SubProcess[幼女刑に処す ~元S級冒険者・幼女のお手製味覚破壊プリン完食記録~]
※第3章本編の後日談です。
バールーフが犯罪者を匿うという活動をしており、その活動の停止と引き換えに司法制度の見直しを要求する演説をしてから、市民はまだ動揺していた。
肩がぶつかった程度でもびくっとなって謝りあうような人もいる。
「自分のが『悪しき原因』となって原因で犯罪が起きるかも」とか考えるタイプの人なのだろうか。それとも誰かが作った『悪しき原因』のせいで起こった犯罪に巻き込まれるのが怖いのか。
しかしその日は、そんな空気をぶち破り、俺にむかって突進してくる幼女の姿があった。
どうせクララとメイと……あれ、ひとり10歳くらいのがいると思ったら、
「リガルーっ!」
「リガルお兄ちゃーんっ!」
「リガル様ーっ!」
俺に飛びついてきた3人の幼女。その3人目は、
「おまえ、シャトレ家のお嬢様じゃねえか? 屋敷で謹慎してるんじゃ……」
そう、数か月前に伝説の剣【クラウ・ソラス】を巡って騒動を起こしたラヴィナという貴族の少女だった。
「そのお屋敷はこの街にありますの! そして、リガル様がこの街で働いていると聞きましたわ! これはやはり運命の成せる御業! なのでちょっと謹慎活動の一環として、奉仕活動をとおもい、お食事をふるまいにやってまいりました!」
「ふるまうなら、オルデンブルクとかダーナの里のやつにしろよ」
「そ、その方たちへの謝罪と奉仕活動は続けておりますわ! 本日は命の恩人であるリガル様への奉仕にやってまいりましたの!」
ラヴィナが弁明をしているところに、クララが突っかかってくる。
「リガルが命の恩人だから何? 私とリガルの邪魔をしないでもらえる? 年増!」
「と、ととととと年増!? そ、そういうあなたこそ、そんな貧相な格好でリガル様に満足してもらえるつもりなのかしら?」
「二人とも愚か。リガルお兄ちゃんを満足させるには……フフ」
「ちょっと、フフ、とか言っていないではっきり言いなさいよ」
「そうですわ!」
「もう、メイとリガルお兄ちゃんは違う次元までいってるの。なにしろ、メイは一晩中リガルお兄ちゃんに……フフ」
「う、うそですわ、リガル様が、あんたなんかに……」
「違うわよ。あのメギツネから聞いたけど、夜中にリガルの布団に潜り込んだだけらしいから」
「な、なんだ、そうですの。一緒のベッドというのはうらやましい限りですが、まああなたみたいな子供はリガル様にはふさわしくないでしょうからね」
いや、おまえら全員子供だから。とは言わないでおいた。無駄だからだ。
「あなたのじゃないわ! リガルは私のお婿さんになるのよ!」
うるさいなー、もう。
俺は最近の評価の精神的苦痛と、3幼女がうるさすぎてグロッキー状態だった。
「ほら! あなたたちがうるさいからリガルが困っているじゃないの!」
「うるさいのは貴女のほうではありませんこと? あなたみたいな口だけが達者な子供なんて、リガル様にはふさわしくありませんわ!」
「フ……じゃあ、お姉ちゃんはなにができるっていうの……?」
「ふふん! わたくしは、今日お料理を作ってリガル様をねぎらいに来たのですわ! 貴女たち庶民には手に入らない高級食材の数々! きっとリガル様も気に入ってくれますわ!」
「ふん! なにも知らないのね。リガルはね、疲れているときにはプリンを食べたくなるのよ。あなたの料理より、わたしのプリンのほうをリガルは喜ぶはずよ! ねえ、リガル?」
クララがそう聞いてきたので、俺は不用心に答えてしまった。
「え? ああ、確かにプリンたべたいなーと思ってはいたけど……」
「フフフ……いいこと聞いた。それじゃプリンに――して、――すれば、リガルお兄ちゃんはメイに……フフ」
そしてにらみ合う3幼女。
「……決まりね。勝負よ、あなたたち。誰のプリンがリガルに一番喜んでもらえるか……」
「面白いですわ。このラヴィナ・フォン・シャトレ、受けて立ちましょう」
「これでうるさい羽虫を振り払って、リガルお兄ちゃんを……フフ、フフフフ……」
そこはかとなく危険を感じた俺は、3幼女を止めようとしたが……。
「お、お前らいいって。プリンならエニアに作ってもらって……」
しかし、なぜか彼女らは一斉に険しい顔になり、
「それはダメ!!」
「ダメですわ!!」
「認めない……!!」
「ええ……なんで……?」
そこへエニアが店から出てきて、余計なことを言う。
「いいじゃないですか。リガルさん、『俺の胃に良き原因を求むー!』とか言ってましたよね? 休憩入っていいですから、皆さんのプリンをいただいたらどうですか?」
それを聞いた3幼女。
「ふん! メギツネの割に気の利いたことを言うわね! リガルが私にめろめろになっても知らないわよ?」
「吠え面をかくのはそっちの方……私の『%$#&』プリンを食べればリガルお兄ちゃんは……フフフ」
「ふふん! シャトレ家の力、存分に見せてやりますわ!」
……不安しかない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
エニアが言っていた通り、先日俺は確かに言った。「俺の胃に良き原因を求む」、と。
しかし、今俺の目の前にあるのは――
・クララが作った、レモンとかピーマンとかが丸ごと入った、プリンとは思えないほ苦酸っぱいにおいのする「物体A」。
・メイが作った、なぜか紫とピンクのマーブル模様をした、甘さとは香ばしさではなく、ある意味の「殺気」を放つ「物体B」
・ラヴィナが作った、ウナギとかイカゲソとかが浮いている「物体C」。匂いは甘いのが恐ろしいところだ。
そして、これらの物質を俺が食べるのを、今か今かと待ちわびる3幼女。
殺す気か。
重要なことなので、繰り返して言おう。
殺 す 気 か ! ?
俺はせめてもの覚悟を持って死出の道を歩むべく、3幼女にプリンの作り方を聞いた。そしたら、
クララ:リガルは大人だから、酸っぱいのとか苦いのが好きだと思ってレモンやピーマンを隠し味に入れておいた
メイ:リガルお兄ちゃん……いやだ、もう、そんなこと言わせるなんて……ぽっ
ラヴィナ:持ってきた高級食材をとりあえず入れてみましたわ!
お前らプリン作る気ねえだろ!?
……という叫びを何とか押し殺した俺。
これは一応、クララたちが俺のためを思って作ったプリン……と仮に呼称されている何かだ。
食べなかったら、3幼女は悲しむだろう。
俺は日々テキトーに生きている自覚はあるが、子供たちが悲しい思いをするのはごめんだ。
集中しろ。
味覚と嗅覚と触覚を遮断するんだ。そうしたらギリいける気がする。
俺は【仮面剣】と同じくらいの真剣さを持ってスプーンを手にする。
そして、戦いは始まった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それは、壮絶な戦いだった。
まず、「隠し味」と言っていた割には全然隠れていない、全材料がケンカしているクララの『物体A』を食べきった。
次に、口に入れた瞬間に爆発的な刺激臭が広がるメイの『物体B』を、めまいを感じながら飲み込んだ。
最後に、魚介の臭みとカラメルソースが絶妙のハーモニーを奏でている訳もないラヴィナの『物体C』を胃に流し込んだ。
そして……
「ど、どれもうまかったぜ……」
とサムズアップした俺を誰かほめてほしい。
3幼女は俺の内心(あと胃の中)も知らず、無邪気に喜んでいる。
というところに……
「あ、リガルさん。朝ごはんの材料の余りでプリンがひとつできたんですが、食べますか?」
と言いながらエニアがプリンの乗った皿を持ってやってきた。
救いの神、降臨!!
「た、たべる! たべます! いまこそ、万感の思いをスプーンに込めて食べさせてください!」
俺の必死さにエニアはちょっと引いていた。
「べ、別にそこまで気合い入れて食べなくてもいいですけど……はい、どうぞ」
そして俺の前に現れる、甘く、かつほろ苦い香りをたたえた弾力のある、文字通りのマイ・スイート。
俺はそれを天地を司る精霊たち、いままでに出会った人々、そして作ってくれたエニアへの感謝を胸に口に運ぶ。
言葉の方が、ひとりでに口からこぼれた。
「うまい……ああ、うますぎる……」
ただ、隣のエニアは冷ややかなものだ。
「いつも作ってるプリンですけどねー」
しかし、もうわけわからんほどテンション上がりきっている俺は、エニアの手を取って言う。
「エニア、愛してる。俺のために、毎日プリンを作ってくれないか?(イケボ)」
「ふえっ!?」
エニアはなんか変な声を出し、顔を赤くして目を泳がせたが、結局、
「も、もう。へんなこと言わないで下さいよ。すでにプリンならほぼ毎日作ってるじゃないですか」
そして収納錬装具からピコハンを取り出し、ぴこん、といつもより控えめに俺を叩いた。
が、俺もエニアも忘れていた。
俺たちを見ている3幼女の存在に。
「ぐぬぬ……あのメギツネ、よくも……」
「メイのリガルお兄ちゃんを……」
「プリンでたぶらかそうなんて……」
そして、何を考えたか3幼女はババッと円陣を組み、
「分かってるわね? まず私たちは、あのメギツネからリガルを引き離さなくちゃいけないわ……」
「賛成。真っ先に排除すべき可能性」
「そのためにはどうすれば……」
とかなんとか話し合っていた。
ものすごく嫌な予感がする。
そして3幼女は急に厨房の方を向き、
「そうよ! わたしたちのプリンを合わせれば……」
「最強のプリンができるはず……」
「そうすれば、リガル様もイチコロですわ!」
「まて、お前ら何をする気だ。俺はもうこれ以上……」
俺はさすがに命の危機を感じ、止めようとしたのだが……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「できたわ、リガル! これが私たちの合作の究極プリン! しかも夢のバケツサイズよ!」
ああああああああああああああああああ
で き て し ま っ た 。
それはクララの食材同士のケンカ感、メイの薬物のヤバさ、そしてラヴィナの海鮮の臭みを凝縮した、『物体XXX』というべき存在だった。しかもマジでバケツで作りやがった。
こんな量、普通のプリンでも食いきれねえわボケ!
「さあ、リガル! あんなメギツネのこと忘れて、お腹いっぱい食べてね!」
「そうすればリガルお兄ちゃんは――になって、――しちゃって……ククク……」
「私たちの愛、存分に受け取ってくださいませ!」
そして、そんな『物体XXX』を見たエニアは、
「あ、リガルさん。私仕事に戻ります。食べ終わったら戻ってきてくださいね。……生きていれば、ですけど」
なんて言って逃げやがった!
3幼女はそれぞれスプーンに『物体XXX』をすくい、俺に「あ~ん」ってしてくる。
俺はやっと悟った。俺が今座っていたのは、処刑台の椅子だったのだと。
(誰か! 俺の胃に! 『良き原因』を求む! マジで!!)
俺は内心で、久しぶりに本気で助けを求めた。
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