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神剣のプロトコル  作者: 深井立花 数白
第1章:ヘタレ剣士とアラモード
21/27

[Process4/5:濡れ衣の枚数]Flow4/4

 エニア達が出かけている武器屋。

 二人きりの控え室で相対する、俺と……ソイツ。


「あ~あ。流石に【神剣】くんにはバレちゃったかあ……アタイの演技力もまだまだだねえ……」


 ソイツは両腕を上にあげて、う~ん、と伸びをする。先ほどから観察はしていたが、どうにも悪意を持っているようには見えない。


「で、お前はマジで"アホ毛様"なの? 今、プリシラはどうなってんの?」

「そ、アタイは"アホ毛様"。かわいーかわいープリシラちゃんを守る妖精さんです。あ、今はこの子の体を借りてるだけで、プリシラちゃんの意識は眠ってるからね」

「なんか悪影響とかないんだろうな?」

「なっしんぐ、だぜ」


 満面の笑みでサムズアップしてくる"アホ毛様"。多少ウザい。


「そんで、そのプリシラちゃんを守る妖精サマが何の用? なんか、プリシラに危機が迫ってるとかか?」


 そう言うと、"アホ毛様"は頭をぽりぽり掻いて、なにやら言いづらそうにしていた。


「いや、実はさあ……むしろ【神剣】くん、キミがちょっとヤバいかも知れないんだよねえ……」

「え、俺が?」

「そ。ホントはアタイも手伝ってあげたいんだけど……アタイにも事情があって、ちょっと無理なのよ」

「まあ、お前みたいな奴に頼るつもりもないけど……そんなにヤバいの?」

「ヤバいよ~、なんてったって……あ」


 "アホ毛様"の体が、脱力したように傾く。


「マズい、時間切れだ……思ったより早かったな……遊んでる場合じゃなかったかも」

「オイ待て、せめてなんか情報くれ」


 催促する俺に、"アホ毛様"は少し鋭い視線を返す。


「【神剣】くん。キミ、自分に『弱体魔術』掛けてるでしょ? それも、めちゃくちゃに強いヤツ」

「……よく知ってるな」

「ふふ、アタイもそこそこの情報通なもんでね」


 そう、俺は自分に弱体魔術を掛けている。常に全力で掛け続けている。それにより肉体に負荷を掛けて鍛え、同時に弱体魔術や魔力量そのものも鍛え、さらに肉体に負荷を与える。

 どういうわけか身体能力操作の魔術しかできない俺が、強くなるために編み出した特殊な鍛錬法。


「で、今、その弱体魔術……制御できなくなってるんでしょ?」

「……当たり」


 そのとおりだ。多分、クレイドも気づいている。2年前の事件以来、俺はそれを解除できなくなってしまった。理由は分からない。

 もしかしたら、武器への不信感を克服すればどうにかなるんじゃないかとも思っていたけど、今のところ、何も変わらない。


「……とすると、やっぱヤバいかな……【神剣】くん。早くその制御方法を取り戻さないと、ヤツが……」


 そう言いながら、"アホ毛様"はどんどん机に突っ伏していっている。


「おい待て。ヤツってだれのことだ?」


 そして"アホ毛様"は、とうとう目を閉じながら、


「……きょう、らん……が……」


 と呟いたまま、プリシラの体を操れなくなったのか、動かなくなった。


 きょう、らん……【狂乱】? 【狂乱】って、まさか――

 依然として静かな店内で、俺は自分の鼓動とプリシラの寝息だけを聞いていた。


   ◇◆◇◆◇


 "アホ毛様"が出てくることは、その日以降、一度もなかった。

 エニア達は、ずっと外出しっぱなしだ。

 俺は、いつもどおりに戻ったプリシラと、誰も来ない武器屋でずっと考えていた。


 "アホ毛様"は確かに、【狂乱】と言ったように聞こえた。それは、2年前に俺の剣を折った魔物、【狂乱のベイサード】のことか。奴はファシエに大怪我を負わせた後逃亡し、今も見つかっていない。

 そいつが今、また現れようとしているのか? 現れたら、今の俺に何ができるのか? 俺は、また――


 そうだ、ファシエ。あいつはどうなった? 見つかったのか? ウィリオンからの連絡は?


 そんなことをぐるぐると考え続けること数日、待ちかねていた連絡がやっと入り、俺は急いでアークハウスの拠点へ向かった。

 そこで待っていたウィリオン。ずいぶんと憔悴した顔をしていた。


「リガル君、すまない。大分待たせてしまったな……」

「いや、そんなことはいいんだが。なんか分かった……みたいだな」


 俺は一応尋ねたが、ウィリオンの様子から、信じたくもないような調査結果が出たことが予想できてしまった。そして、ウィリオンがその予想が正しかった事を告げる。


「ああ……ファシエ君に関してだが、少なくとも、街で起こった魔物襲撃事件には関わっている可能性が高い……」


 やはり、信じられなかった。


「……詳しく、聞きたい」

「アークハウスは、街の外の遺跡の一部を拠点として使っている。そのひとつに隠し部屋が見つかった。その中で……アークハウスが保護した魔物を使役し、武器として犯罪組織に売り渡している記録があった……そしてその首謀者が、ファシエ君だと思われる……」

「じゃあ、あのファランクスタートルはファシエが手を加えた魔物だっていうのか?」


 そこは納得いかない。元々俺とパーティを組んでいただけあって、ファシエの魔力はそれなりの量があることは知っている。しかし、それだけであの防御力になるものなのか。


「そこが不可解だということは分かっている……ファシエ君の魔力だけではあの防御力にはならないはずだ……何か、まだ私たちが知らないことがあるのだろう……それに、先ほど言ったことも状況証拠に過ぎない。決定的なものは見つかっていないのだ……」

「……ファシエの居場所は分かりそうか?」

「いや、それは分からない……」

「そうか……騎士団に報告する前に、直接話を聞きたいが……」

「うむ……」


 そうして、俺とウィリオンの間に沈黙が落ちた時だ。アークハウスの穏健派と思われる白ローブの男が部屋に入ってきた。


「失礼します」

「どうした?」


 何事か問いただすウィリオン。しかし、男はこちらをチラチラ見てきて、


「あ、いえ、この場では……」


 部外者である俺に聞かれたくない話なのだろう。だがウィリオンは話を促した。


「こちらは信頼できる協力者だ。問題ない」

「そ、それでは……貧民街で聞き込みをしていた者からの報告です。今夜、街の外の遺跡で犯罪組織が何者かと取引するという情報がありました」

「何、どこの遺跡だ?」

「恐れ入りますが、そこまで分かる情報は得られませんでした」

「そうか、分かった。ご苦労、下がっていい」


 そうして男が退出すると、いっときウィリオンは思案していた。


「リガル君、どう思う?」

「話をきくかぎり、ファシエが犯罪組織と接触する可能性があるんじゃないか?」

「うむ、私もそう思う。しかし、どこの遺跡かが分からないのが痛いな……」

「手分けして探そう。俺も1カ所担当する。場所を教えてくれ」


 そして俺は遺跡のひとつを教えてもらう。街の南にある遺跡。そこには、普段使われていない穏健派の施設が残っているらしい。


「リガル君、ひとりで大丈夫か?」

「むしろ面識のないアークハウスのメンバー連れてくとややこしくなる。何を信じたらいいか分からん」

「確かにそうだな……ではその遺跡はリガル君に頼もう。他は私の方で手配しておく」

「分かった」


 そして、俺は南の遺跡へ向かった。その時の俺は、ただファシエから話を聞きたい、それだけを思っていた。


   ◇◆◇◆◇


 南の遺跡にたどり着いた俺は周囲の状況を探っていた。報告からは犯罪組織が来るかも知れないと聞いていたが、今のところそれらしき人影はない。


 しかし、遺跡の奥の方から、巨大な魔力が漏れ出してきているのを感じる。ウィリオンは穏健派の施設が残っていると言っていたが、何が残っているんだ?


 ひとまず遺跡の外を調べ終えた俺は内部に踏み込む。見たところ何も異常のない、ただの石造りの遺跡だ。穏健派が使っていたらしい機材がまだ置かれている。

 ただし、何もなかった外と対照的に、空間全体に魔力が満ちているのを感じる。これは詳しく調べる必要がありそうだ。


 そうして一通り内部を見ていると、ある一カ所の壁の周囲だけ魔力が濃い事に気づいた。何かあるのかと思い壁を調べていると、ブロックのひとつが外れ、スイッチが隠されているのを見つけた。それを押すと、予想通り壁がスライドし、隠し扉とおぼしきものが出てくる。それは遺跡内部とは違い、金属と機械で作られていた。


 その扉を開ける。すると中から差し込んでくる人工的な白い光。そして一層濃い魔力。扉の向こうは通路だった。


 人の温度をまるで感じないその通路を、俺は警戒しながら進む。辺りにはそこら中に機械のケーブルなどがひしめき合い、まるで何かの研究所のようだった。そして、突き当たりには扉がある。


 近づくとその扉は勝手に開き、不自然に広い空間が現れる。奥には巨大な機械があり、近くには空間投影装置もある。そこに映っているのは禍々しい造形の大剣。


 あれは、【病樹剣アヴィレプス】なのか……? なんでここに……?


 それだけではない。巨大な機械の前ではフードをかぶった誰かがうずくまり、まるで祈っているようにも見える。その人物は魔力の光を断続的に機械に送り込み、その度に投影装置に映る【病樹剣(アヴィレプス)】の朽ちた部分が再生していく。そしてついに俺の見ている前で全ての刀身が復元された。


 俺はその人物の後ろ姿に見覚えがあった。


「ここで何してる……ファシエ」


 すると、うずくまっていた人物は立ち上がり、フードを取って俺と向き直る。

 それは、やはり探していたファシエその人であった。


「リガル……」


 目を伏せ、どこか悲しげな声を出すファシエ。その様子は気になったが、今掛けるべき言葉はそれではない。


「ファシエ、たった今何をしていたのか、とか聞きたいことが山ほどある。おとなしく付いてきてくれないか?」


 俺は感情に任せて問い詰めたいのをこらえ、そう言った。

 しかし、ファシエは俺の言葉には答えない。


「ごめんなさい。こんな方法しか、とれなくて」


 と、泣きそうな顔で、ただそう言った。

 そして俺がその発言の意味を尋ねようとしたとき、まるで想定外の事態が起こる。


「リガルさん!!」「リガル!!」「リーくん!!」


 なぜか入り口の方から、エニア・クレイド・プリシラが血相を変えて突入してきた。俺は困惑した。

「は? え? お前ら何やってんの? こんなところで……」


 俺がそう言いかけたとき、ファシエが予想もしなかった発言をした。


「助けてください! リガルは今日、【病樹剣アヴィレプス】を手に入れる気です!」


 何かがおかしい、と思うには遅すぎたのかもしれなかった。

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