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6/1 宣戦布告、料理部

非通知設定の着信があったのは、その前日の夜だった。

「長嶺翔。君に一応の連絡をしておこうと思ってね」

声に加工が掛かっているのか、相手の性別すら分からない。

「誰だ、アンタ」

「脅迫してあげようか、普段通りの生活を送りなさい。あなたの家族は私達の所に居るわ」

……叔父さん達の事か!

「待て、お前たちの目的は――」

ブツンと通話が切れる。

俺は歯ぎしりをするほかなかった。


指月の宿題にウンウン唸りつつ、白石先輩がぬか床をかき混ぜつつ。

普段通りの生活をしろと言われても、叔父たちの事情を漬物部の人達に話している訳ではない。その事を無かったかのように、忘れているかのように何時も通りの生活をしようとする。

若竹に、昨日の夜の電話については尋ねておいた。調べておくとの返事が有ったので、余り無闇に期待しないようにする。


ようやく部室を手に入れた漬物部。ただし、元々倉庫だったので引越し作業が難航して未だに時折他の部活動がやって来ることが多かった。時折ラクロス部などが網付きの棒を取りに来たりしている。何でも、クロスを置ける場所が存在しないんだとか。


だが、この漬物部に倉庫以外の役割を求めてやって来る人物が現れてしまったのだ。

その人物はドアを蹴破るかのように開き、白石先輩の方へとツカツカ歩み寄って尋ねる。

「ここが漬物部の部室で合っているかしら」

「はい!」快活さすら感じられる、白石先輩の返答。ちなみに今でも部員は募集中である。

「私の事、覚えているかしら」しかし、目の前の訪問者は彼女の明るさとは対照的に、ある種の無感情さを秘めていた。

「2年の同級生、『地』クラスの安岡里子やすおか りこさん。覚えてます」

……同級生という割にはフルネームで覚えてるんだ、先輩。

安岡は持っている鞄から、ゴソゴソと何かを取り出した。見るに白い札に恐らく筆ペンで書かれた「果たし状」の文字。

無表情を一転し、感情を爆発させる彼女。その表情は何処か挑戦じみていた。


「ここに、『魔術調理部』は『漬物部』に勝負を挑みます!」


えっ。

何すかそれ。


ふっと指月を見る。

彼もポカン顔。


もう一度、今度は白石先輩を見た。

普段のおっとりとした雰囲気を彼女に求めて。もしそうなら、突然の来訪者は単なる変人ということになる。

だが、今の彼女にそんな雰囲気は一切ない。

様々な戦いを経て辿り着いた勇者を「ついに来たか」と待ち構える魔王の如く、先輩は安岡里子と相対していた。


凄く居づらい。指月もそんな顔をしている。


「……挑んで何するんすか」一応聞いておく。

『負けたほうが何でも言うことを聞く!』二人の声が重なる。

「あんたら子供か!」

勝負と言っても、料理勝負でもすればいいのか。

「白石。あなたの料理部での実力は良く知っているわ。だからあなたと私の直接勝負はしない」

えっ。

ニヤリ、と笑って白石先輩は答える。

「指導勝負、と行きましょう」

白石先輩はナニ乗ってるんですか。

「料理のことをまだ知らない部員が漬物部には1人居ます。彼をどれだけ成長させることが出来るか」

「料理部にも新人が沢山いるわ、1人送り込んで成長を見させてもらうわ!」

つまり、どういうことだ?

「部員の一人ずつを交換にしましょう、副部長の長峰くんが適任です」

口元を釣り上げて、2年生2人が暗い盟約を交わす。

「人質、ね!」

違う。いや違ってくれ。

安岡里子の背後から、もう一人男子の部員が現れる。小柄で、ひょっとすると中学生に見えてしまいそうなやや幼い見た目の少年。安岡の話からすると彼が料理部の新人1年なのだろう。三角巾にエプロンと、既に今から料理をしそうな風貌である。

「今から長嶺とやらは料理部で預かるわ! こっちの新人より上手な料理が作れるように鍛えあげてあげる!」

「ええ、漬物部も全力を持って部員を成長させます」

……あれ、これって単なる部活交流会じゃないですか?

指月に無言で助けを求める。

彼はサムズアップして、にこやかにこちらに笑いかける。暗号の意味は「頑張って行ってこい」だろう。

了解した。あとでオマエをはたいてやる。

交代になる部員とのすれ違いの瞬間。少年はやや止まって、こちらに声を掛けてきた。

「副部長のお手製料理を食べる事になると思いますけど」

「ああ」

「気をつけてくださいね」

え、はい?


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