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4/24 決闘そして結成

拝啓、一時期不眠症に悩まされていたと言っていた我が兄貴が一人、そして今何処かへ行っている淳へ。

俺は今先生の話を聞けずに眠りそうです。もうグラグラです。座って話を聞くのがこんなにつらい瞬間が有るとは。今ノートをとったら確実にミミズ状の宇宙人文字を書く自信が有ります。

「今回の魔術対抗――各々の技量を事前に理解――――」

先生らしき人物が前に立って話している。駄目だ、昨日よく眠れなかったせいか、急に、眠気が……


*** ***


「あ、あのぅ……長嶺、さん」

ゆさゆさと揺られる。……もしや寝てたのか、俺。

「気づいたら皆居なくなってて、ど、ど、どうしましょう……」

「……岡さんも寝たのか」

「は、はぃ」

大丈夫だ、似た者同士仲良くやろうじゃないか。おとなしく先生の前で刑に処されるとしても。

「おっと、ようやく起きたの」

背後を見やるに、指月も居た。寝ていた風ではなさそうだが。

「なんか道具を3つ使って相手を倒すまで続けなさい、だってさ」

シンプルな要約感謝する。……相手を倒すまで?

「ルール無用、とは言っても今日は初めてだから戦意を失わせたら勝ちとも言ってた気がする」

そうなのか。戦意喪失ねぇ。

「……もしかして、それを伝えるために待っていたとか」

「岡さんがいつまでたっても来ないからどうしたのかなーって」

さいですか。でもありがとう。

あらかたの道具は俺達が爆睡している間に持って行かれてしまったようだし。

仕方ないが、そんなに粗悪なものばかりが集まっているわけではないだろう。


*** ***


体育館別室、倉庫。卓上机の上に色々と置いてあった。この品は先輩たちの寄付品らしい。指月情報。

持っていける道具は3つまで。

……とはいったものの、剣や防護盾、危険物マークのついた爆弾らしきもの、有用と思われる物はあらかた他の人がとっていってしまった。こういう動き出しが遅いのは俺の悪い癖である。

残っているものをざっと見ておく。

ダンボール、ナップサック、塩胡椒(賞味期限切れ)、コピー用紙、いわし缶詰、ワイン瓶、ハンガー、バーベキュー用金網、木炭、着火剤、紙袋、カレー粉(甘口)、紙コップ、水とジュース、ファイルフォルダー。

武器の置いてあったあたりにはハリセン、工具用かなづち、レンチ、木刀、扱いが難しかったのか鎖鞭、「対吸血鬼用」と書かれている木製の杭(ほのかにただようニンニク臭)、パチンコ。(しかも玉は別途)

「でんせつのつるぎ」と書かれた木の棒。これをもってきた先輩は是非反省してもらいたい。

……ろくなものねえ。上級生たちの私物をボランティアで寄付っていってたけど、これ単なる廃品回収だ。

取り敢えず、俺の中での選りすぐりをとってゆく。


数分後、体育館内小部屋。ナップサックを背負ってやってきた俺を待っていたのは、やはりというべきか若竹。

事前の宣言どうり、だった。

「覚悟は決まったようだな」

「……覚悟もへったくれもあるか、こっちが単に怒ってるだけだ」

「世の中には女性だからと言って手を上げるのをためらう優しい人物もいるからな、杞憂だったが」

「まるで俺が優しい人間じゃないみたいに言ってくれるじゃぁないか」

「それともだ、君は本当は叔父たち一家の事なんてどうでもいいと思っているのかもしれない。案外冷淡な人物なのかも」

「それ以上の挑発はいい、そのでっかち頭を床に叩きつけてやる」

木刀を構える。一歩踏み出した。

その瞬間、俺は突風で吹き飛ばされる。


見ると、若竹の立っているそばには空中に浮いている2つの球体。

球体を構成している物体は空気だろうか、良く見ると煙らしきものが内部で渦巻いているのが見える。

若竹がこちらを指差す。

「……ここから動くこと無く、君を倒してみせる」

「そうかい」

迂闊に近づいても、また吹き飛ばされるのがオチだろう。

若竹が俺の方向に右手を振る。すると同時に、球体が素早い勢いでこちらに飛んで来る!

横っ飛びになんとか躱す。躱したあとの球体は、ドッジボールがあたった時のような硬い音を響かせて消失する。

これだけなら、避けている内になんとか近づけると思うが。

「まさかこれで終わり、と思ったのか」

若竹が威圧気味に言ってくる。まさか。

彼女がスゥと深呼吸する。

次の瞬間、彼女の背後から無数の空気爆弾が飛び出してきた!

「なっ!?」

「これだけの数だ、逃げ続ければ体力のほうが尽きる。……行くぞ」

…………無数の球体がこちらに迫ってきた!

慌てて木刀を振って対処する、が。風の勢いもあってか、木刀は弾き飛ばされてしまった!

「しまっ……!」

「そんな武器など必要ないだろう」

残りの風弾全てを、弾き飛ばした木刀向けてぶつける若竹。


部屋全体に響き渡る轟音。

思わず目を閉じる。

次に見たのは、完全に粉みじんになってしまったかつての木刀。


「本気、かよ」

「むしろ今まで本気でなかったとでも?」

再び深呼吸をして、若竹は風弾を再展開させる。

破れかぶれだが、行くしか無いだろう。若竹向けて走りだす。

背中に背負ったナップサックから、木炭を一切れだけとって燃やす!

だが、見えない何かに阻まれる。そして次には彼女を覆う風に煽られ、壁に叩きつけられてしまった。

「正面切って飛び込む覚悟は良いだろう。だが、それは無謀というものだ」

為す術もなく、風弾を腹に一発撃ち込まれた!

「ぐぅ……っ」

感覚としては、拳一発が入ったような痛みだろうか。だが、何発も受け続ければこちらの身がもたない。

なんとか気合を振り絞って再び回避を再開する。

かわし続けて3,4分たったぐらいだろうか。もう、これ以上躱すことは難しい。

次のタイミングで一気に勝負を決める。


昨日と一昨日の感覚からして、どうも俺の魔法は炎を操作する方向に長けているようだ。

ただし自在に炎が出せるというわけではない。少なくとも燃える物体は必要だ、空気については確かめる手段が無かったが、加熱は俺自身の魔法でどうにかなる。


思い浮かべる、背中に入ったモノが一度に炎に飲まれる様子を。

ナップサックに入った木炭5kgの半分を、一瞬のうちに燃やす!

「正面が駄目なら……」

バンという爆発音が背後から聞こえる。

背中に文字通り焼けるような熱さを感じる。だが、それよりも重要なこと。

俺はきりもみ回転しながら空中を跳ぶ!

「上から行くまでだ……!」

ハッキリとは見えなかったが、唖然とした表情の若竹。今なら行ける!

2発目、これで最後。

俺の体がアイツの頭上に来た瞬間、今度は真下に向けて木炭を爆発させる!

「行けッ――!」

背中の方が焼けるように痛む。その熱さを感じた直後、俺の体は真下の若竹にむけて吹っ飛んでゆく。

「ぐッ……」

空気を操作して、勢いを弱めようとしたようだがこちらがなんとか上回る。

標的もろとも、俺は地面に叩きつけられた。

衝撃、くらつき、一瞬こみ上げる吐き気。


「…………長嶺、降りてくれるか」

「あー、うん」

予想以上に勢いが減衰されたのか、彼女を叩きつけるほどにはいたらず、転ばすことになった。

性格には折り重なるというべきか。ひとまずさっさと降りて三角座り待機。

やれやれ、と言いながら彼女は立ち上がる。

「まず一つ質問させてもらう」

「はい」素直に聞いておく。

「君は耐熱措置や衝撃防御の方法を考えずに突撃してきた。違うか」

「あってます」

「私が風で防禦していなかったら、二人仲良く骨折事故になっていた可能性は考えなかったか」

「考えませんでした」

「最後に言っていいか」

「はい」

「君はバカなのかそれとも無鉄砲なのか」

「バカは身内にいるんで無鉄砲でお願いします」

流石にそこを認めるわけにはいかない。

「そうか」

流された。

隣に、というかこちらに顔をあわせずに彼女も三角座りをする。

「今日の件だが」

「ああ」

「すまない」

叔父さんの件だろうか、俺の両親の件だろうか。どちらでも同じことだが。

「……別に良いさ、慣れてる」

「私は人の感情の機微が、よく分からないほうだと思っている」

思わず、鼻で笑ってしまった。

「挑発なんて上級テクニックを使っておいてそれを言うか」

「発破をかけるのと怒らせるのとでは違うのは私にも分かる」

分かっていて仕掛けたのか。いや、分かってないから失敗したと分かったのかもしれない。

「どうやってこっちの事情を探ったのを聞かせてもらってもいいか」

「私の友人が、君の両親が行っていたという実験に関わっていた」

「それで、か」

「ご両親と、私の友人が行っていた実験は非合法で危険なものだった。その技術を手に入れたかったのか、危険視したのか。別の組織が研究所を攻撃して、多くの研究員は失踪、研究結果は灰と化した」

「――なぁ、俺の両親が危険なことをしていたというのは本当なのか?」

「…………そうだな」

「物心ついたときから叔父さんのところで暮らしてきた。親と係わり合いの無い生活を送ってきてしまった。音沙汰もなかったあの人たちから、ついに送られてきたのは危険な実験をしてしまったこと。そしてそれを確かめようとする野次」

「…………ああ」

「こっちと関係の無いところで話が進んでゆくのに、とばっちりを喰らうのは俺たちと叔父さんだった。それで今日叔父さんたちがいなくなって」

「長嶺」

思わず抑えきれなくなっていた。

「悪い、取り乱した」

「人探しにはツテがある、協力しよう」

「本当か」

つい、はっと彼女の方を向いてしまう。

「どれだけ手伝えるかは分からない。たが、君の両親に関わる事柄だ。叔父さんとの関係も明らかになるだろう、そこを調べてもらうよう頼むことは出来る」

「そう、か」

わずかな望みに聞こえる。だが、他にすがるものが存在しない。

「頼めるか」

「ああ。それと同時にだが、君には校内での発言力を高める必要がある」

「人探し、にか?」

「生徒会もそうだが、外部とのパイプを作っておくのは捜索に重要だ。特に今回は魔法が関わっているから」

何をすれば良いのかは分からないが、それだけはひとまず理解した。

「人探しの代わりといっては何だが、君は部活に入っているのか」

「…………?」

「夜に図書室を利用するには部活での申請が必要と分かった。仮所属でも良いという場所が出来れば良いのだが」

アレはまだ部活じゃない。けど、彼女でちょうど6人。

「えー、えっと。紹介できる部活が一つ有るんだが」

「ああ、言ってくれ」

「漬物、部?」

「――――へ?」

多分、今日一番彼女の間の抜けた顔を見た。

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