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神剣のプロトコル  作者: 深井立花 数白
第1章:ヘタレ剣士とアラモード
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[Process1/5:天地滅殺]Flow5/5

 エニアによると、評価の結果は予想以上にいいものだったらしい。帰り道、エニアは終始ご機嫌だった。

 俺の方にも収穫がある。ステータスを確認したら、今回のコボルト討伐で昇華点ポイントが与えられたのだ。やはり、自分の行いの成果が目に見える形で与えられるのは気分がいい。

 

 しかし、今後の武器評価に対する課題も残った。俺が魔物との戦闘に集中すると、戦闘力皆無のエニアが危険にさらされる。エニアは大丈夫だというが、やはりそんなわけにはいかない。


 今後、新製品の臨床評価を行う際にはエニアを守るディフェンダーと、できればヒーラーを募集しようということになった。そうすれば、万が一俺が戦えなくなっても安心だろう。


 そんなことを話しながら屋台で昼食をとり、工房へ帰る途中のことだ。俺と顔なじみの孤児院のチビ達3人が噴水広場で遊んでいた。名前はヨハン、サウル、クララ。


「あ、リガルだ!」

「だめだよヨハン、ちゃんと『リガルさん』って呼ばないと」

「うそ、リガル!? やだ、こんなことならもっと可愛い服着てくれば良かった……」


 俺の姿を見つけて走り寄ってくる3人。ただ、お上品スマイルだったクララはエニアを見て何やらおっかない顔に変わった。


「リガルさん、お久しぶりです」と、ブロンドの髪を整えた礼儀正しいサウル。6歳。

「なにしてんだ、ヘタレリガル!」と、こっちはツンツン黒髪のクソガ……やんちゃなヨハン。5歳。


「よお、久しぶりだな。俺は今、仕事中。あとヘタレは余計」

「ぷぷ、おまえが仕事? おまえにできる仕事とかあんの?」


 うるせえぞヨハン、俺が仕事をしていることの何がおかしい。


「もう、ヨハン……そんなこと言ったらリガルさんに失礼だよ」


 さすが、一番のお兄さんであるサウルは俺をフォローしてくれる。そして……、


「ちょっとリガル、この金髪女は何なの!?」


 開口一番、エニアをビシッ! と指さして詰め寄ってくる、緩やかなウェーブのかかった亜麻色ロングヘアーの幼女・クララ。5歳。


「いや、こいつは今回、俺に仕事を依頼してきた武器屋のエニアっていうやつ」

「リガルに仕事……? まさか、あなた! わたしのリガルを狙ってるんじゃないでしょうね!?」


 クララはちょっとマセているのだ。その発言を聞いてエニアは少し慌てていた。


「ね、狙ってないです! 私はリガルさんとはお仕事を一緒にしているだけの、ただの仲間です」


 きっぱりと言い放つエニアを、それでも疑わしげに、じろ~りと眺めるクララ。


「本当かしら……まあ、あなたは見た感じ頭が弱そうだし、そんな胸だけの女にリガルは渡さないけど!」

「む、胸だけの女……」


 エニアはショックを受けて白くなっていた。

 クララはちょっとマセていて、毒舌なのだ。止めるべきか。いや、しかし俺が暴走するクララを止められた試しはない。温かく見守ろう。許せ、エニア。


「ちょっとクララ……」

「うるさいわね、サウル! 部外者は入ってこないで!」


 あ、見かねたサウルが仲裁に入った。偉いぞサウル。お前に任せる。

 俺は手を貸さないし、仲裁しない。それで問題ない。


 俺が部下の成長を期待する上司のような気持ちでいると、


「おいヘタレリガル、【びょーじゅけん】って知ってるか?」


 混沌の様相を呈してきたエニア達をまるっきり無視し、ヨハンが話題を振ってきた。マイペースな奴だ。


「ああ、知ってるぞ」


 ヨハンが口にした剣、【病樹剣アヴィレプス】。太古の遺跡から朽ちた状態で発見された大剣であり、周囲に魔力の根を張って触れた生物の魔力を奪い取る能力を持つ。


「ちょー強いってホントか?」

「そうなんじゃねえか? 国で管理されてたくらいだしな」

「じゃあ、【びょーじゅけん】があれば、オレもすげえ冒険者になれるか?」

「んー、それはどうかな……第一、盗まれて行方知れずだって話だぞ?」


 そう。【病樹剣】は朽ちた刀身の再生のために無差別に魔力を吸収しようとする性質と、完全に再生した場合の威力を危険視されて国で管理されていた。

 しかし、半年ほど前に何者かによって盗み出されてしまったと聞いている。


「えー! マジか⁉ 見つけたらオレの物にならねーかなー……」

「ならねえだろ……しかしヨハン、お前冒険者になりたいのか?」


 まあ、ヨハンは外で遊んだり冒険ごっこするのが好きだ。冒険者に憧れても当然か。


「おう! オレは【神剣】を超える冒険者になるぜ!」


 ほう、ヨハンの目標は【神剣】なのか。【神剣】、人気だな。


「ならヨハン、冒険者は武器だけじゃなく自分自身も強くならないと駄目なんだぞ? それに、仲間と協力しなくちゃいけないから喧嘩もほどほどにな」

「うるせえヘタレリガル。おまえだってヘタレのボッチじゃねえか!」

「お、言ったなコノヤロ」


 俺はヨハンを捕まえて頭をぐりぐりする。


「ぎゃー! やめろー! 『じどうぎゃくたい』だぞー!」

「違うー。教育的指導ー」


 人は真実を言われると腹を立てる。大人の俺はヨハンにそれを教える義務があるのだ。断じて子供に八つ当たりしているわけではない。

 俺が年長者として当然の務めを果たしていると、サウルがクララを連れて戻ってきた。


「クララ……初対面の人にあんなこと言っちゃだめだよ……」

「だって! あのメギツネ、リガルをたぶらかしているに違いないわ!」


 サウルがクララをエニアから引きはがしたらしかった。そしてクララは『女狐』なんて言葉をどこで知ったのか。


「サウルー! 助けてー! リガルがいじめるー!」


 ヨハンがじたばたしながら、戻ってきたサウルに助けを求める。


「ああ、もう……またリガルさんを怒らせるようなこと言ったんでしょ。すみません、リガルさん」


 サウルは今度、俺とヨハンの仲裁に入った。仕方ない。齢6歳の苦労人、サウルに免じてヨハンを放してやる。


「オレはほんとのこと言っただけだ! なのにリガルが……」

「あのねヨハン、物には言い方ってものがあってね……」


 ヨハンがサウルに宥められている間に、


「ねえリガル、あんな女よりわたしの方が若くていい女でしょ?」


 今度はクララが上目づかいですり寄ってきた。身長が足りないので俺の足に腕を絡めている。


「若いにも限度ってものがあるだろうが」


 はっきり言ってクララのこんな言動には慣れている。俺の塩対応にクララは目をうるうるさせた。演技だが。


「そんな、リガルのいけず……わたしの気持ちに気付いているくせに、応えてはくれないのね……」

「応えたら捕まるってば」


 こいつはホント、そういうセリフをどこで覚えてくるのやら。


「クララも、あんまりリガルさんを困らせてはいけないよ?」


 おお、やはりサウルは偉い。ヨハンの相手をしながら、こちらに援護射撃してくれた。しかし、


「何よサウル! 聞き分けいい振りして、さっきはだらしない顔であのメギツネの胸ばかり見てたじゃない! このムッツリスケベ! 女の敵!」

「ち、違う、見てないよ!」


 サウルまでクララに噛み付かれてしまった。収集がつかない。

 一方、そのメギツネ・エニアはと言えば、


「胸だけの女……」


 まだ白くなっていた。


   ◇◆◇◆◇


 チビ達と戯れているうちに夕方になった。ヨハンやクララは遊び足りないようだったが、サウルに連れられて帰っていく。


「それではリガルさん、今日はこれで失礼します。エニアさん、クララが色々言ってすみませんでした」

「リガル! あなたには私という女がいるんだからね! 浮気しちゃだめよ!」

「おい、ヘタレリガル! さっきはよくも頭ぐりぐりしたな! 覚えてろよ!」

「おー、気を付けて帰れよー」


 にぎやかなヨハン達を見送った俺とエニア(←まだ少し白い)。


「さて……俺達も帰るか」

「そうですね……それにしてもリガルさん、あの子たちと仲がいいんですね。少し意外です」

「まあな。この街のじゃないけど、俺も孤児院出身だから。その繋がりでな」


 俺がそういうと、エニアは少し申し訳なさそうな顔をした。


「あ、そうだったんですか……すみません、嫌なこと聞いちゃいましたか……?」

「いや、そうでもねえよ。気にすんな」

「はい……」


 しかし、エニアは気まずく思ったらしく、ここで話が途切れた。


 その間に俺は考えていた。さっきヨハンに『冒険者は武器だけじゃなく自分自身も強くならないと駄目だ』と言った。だが、よくよく考えてみれば、精神的にヘタレている俺が何を言っているんだ、って話だ。


 今日の評価がうまくいったのも、俺自身でなくエニアの武器あってこそのものだろう。苦笑してしまった。


 あ、エニアの武器と言えば、


「ところで、この長剣に商品名とかは付いてんのか?」


 すると、きらーん! と、エニアの目はたちまち輝きを取り戻した。


「……! その剣の名前ですか……? 聞きましたね? 聞いてしまいましたね?」


 ずずいっ、と迫ってくるエニア。


「いや、聞いたけど……どうした、そんな勿体付けて」

「ふっふっふ……ふっふっふですよ、リガルさん」


 エニアがにやにやしている。

 ……俺はこの先の展開が読めた。


「聞いて驚いてください! その剣の名前は、【天地滅殺剣:シャイニング・カタストロフMk.Ⅶ(マーク・セブン)】です!!」

「却下」

「なんでですか!?」

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