6/2 料理部の抱えた問題点
翌日、部員トレードに出されたため今日俺達は料理部の部室に居る。
面談をするかのように、安岡里子と俺とで椅子を突き合わせる。
「普通に料理を作っても不味いから、魔法で作っても不味いんですか」
「私達料理部は、『調理過程を飛ばす』魔法を練習しているわ」
「つまりマトモに作れるようにならないと魔法の意味が無いと」
あいわかった。普通に料理をつくるとこからスタートだ。他の料理部員に助けを呼ぼう。
「他の部員の助けを呼びましょうよ」
「――――無理よ」
ギリッ、と歯ぎしりをして苦しげな表情を露わにする安岡。
「どうしてです」
ふとすると、安岡は俯いていた。しかし次の瞬間、ぐあっと全身を詰め寄ってきて泣きそうな表情になる。
「部員が……今の料理部には……2人しか居ないの!」
「――――なぬ!?」
思わず俺もオーバーリアクション気味。
いや待て。部活動の承認が通るには6人が最低条件だったはず。それを下回るというのはどういうことか。
「部活には最低でも6人居るんじゃ」
「3年生4人、部活の卒業は1学期の終わりなのよ!」
恐怖の大王でも降ってきたかのごとく、頭を抱えて呻く安岡。
……あれ、これはうちの部活動もマズイんじゃないか。立花先輩は3年だし、そこから更に部員が増える要素無さそうだし。
「普通に人数のあぶれている部活動から転部を狙えばいいじゃないですか、何でわざわざウチみたいな過疎部活を狙ってるんです」
「転部という方法だと学期に1回しか出来ないの、だけど部活動の部長か副部長による引き抜きは認められてるわ」
微妙にズレた回答をされた。ふぅ、と溜息をつく。
「いや、それやられるとウチの部活も崩壊するんですけど」
「えっ、そうなの?」キョトンとした顔。
「知らんかったんかい!」思わずコケそうになる。
「6人ちょうどしか居ないなんて、漬物部も弱小部活動ねー!」
さっきまでの泣きそうな表情は何処へやら。ムフン、と言わんばかりのニヤケ顔でこちらに宣言する安岡。
「絶賛枯れ木状態のアンタの部活に言われたかねぇ!」
凄いショックな顔をされた。いや、図星つかれてその表情をするな。
「コッチの部活の事情も知らずにどうして挑んできたんです」
「単に白ネギに因縁があるから挑んだだけなのよ」
「因縁?」
「あれは1年前、激しい風が吹き荒れ雷が落ちてきたある日のこと……」
「お疲れ様でした、帰ります」鞄を手に持って立ち上がる、さっさと家に戻ろう。
「ちょちょちょっ! ごめんって! 簡潔に話します!」
慌てて安岡が引き止めてくる。もう正直面倒だが、簡潔と聞けば仕方が無い。席に座り直す。
「どうぞ宜しく」
「白ネギは元料理部でした! ツテを辿って部員集めしようとしました! 終わり!」
「……そうだったんですか、初めて聞きましたけど」
「……言ってるかと思った」
ハテ、そんな話を聞いた覚えはない。先輩の方から言っていないのだろうが。
「だったらわざわざ引き抜きなんてことを考えずに、新入生勧誘で協力すれば良かったんじゃ」
「新入生、今は彼一人なの」
「集まらなかったパターンですか」
ガックリと肩を落とす安岡里子。一人集まったということは、決して勧誘をしていなかった訳ではないということか。しかし、新入生のツテを辿ってゆくことは出来ないだろうか。
色々と考えていると、安岡が口を開く。
「もう生徒会には勝負の申請書を出しているわ、今からの撤回は特別の事情がない限り無理よ」
「……生徒手帳にそんなこと書いてましたっけ」
胸ポケットから取り出し、パラパラめくってみる。手帳用の左胸ポケットだ、と指月に言うと「今日び、そこにメモ帳を仕込む学生は居ない」とあっさり言われた。そんなものだろうか。
見つけた、部活動に関する項の後ろのほう。漬物部申請の時に確認していたページだが、部活設立には必要ないと読み飛ばしていた部分だった。
『部活動勝負の項……特別の事情について……部員の突然の退学及び休学、消失など……』
消失って。過去に一体何が有った。
「なんでったってこんなヘンチクリンな規則が出来たんですか……」
ざっと読むに、部活動勝負の項だけでも6ページ行くか行かないかである。見開きにして3枚。
「詳しくは聞いたことが無いけど、生徒会に人が集まらなかった時期に副生徒会長が武力で引きぬくことを思いついたと聞いたとこがあるわ」
「……つまり強制なんですか、それ」
「『負けたほうが言うことを聞く』というシステムはそのまま色々な勝負事に持ち込まれているわ。流石に金銭の取引、今後の人生に関わる重い事柄は校則で禁止されているけれど」
つまり、古き良き時代の副生徒会長が人材を物理的に連れ出していったと。
「とんだヘッドハンティングですね」
「ちなみにその副生徒会長、実家の都合でボウズ頭。頭に毛のある人物を目の敵にして、魔法で頭を直接ねらったんだとか」
「それ本当に死人が出るんで辞めろとか誰か言わなかったんですか……」
「本当よね-」
他人事のように呟く安岡。ふと俺は気づく。
「……あれ、これは今から俺は魔法で顔面をぶっ飛ばされるってことですか」
鞄を掴んで全力逃走の体制を取る。相手の返事によっては瞬発力チェックの時間が始まる。思い返せば俺は反復横跳びもシャトルランも苦手だった――――
「しないしない、今は流石にこの学校も穏健路線で進んでるから」
良かった。
むぅ、と思い返す。穏健路線で部活動勝負、となると。今日の午前中に事件があったのだ。
「はぁ、今日教室で見たのはそれだったんですか」
今日見た喧嘩。原因は三色パンのどの位置から食べるかであった。




