6/1 料理部部長、面談
「あなたを教えることになる、安岡里子よ。改めて宜しく」
「長嶺翔です宜しくお願いします」
料理部部室(2階)に拉致されてきた。部室に居るのは俺達2人だけ。ここで調理を行うわけではないのか、ここにはいくらかの冷蔵庫や綺麗にされている調理器具が壁に掛かっている。
「魔法で調理をすると聞いたのですが、俺もそれをやらないといけないんですかね」
「あったりまえだの」
「アンタ何歳だよ」
「デモンストレーションとして、私が料理してあげる」
数分後。
食材、色々な調味料を一同に卓上に集めて、何やら深呼吸をしている。
コンソメ、玉葱、ニンジンにおそらくはバジル。何故か砂糖や塩胡椒も置いてある。
料理部の人達が魔法で料理を作ることが出来ると聞いていたが、どのように作るのか。
「行くわよ、1,2の……」
ポンという音。
同時に白みがかった煙が一気に吹き出して、俺は思わず目を瞑る。
次に目を開いてみれば、あっという間に出来上がっていた料理。
直前までの食材を見るに、コンソメスープか。
「小手調べといったところかしら。さぁ、飲んでみなさい!」
頂かない理由もないので、一口軽くすする。
ほんの少し舌に触れただけで分かるコンソメの味、僅かな塩味、何処と無く残る甘み。
そして舌中を覆う不可思議な酸味。
この感じは何処か懐かしい。
そう、ひどい風邪をひいて洗面器を前にして味わった。あるいは将来お酒を大量に飲み過ぎた時に味わうであろう味覚である。
「これって吐瀉物の味じゃねえかぁーッ!」
「うええぇっ!?」
作った側もトンデモないリアクションをしているが、そもそもコイツは味見をしてるのか。
「作ったなら味見ぐらいしてくださいよ!」
「い、嫌よ! ゲロ味って言われたものなんて飲みたいわけ無いじゃない!」
「作ったのアンタだろうが! 責任とって全部飲み干さんか!」
「作れって言ったのアンタでしょ! 注文した側が飲み干すのが道理だわ!」
「どーこの料亭でゲロ味したコンソメスープが出てくるんだよ! アンタの科学実験に付きあわすな!」
「誰がエジソンよ!」
「うるさいわ黙ってイグノーベル賞の生物学賞でも受け取っておけ!」
よくよく話をするに、調理過程を飛ばす事は可能らしい。
しかしどうやら味の調整が旨く出来ていないようだ。
一度魔法無しでコンソメスープを一緒に作ってみることにした。
後日調べて分かったことだが、コンソメとはフランス語でConsommé 、「完成された」という意味を示す。
つまりコンソメブイヨンは既に完成された味付けということだ。
――――だが、彼女は違った。完成のその向こう側へ向かおうとしたのだ。
「料理の基本はさしすせそ、まずは砂糖を大さじ一杯!」
「…………」
コンソメスープ、2杯分に対してですよね。
もう静観を決める事にする。腹はくくった。
「砂糖との調節を考えて、塩を大さじ一杯!」
「…………!」
塩と砂糖、同時に混ぜると塩味の方が勝つらしい。
「お酢は健康の元、少々!」
「お酢の瓶がトクトク言うほど注ぐのは少々とは言わねぇ!」
しまった、介入してしまった。
「醤油、少々!」
「少々ってなんだよ……!」
更に暴挙は続く。
「味噌、スプーン一杯!」
「それ麹味噌だろ、ちゃんと網越しに溶かせぇ!?」
副部長=要育成対象、ということか。よーく分かった。身を持って分かった。
これ不味い味噌汁だろ。
「と、とにかく! 私がアンタに料理魔法を教えて、一週間後の料理勝負が出来るようにするわ!」
「指導するアンタが不味くてどうする! 当日の会場でバイオテロ起こすなんて俺は嫌だぞ!」
……くそう、こうなったら。
「俺たち2人で料理をマトモなものにする!」
「き、決まってるでしょ! 散々コケにされて負けるなんて嫌なんだからね!」