖女護衛団は二週間掛けて、アルヒ王国東部よりにある中部でも大きい街──商業都市クロイツヴェークにやってきた。もう夜も更けた頃のことだ。
クロイツヴェークは十字路という意味があり、大昔、十字路を中心としてできた宿場町から発展して街ができたので、その十字路を由来としている。
聖女護衛団は目立った汚れもなく、綺麗な姿でクロイツヴェークにやってきた。
これには理由がある。
一週間前、自由の翼の一団が全く汚れていないことに気付いた栄光の階の団長ライナーがルクスに尋ねてきたので、ルクスは素直に光属性魔法で浄化していると答え、ライナーが頼み込んでルクスにクランメンバー全員を浄化して貰うことになった。
勿論、報酬はライナーがクランを代表して金貨一枚を支払った。栄光の階は精鋭だけで来ているので、十名いる。十名で金貨一枚は高いのか、安いのか、ルクスにもライナーにも分からなかったが、ライナーの気持ち的に金貨一枚だったので、金貨一枚になった。
ルクスは範囲浄化も使えるので、十人一気に浄化するのは朝飯前だった。
その次の日、栄光の階の一団がやけに綺麗になっていることに気付いたのは、聖なる誓いだった。団長フィンセントがルクスに尋ねて、浄化の一件が知られ、聖なる誓い精鋭十名も金貨一枚で浄化された。
そして、また次の日、今度は第一騎士団に知られ、という感じで芋づる式に聖女護衛団全員の浄化をさせられる羽目になったルクスは、五日に一回に浄化することを各代表者との話し合いで取り決め、各代表から金貨一枚を都度貰うこととした。
という訳で、聖女護衛団は目立った汚れがないのだ。
先触れを出しておいたので、騒ぎになることなく、聖女護衛団は街に入った。
第一騎士団十二名と、聖なる誓いの十名、栄光の階の十名、自由の翼の十三名を合わせた総勢四十五名の一団は結構目立った。
領主館から騎士がやってきて、全員を領主館に招きたいということだったので、一団は領主館に向かった。
ちなみに、この領主館の騎士は領主の私兵で、馬に乗っているので騎士と呼ぶが、爵位持ちではない者が多い。
アルヒ王国では爵位を与えられるのは、基本的に国王だけだが、騎士爵や男爵に関しては伯爵位以上であれば、授けることができる。
貴族名鑑に登録されないと正式な貴族として認められないため、王城の編纂部という部署に申請し、編纂部の部長が宰相に許可を貰えたら、貴族名鑑に記載されることとなる。宰相だけで判断ができない場合、大臣会議にかけたり、国王の許可を貰うこともあるのだが、殆ど、宰相だけで判断できるので、滅多にないパターンと言える。
貴族の私兵に騎士爵を持つ騎士が少ない理由としては、費用が掛かるから。それに、多くの私兵に騎士爵を授けてしまっては騎士の威厳が損なわれるだろう、という暗黙の了解があるからだ。
全員、馬などに乗っているので、厩舎が足りず、急遽、領主館の隣にある訓練場に簡易厩舎を設置し、四十以上の馬やルクスたちが乗ってきた大鹿の子供を休ませることとなった。
面倒な領主との会談は聖女護衛団のトップであるイサイアスが対応してくれているので、一介の騎士や冒険者たちは使用人たちに連れられて、大きな食堂にやってきた。
領主館の使用人や騎士など多くの者が使用する目的で造られた食堂で、百名ほどは収容することができる。
食堂は台所が併設されていて、台所が見えるようになっており、台所と食堂はカウンターで仕切られていた。
カウンターには今夜の食事がお盆に載せられ、所狭しと並べられている。
騎士や冒険者はお盆を取って、各々自由に座っていった。
騎士や冒険者の中には、いつものメンバーではなく、話したことがない者の隣に座って、親睦を深めようとする者もいた。
此処にいる一団は、これから共に戦うことになる。連携をスムーズにするためにも、コミュニケーションは大切だ。
自由気ままと人それぞれのメンバーも騎士や他の冒険者たちのところで食事を始めていた。
その様子を横目で見つつルクスはラエティティアやバートと一緒の机で食事を楽しんだ。
「ねえ、ルクス。僕たちも、まだ喋ったことがない人と親睦を深めた方が良いんじゃない?」
「んー、時間は結構あるし、今日は良いんじゃないかな?」
「ルクスはのんびりし過ぎだよ……僕は心配だから、行ってくるけど、良い?」
「うん、行ってらっしゃい」
「はーい」
バートはルクスたちのいる机から離れて、他のクランの冒険者がいる机に向かった。
第一騎士団の騎士は以前、バートも指導者として指導したことがあるから、なんとなく話しかけ辛いのだろう。
「ティアは俺と一緒で大丈夫?」
「勿論です。ルカ君と二人きりの方が嬉しいです」
そ、そう、と照れたルクスはアルヒ王国ではポピュラーな冬の定番料理であるレバー団子のスープを味わった。
美味しいスープに舌鼓を打つルクスとラエティティアの前の席にどかり、と座った者がいた。
「やっほ〜、ルクス君」
赤ら顔のライナーがいた。その横にまだ立ったままのフィンセントがいたので、ライナーは強制的に座らせた。
「……どうも、ルクス殿」
ばつの悪そうな表情を浮かべたフィンセント。
「だーいじょうぶですって、フィンセント殿!ルクス君だって、賑やかな方が良いと思ってますよ!二人きりじゃ寂しいですって〜」
「しかし、ルクス殿は婚約者のアルノルト殿と二人きりが良いと思っているようだが……」
ルクスはライナーとフィンセントに不満げな表情を向けていた。
「えぇ〜ルクス君〜いいじゃないか〜少し大人に付き合ってくれよ〜」
と言うライナーは酔っ払っている。ここに来る前に結構呑んでいたようだ。
「はぁ、仕方ないですね、少しだけですよ……」
と言いつつ、ルクスは使用人に酒を頼んだ。
ルクスの作戦だ。名付けて『酒でライナーを潰してティアと二人きりになる作戦』。
ルクスはライナーの話に相槌を打ちつつ、酒を注ぎまくった。
目論見通り、ライナーは酔い潰れた。
「ルクス殿、ライナーを嫌わないでやってくれ」
「フィンセント殿?」
「こいつは、ルクス殿と仲良くなりたいようだ。かく言う俺も人のことは言えんが……」
と言いつつ、フィンセントはライナーを担いだ。
どういうことか?と問うようなルクスの目線にフィンセントは苦笑した。
「つまりだ、俺もルクス殿と仲良くなりたい、ということだ。じゃあ、失礼するよ」
フィンセントはライナーを連れて去っていった。
「まぁ、ルカ君、モテモテです」
「あはは」
ルクスとラエティティアは空の食器を載せたお盆を片付けて、使用人に部屋に案内してもらった。
婚約者ということで部屋が隣になったことを二人は喜んだ。
同室ではないので、ずっとお喋りはできないが。
ルクスはラエティティアの部屋で、遅くまで一緒にいた。
本当はずっと一緒にいたいのを我慢しつつ、自身の部屋に戻ったルクスはベッドに横になり、眠りに就いた。




