第110話 アルヒ王国聖女護衛団出立
礎月(十一月に相当)十二日。アルヒ王国第一騎士団とクラン『聖なる誓い』、クラン『自由の翼』は聖女護衛のため、王都の東門前に集まっていた。
代表者として、第一騎士団の団長イサイアスが馬に跨ったまま前に立った。
「私は第一騎士団、団長のイサイアス・フォン・アレトゼー=アンブロスだ。国境までの行程三ヶ月と、聖女を護衛してアルヒ王国内を巡る凡そ一年間は、私が諸君らの上官だ。よろしく頼む」
イサイアスは副団長のハリマンに目配せした。
「ここからは、私、副団長のハリマン・ミュラーが取り仕切らせていただきます。皆さんはこれから、アルヒ王国聖女護衛団と名乗っていただきます。では、皆さーん、陣形を組みます!代表者は集まって下さい!」
ハリマンの大声で第一騎士団の周囲にいた者たちの中から三名の代表者が出てきて、ハリマンの周りに集まった。
「では、自己紹介をお願いします」
集まった三名の代表者の中から深い紺色の髪とアースカラーの瞳を持った美丈夫が前に出た。
「私はクラン『聖なる誓い』の団長を務めています、フィンセント・ヴァン・ルッテと申します」
「ヴァン……ルッテ殿はフォンタイン王国ご出身で?」
ヴァンという前置詞はフォンタイン王国特有のもので、出身を表すものだ。つまり、フィンセントは、フォンタイン王国のルッテ村出身だ。
フォンタイン王国はこの前、アルヒ王国に戦争を吹っかけて見事敗戦した隣国だ。
「ええ、フォンタイン王国出身です。ただ、私は幼い頃にとある魔法使いの弟子になりまして、様々な国を転々として、アルヒ王国にやってきたのです。十年前のことですが。私は独り立ちして、冒険者になり、聖なる誓いに入りました。三年前に前の団長に指名されて、団長になったという次第です。ですから、フォンタイン王国が敗戦したことは全く気にしておりませんので、ご安心を」
「なるほど……詳しく教えていただき、ありがとうございます。次の方」
フィンセントの隣にやってきたのは赤毛(橙色っぽい髪色)に茶色の瞳の明るい感じの青年だった。
「俺はクラン『栄光の階』の団長、ライナー・フックスです」
栄光の階は、迷宮都市の老舗クランで、三十年前に王都に進出してきた王都では新興クランだが、その勢いは目覚ましい。
ライナーはまだ、少年のルクスに目を向けた。
純粋な好奇の目にルクスは戸惑いつつ、ライナーの隣にやってきた。
ちなみに、ルクスは眼鏡を掛けており、目の色を誤魔化している。帝国皇族の血筋と知れても良いことは一つもないと思っていたからだ。
「俺は、クラン『自由の翼』の団長、ルクス・フォン・シュトラウスと申します」
ライナーはルクスの自己紹介を聞いて、興奮した様子で声を上げた。
「わぁ、自由の翼の団長殿はまだ若いって聞いてたけど、本当に若いね!それにめっぽう強いんだってね……今度、戦おうね!」
「おい、騎士団の前だぞ、私語は慎め」
フィンセントがライナーを注意した。ライナーは拗ねたように唇を尖らせて「はーい」と返した。
ハリマンは気を取り直して、言葉を紡ぐ。
「では、三組のクランには、第一騎士団の荷馬車の後ろから付いてきて貰います。第一騎士団の荷馬車のすぐ後ろに『聖なる誓い』。その後ろ『栄光の階』、最後尾を『自由の翼』にお願いしたいです」
「「分かりました」」
「それと、この笛を持って下さい」
三人はハリマンから三つの銀色の笛をそれぞれ受け取った。
「これは……?」
「合図の笛です。警戒を呼び掛けるときは一回吹いてください。救援が必要なときは二回。逃げるべきだと判断したときは三回です」
「分かりました。二人とも、大丈夫だな?」
フィンセントは三人の中で最も年嵩なので(フィンセントの予想だが)、年長者として二人に尋ねた。
「勿論、大丈夫」
ライナーは軽く応えた。
「はい、問題ないです」
ルクスは頷いた。
三人は紐の着いた首飾り状の笛を首に提げた。
「では、よろしくお願いしますね。御三方」
「「はい」」
三人は自分のクランメンバーがいるところに戻り、クランメンバーに話を伝えた。
「では、そろそろ出発します!」
副団長ハリマンが声を上げ、団長のイサイアスが馬の腹を軽く押して、馬を歩かせ始めた。
馬を走らせると後続の荷馬車が付いて来れなくなるからだ。
団長を筆頭にして、第一騎士団と三つのクランがぞろぞろと進んでいった。




