第九話
その瞬間、耳元でバンッという音が聞こえてきた。横を見ると、サラが勢いよく本を閉じた音だとわかった。
サラは両目を大きく開き、表情はひどくこわばっていた。
「さら、怖い顔をしてどうした?」
「……そーいち、いこ」
どうもサラの様子がおかしい。男の発言にかなり同様しているようだった。
「おい、いいのかよ。せっかく竜について詳しく知っている奴を見つけたのに」
「いい」
サラはそれだけ言うと、持っていた本を男に渡し、くるりと背を向けて歩いていった。
「嫌われちゃったかな」
「サラの正体ってどういう意味だ」
「その様子だとなにも知らないみたいだね。でも、それは本人に聞きなよ。彼女が隠している以上、俺が 勝手にしゃべっちゃうわけにもいかないからね」
「おまえ、サラのことは以前にサラと会ったことがあるのか?知っていて今日、声をかけたのか」
それにしては、サラはこの男のことを知っている風ではなかったが。
「いや、今日が初対面だよ。むこうもそんな感じだったでしょ」
なら、こいつはサラの何を知っている。
「まあ、話の続きは次あったときにしようか。俺はいつもここにいるから、気が向いたときに来るといい よ」
「お前、名前は?」
「俺はフェルト。こうやって本をかいたりしてるけど、基本旅をしているよ。おにーさんはええと、ソウ イチって呼ばれていたね」
「ああ」
「あっ、でもそうだひとつだ情報をけ教えてあげるよ。俺がその人物にあったのは、ここからずっと東に
行ったところの、名前もない小さな島だよ」
「……」
「もしそこに行く気があるのなら、君があの子を守ってあげなよって話だよ。さあ、早く彼女を追い掛け ないと見失ってしまうよ」
そういわれて振り向くと、サラはもう随分と遠くまで行っていることに気が付いた。
「悪いな」
フェルトに一言そういうと、サラに追いつくために急いだ。
「サラ、急にどうしたんだ」
サラに追いつき、そう声をかけた。サラはうつむいたまま前を見ずに歩いていた。
怒っているというよりも、なにかにおびえているような表情だ。
「あのひと、なにか言ってた?」
「いや、ここからずっと東にある島に竜について詳しい人物がいたってだけ」
「ひがしの、しま」
サラはそれだけ言うと黙ってしまった。
「なあ、あの男、サラの正体がどうとか言っていたが」
「……」
「もしかして、出会ったときにお前が空を飛んでいたこととも何か関係があるのか?」
そうだ、結局うやむやにしていたが、なぜ彼女が空を飛んでいたのかもわかっていなかった。
しかし、彼女はなにも答えない。
「別にいいよ。言いたくないことなら無理には聞かない」
「そーいち、ごめんなさい……」
サラは下を向いたまま一言そう言った。
「でも、あの男のことはどうするつもりだ。その人物についてもまだ何も聞いていない」
「あの男と会うのは、危ない気がする」
「まあ、お前にとってはそうかもしれないが。しかし、どうする。手掛かりがあの男くらいしか見つかっていないというのも事実だ」
ほかにどうすれば情報が得られるのかも見当がつかない。
「……そうだね」
「まあお前が嫌なら、あの男に頼るのは最後の手段ってことにするか。もしかしたら、レンジがなにかいい情報を聞き出しているかもしれないからな」




