第16話:Process3[結成]Flow1
久しぶりのパーティメンバー、クードとの再会。
ただ、それよりも先にやることがある。
見ると、クードに頭を抱えられたその女は目を回しているだけのようだ。とりあえず命の危機とかではないっぽい。
また、髪から除く女の耳はやや長くてとがっている。エルフなのか? いや、一般的なエルフほどは長くないな。
「リガルさん、ひとまずこの方をうちに運びましょう。そうすれば薬もありますから」
おっと、いらんことを考えている場合じゃないな。
「そうだな。クード、魔術で持ち上げられるか? ゆっくりでいい」
「ああ、任せてくれ。どこに運べばいい?」
クードは以前俺と同じパーティでアタッカーを務めていた、ひとつ年上の魔法剣士だ。遠距離魔術こそ使えないが、近距離の魔力操作はお手の物だ。手で行うより優しく運べるだろう。
ちなみに、俺は身体能力操作の魔術しか使えない。しかも、2年のブランクの間に制御できなくなっちまった。え、役立たず? うるせえ黙れ。
まあとにかく、クードの助けも借りて、倒れていた魔術師女を店の寝泊まり用ベッドに寝かせてやる。女が握っていた杖と何かのチラシも回収しておいた。
魔術師女に見たところ怪我もない。顔色も悪くなく、なにかの病気を持ってそうにも見えない。というより、今はむしろ幸せそうな顔で眠っている。
しかし、用心するに越したことはない。ちょうど、エニアの師匠・ヒューレ店長は医学にも精通した高名なS級錬金術師だ。ひとつこの魔術師女の具合を見てもらうことにする。
「ではリガルさん。と、クードさん、でしたっけ? 師匠を呼んできますので少しお待ちください」
といってエニアは店長の寝室の方へ向かった。残されたのは俺とクード。
「あ~……久しぶりだな、クード」
「大体2年ぶりだね、リガル」
クードと会うのは、俺が"あの事件"の後にパーティを離脱して以来だった。穏やかな雰囲気や表情は変わらないが、動きの所作からして以前よりも実力を付けていることが分かる。
「え~と……この街に来てたんだな」
「まあ……"例の仕事"が終わったからね。君やファシエさんに会いたくなって訪ねてきたんだ。そうしたら目の前でこの女性が倒れてしまって困ってたんだよ」
「そ、そうか、じゃあ運良く出くわしてよかったな」
「うん、そうだね」
「……」
「……」
会話が途切れる。いやしかし、これは俺のコミュ力が低いからではない。
俺とクードは、なんていうか、"あの事件"のせいで少し気まずい関係にあるのだ。
もしかするとクードはなんとも思っていないかも知れないが、少なくとも俺はクードに恨まれていてもおかしくないと思っている。
何を話せばいいか分からないまま時間が過ぎる。
ただ、そうしているうちに、クードが遠慮がちに口を開いた。
「ねえ、リガル。さっきから気になってたんだけど、君の体って今……」
クードの言葉は最後まで続かなかった。タイミングがいいのか悪いのか、エニアが店長を連れて戻ってきたからだ。
「もう、師匠! 早く診てあげてくださいよー!」
「分かったから叫ぶんじゃねえよ、オレ二日酔いなんだからよ……あ~頭痛ぇ~、気持ちワリぃ~……」
「ええ……酔い覚ましの薬、あれだけ作ってたじゃないですか……」
「んなもん、とっくに全部飲んじまったよ……」
そうしてエニアに連れられ、なんともダメ人間っぽい感じの台詞と共に、この店の店長でもある女性錬金術師ヒューレが現れる。俺も会うのはこれで3度目くらいだ。
盛大に寝癖の付いた長い黒髪に縁の細いメガネをかけ、紫のマントを羽織っている。
見た感じは25歳位の大層な美人なのだが、エニアによると実年齢は見た目とはかけ離れているらしい。
「店長、お疲れっす」
「おう、リガ坊じゃねえか。具合悪いってのはお前のことなのか?」
「いえ、俺じゃないっす。あとその呼び方止めてください」
なんでか俺のこと坊や扱いするんだよな、この人。
「遠慮すんなよ~、お姉さんがすみずみまで診察してあげちゃうぜ? うひひひ」
若干下品でありながら、どこか妖艶な笑みを浮かべる店長。しかし……、
「え、店長、お姉さんって歳でしたっけ?」
「ああン!?」
一気に噛み付かんばかりの表情になる。
「あ、いや、なんでもないっす」
どうやら女性に年齢の話はしてはいけない、というのはこの店長にもあてはまるらしい。
そんな俺たちの会話にエニアはため息をつく。
「はあ……違いますよ師匠。診て欲しいのはこちらの女性のことです」
「なんだこっちかよ……んん? エルフの血が混じってるっぽいな」
そうして店長は魔術を使い、いまだにぐーすか寝ている魔術師女の診察を始めた。
その間に、エニアはクードの方へと向き直る。
「えと、クードさん、ですよね。初めまして、私はエニア・コレクトです。この店で錬金術師と武器屋をしていて、リガルさんとはお仕事仲間です」
「あ、ご丁寧にどうも。僕は冒険者のクード・ロットノウ。危ないところを助けてもらっちゃったね。ありがとう」
「いえいえ、困っているときはお互い様ですから」
「そう言ってもらえると助かるよ……ところで、今診察してくれている方は?」
さっきからクードはちらちらと店長の方を気にしている。
その視線には多少の熱を帯びている気がしないでもない。
「あ、こちらは私の師匠、ヒューレ・プラーグマです。このお店の店長でもあります」
「……! この方があの有名な……まさか、こんなに美しいお姉さんだったとは……」
すっかり診察中のヒューレ店長に見とれているクード。
あ~、そういや、こいつは年上好きだったっけ。
「いや、クード、でもお前……」
「わ、分かってるよリガル! 僕には心に決めた女性がいるんだ。そのためにもこうして……」
クードが慌ててそう言いかけたとき、
「お~お前ら、診察終わったぞー」
という、緊張感のない店長の声がかかる。見れば、診察の時に出ていた魔術の光がもう消えている。
「とりあえずこいつの体に異常はねえ。少し気になるところはあったが……、まあ大丈夫だ。じきに目を覚ますだろ」
「分かりました。ありがとうございます」
「おう、じゃオレは寝るぜ。後、よろしくな~」
そう言って、店長は礼を言うエニアに向かってひらひら手を振りながら出て行った。
店長は「大丈夫だ」と言っていたが、俺はそもそもの疑問をエニアに投げかけた。
「なあエニア、あんな酔っ払いの診察を信じていいのか?」
俺の言葉にエニアは少し苦笑した。
「まあ、確かに見た目と言動はあんな感じですけれど、お仕事や人の命に関わるようなことはきっちりこなす人です。そこは信用できますよ」
「それならいいんだが」
店長が本当に信じていいのか分からない人間だとしたら、エニアも頼ったりしないだろう。その点はむしろエニア自身の方が信じられることは日頃の様子で分かっている。
俺は間接的に店長の診察に納得した。
その俺に対して、今度はクードが語り出す。
「そうだよリガル。あんな美しいヒューレさんが適当な診察をするわけないじゃないか!」
なぜ、お前が確信を得ている。
「いや、待て。信じる根拠がおかしいぞ。あんな寝癖だらけの人間の診察なんか……」
「何を言うんだ! あれは寝癖じゃなくて、ああいうウェーブが強めのセットなんだよ! 素敵じゃないか!」
ぐっ、と拳を握り、訳の分からん主張をするクード。
その目には妙に力が宿っている。
「あ、あのなあ……」
こいつはこれがなければなあ。見た目は爽やかイケメンなのになあ。
そんな俺たちの残念会話をお送りしていると、倒れていた魔術師女がようやく目を覚ました。
「ふにゃあ~~~~~……あれ、ここどこ?」
なんともお気楽な感じで起き上がってきた女。どうやら店長の診察は正しかったようだ。




