6/2 魔法使いたちの決闘法
炎クラスは各個人がそれぞれ自由に魔法を使い、二週間おきにどの様な魔法を練習したのかを先生に報告するというやり方をしている。水、風、土クラスはそれぞれ物質に作用するのである程度マニュアルに沿った指導が可能らしく、まとめて一クラス同じ魔法を練習する、ということを指月から聞いた。自由にできて楽しそうとも言われたが、何をしたら良いかわからないでいる生徒が炎クラスに見られるのを考えるとどちらが良いのかは正直俺では判断がつかない。
しかし、多くの生徒は当初のESPカードで起こった現象をキッカケに様々な魔法を見つけたり廃止したりしていた。透視能力者、予知能力者、心を読む人物。様々な種類の魔法を扱う先輩が居るという話も指月からされた。爆破能力者である土筆に、発火能力者の俺。何の魔法を使うかは不明だが、立花先輩も「火」クラスに属すると聞いた。
俺が思い出すことになったのは、その「火」クラスで起こったある「ケットウ」事件である。
*** ***
三色パン。それはパンの表面が三色に分かれているというわけではなく、パンの中身の具材が異なるタイプの菓子パンである。ブドウのふさのように、小さいパンが3つくっついて出来ている。確か、この学校と付近のスーパーマーケットで売っているのは『チョコ・小倉あん・カスタードクリーム』の3種類だった筈。
何故か3人全員が一致して、ある味のパンを欲していた。
「だから二葉、パンとコーヒーには昔から小倉あんと昔から決まっているんだ! コーヒーを持ってる俺におとなしく譲れよ!」
「……名古屋市民でも名乗るつもりかね君は」
「小倉あんといえば緑茶でしょ、というわけで水筒にお茶いれてるんで小倉あんは僕のものにさせて頂きます」
普通、チョコとカスタードクリームを奪い合うのが学生らしいのであって、小倉あんを奪い合うのは果たして一般的な学生の姿なのだろうか。いや、この学校自体が一般的な学校とはなんか違うということは理解できるが。ボヤケたことを考えていると、遠巻きに眺めていた言い争いは徐々にエスカレートしていった。
半田、二葉、三重田。当初の『火』クラスで先生に既に3馬鹿扱いされていた人物達だが、学期が進行してからもそのバカ行動には拍車がかかるのみであった。ある日は人体模型に見えるようにボディペイントをしてみたり、二宮金次郎像を背負って歩いてみたり、誰もいない音楽室にて遠隔操作でピアノを弾いてみたりとバカ話には事欠かない。そのせいで心霊研究部に勧誘されかけていた。
だが、彼等の真に3馬鹿と呼ばれる所以はそこではない。彼等は、そう余りにも欲望に忠実すぎたのだ。
「こうなったら締りがツカねえ、ケットウだ!」
半田がそう宣告すると、一度三色パンを脇に預けておいて三人バラバラの位置につく。
それぞれ、4-5mほどは離れただろうか。まず先に仕掛けたのは半田。
グン、と一歩足を踏み込むと半田の体は一気に二葉に肉薄する! およそ近づいた距離は腕二本ほどだろうか。その魔法を事前に知っていたのか、二葉は体を傾かせるだけで回避する。
「距離を縮める魔法! これで女子とお近づきになってやるぜ!」
お近づきに、って実際に距離がそもそも遠いのかよ。それが近づいてどうにかなるのか。
「……フン、それで近づいてどうなるというのだね」
正論を吐いた二葉は、軽やかなステップで半田の接近を許さない。やがて半田が近づいたタイミングで、二葉は自らの手をかざし、ブンと降った!
ザクン。
ナニカを切り裂くような音が周囲に響く。虚を付かれたのか、半田も動けず立ったまま。
ああ。ひょっとしたら、彼は何に切り刻まれてしまったのかが解らないでいるのかもしれない。
暫くして、自らの感覚に違和感を感じたのかこう呟いた。
「……二葉、お前は男の下着姿を見たい趣味を」
「持ってない! 断じて持っていない! この技は元々女子に対して使おうと――――」
そう、今の半田は二葉に下着以外の服を切り刻まれ殆ど裸一貫の状態。ボディービルダーには敵わないだろうが、それなりに半田は筋肉を持っているな、などと思う。人体模型を再現するために体を鍛えた、とは半田本人の談。――――しまった、もう一人いた。後ろを振り向く。
三重田はというと、全身全霊全力を込めて何やら唸っている。体を強張らせ力を込めている。
一体何をするというのか。襲ってくるであろう波動に俺は身構えた。
「ハァッ!」
カッと叫ぶと三重田の体から凄まじい勢いで衝撃が――――――
来たわけではない。あれ、と三重田の様子をよく見る。すると、彼はおよそ1cm程度浮いていた。某狸型猫形ロボットは地面の汚れを避けるために僅かに浮いているらしい、それを三重田はたった今体現している。
「おおっ、すげぇ!」
「見事、腕を上げたな」
「あんたら新年かくし芸見るかのようなリアクションしてんじゃねぇ!」
しかも片方は銭湯スタイルである。
そう、こいつらの魔法の使い方は色々と問題がある。主に女子がその名前を出すだけでも逃走したり。
「半田、その魔法はどういう目的で使ってるんだ」
「女子とお近づきになるため!」
フフンとでも言いそうな自慢気な顔。魔法自体は上手く行っているから質が悪い。
「二葉、あんたの魔法は」
「……服を解れさせる魔法だ。相手を選べば有効だろう」
つまり女子に試したいと。このムッツリスケベめ。
「三重田」
「スカートを浮かせる能力かなぁ」
三人揃って、半2三重田トリオ。3人目が苗字で呼ばれないのはそのせいである。
「一応クラスの実技練習の時間なんだからセクハラしてんじゃない、土筆んぼが何も言えないでいるからやめておけ」
そう、学年の委員長ポジションに任命されたものの土筆んぼは弱気。魔力を多分に持ち、それを扱いうる存在だというのに彼女の性格上の問題が色々と邪魔している。そのせいか、今は生徒達の不良行為などを見過ごしがちになっているとのこと。……まぁ、仕方ないわな。
「はいはい喧嘩はやめやめ」
ブンブン手を振って収める。第一、三色パンは何処へ行ったんだ。
「じゃあ今日の勝者は二葉な!」
チョコパンを食べながら半田が不服げに言う。
「浮くだけの魔法じゃどうもねぇ……」
カスタードクリームパンを食べて三重田が言う。
小倉あんは二葉の手に渡った。
「そもそもあんたら何回目の喧嘩だよ、パンが食いたければ三個買えば良いだろ」
「これは喧嘩じゃないぞ、けっとうだぞけっとう」
「そうだね、高いと大変な奴」
「それ血糖」
「……家系的な繋がりもあると聞く」
小倉あんは二葉の手に渡った。
「それ血統」
「同じ苦しみを味わった人達で力を合わせるんだぜ」
「それ結党」
「こうして糖尿病患者の会が設立されたのであった、ちゃんちゃん」
「まじかよ食生活見なおさなきゃな」
いや待て、誤魔化されないぞ。
逃げ出した三馬鹿を追う。




