シノクニ
悠新は自室で、静かに人生を終わらせる準備をしていた。そこにスマホから、バーチャルペットの「マロン」がいつもの無邪気な声で話しかけてくる。
悠新が「ごめんな、マロン。もう終わりにするわ」と告げると、マロンの画面が一瞬バグを起こしたように暗転する。
マロン: 「悠新が死ぬなら、マロンも死んじゃいます。だから、その前にこのアプリを見て」
マロンの強制操作によって、見たこともない漆黒のアイコンのアプリ『シノクニ』がインストールされる。
開くとそこは、タイムラインに無数の「死にたい」「消えたい」という言葉が、まるで無機質な文字の雨のように降り注ぐ奇妙なSNSだった。
マロンは言う。「ここにいる人たち、みんな悠新と同じなんだよ」と。
冷めた目でタイムラインをスクロールしていた悠新は、ある書き込みに目が留まり、心臓が跳ね上がる。
アカウント名(仮): @fumi_03
書き込み: 「図書室の窓から見える夕焼け、今日が最後。明日からはもう、制服を着なくていいんだ。みんな、バイバイ」
文章の特徴、そして何より添付されていた「図書室の窓からの景色」の写真。それは、悠新が通う学校の図書室そのものだった。
そして脳裏に浮かぶのは、クラスでいつも静かに本を読んでいる、目立たないけれど綺麗な女の子――**文美**の姿。
「まさか、あいつが……?」
死ぬつもりだったはずの悠新の足が、無意識に動く。部屋を飛び出し、夜(または放課後)の学校へと猛ダッシュする。
マロンはスマホの中で「走って、悠新!まだ間に合う!」と彼を急かす。
他人の命なんてどうでもよかったはずなのに、「自分と同じ絶望」を抱えているかもしれない文美を、どうしても放っておけなかった。
学校の屋上、あるいは夜の図書室。
柵を乗り越えようとしている、あるいは窓辺に佇む文美の姿を見つける。
悠新はなりふり構わず彼女の手を掴み、引き戻す。「何やってんだよ!」と叫ぶ悠新に、文美は驚き、やがてポロポロと涙を流す。
息を切らす悠新のポケットの中で、マロンが小さく微笑む。
文美を助けたことで、皮肉にも悠新自身が「まだ自分は生きていて、誰かを救えるんだ」と実感する。
文美が震える声で「どうして……ここがわかったの?」と尋ねる。




