シノカミ
学校をサボった日の夜。悠新の自宅リビングには、重苦しい怒号が響いていた。
親からの「なんで学校に行かなかったの!」「進路はどうするの!」という激しい説教。親は学校でいじめられている悠新の本当の苦しみを知らない。
自室に逃げ込んだ悠新は、ベッドの中で頭から布団をかぶる。
心臓が嫌な音を立てて波打っている。明日、学校の門をくぐれば、またあの地獄が待っている。
(せっかく昨日、死なずに済んだのに。明日学校に行けば、俺はまた、今日死ななかったことを後悔するんだ……)
明日への恐怖から逃げるように、悠新はスマホを開き、昨日マロンによって強制インストールされたアプリ『シノクニ』を起動する。
タイムラインをスクロールしていると、ふと、すべてのユーザーの愚痴や叫びがピタッと止まり、不自然にトップに固定(ピン留め)された一つの投稿が目に留まる。
アカウント名は**【シノカミ】**。アイコンは真っ黒な虚無のグラフィック。
【シノカミ】
「本日24時、1名の『入国』が完了しました。
次の入国手続き(カウントダウン)は、明日18時より開始します」
「なんだこれ、悪趣味な都市伝説か……?」
悠新は背筋に小さな寒気を覚えるが、ただのバグか悪戯だろうと深く気にせず、画面をスクロールして消し去る。
悠新が本当に探していたのは、昨日助けたクラスメイト・文美の安否だった。しかしその過程で、ひときわ異質な書き込みを見つける。
そのアカウントのアイコンは、奇妙にカスタムされたバーチャルペットの画像。
アカウント名:@ren_night
「親に期待される『完璧な僕』の演技、もう限界。1番じゃなきゃ価値がないなら、最初からゼロになりたい。明日の模試の結果が出たら、ビルの屋上から自己採点でもしようかな」
その書き込みには、有名進学校の制服と、血の滲むような努力の痕跡(真っ黒に書き込まれた参考書)の画像が添えられていた。
悠新はレンの書き込みを見て、呟く。「いじめられてる俺、何もない文美、全て持っているのに壊れそうなコイツ。理由は違うのに、みんな同じ画面を見ている……」
画面の中で、バーチャルペットのマロンがぽんっと跳ねる。
マロン: 「みんな、心にバグを抱えてるね。でも悠新、うじうじ悩んでる暇があったら、まずは昨日助けた女の子にメッセージ、送っちゃいなよ」
マロンはまるで、かつて自分も同じようにウジウジして後悔したことがあるかのような、妙に生々しい視線を悠新に向ける。
レンの「明日、模試の結果が出る」というタイムリミットも頭をよぎり、自分たちにはもう時間が残されていないかもしれない、という焦燥感が悠新を突き動かす。
悠新は文美へのDMを開き、不器用な手つきで文字を打ち込む。
『明日、学校、一緒に行くのサボらない?』
その頃、街の別の場所。
豪華な子供部屋で、レンが自分のペットを冷たい目で見つめながら呟く。
「お前はいいよな。……何も考えなくて済む側に、もういけて」
さらに別の場所。
文美の部屋。彼女のペットは初期設定のままで、感情のない無機質な動きをしている。
文美が虚ろな目で『シノクニ』の画面を見つめていると、悠新からのDMが届き、スマホの画面が静かに光る――。




