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神剣のプロトコル  作者: 深井立花 数白
第1章:ヘタレ剣士とアラモード
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プロローグ&[Process1/5:天地滅殺]

[プロローグ1:おうち論]


 俺、リガル・フェイルは20年の人生を経て、ひとつの真理に到達した。

 魔法文明が発達したここ、サルティヴ王国でも、人間に最も必要なものとして『衣』・『食』・『住』の3つがよく挙げられる。

 

 では、汝に問う。

 その3つの内で最も大事なものは何か?

 

 何、『衣』? ……否。人間は裸百貫なるぞ。

 では『食』? ……否。サバイバル技術があれば、以外と何とかなるものだ。


 蒙昧もうまいなる汝に教えたもう。答えは『住』、即ち『おうち』なり。

 『おうち』こそ究極。『おうち』こそ至高。


 人々は、どれだけ社会の荒波にもまれようとも、街の外で魔物に襲われようとも、『おうち』では心の安息を得る。まさに現代の人類に最も必要なものではないか。

 

 うん、納得。納得だ。こんな幸福を人々はどうして手放すことができようか。この暖かい安寧の内にいつまでもいたいと思うのは、人として当然のことなのだ。


 ああ、お外こわい。



[プロローグ2:錬金武器屋オープンです!!]


 皆さん、初めまして。エニア・コレクトといいます。錬金術師です。

 でも、私が作るものは少し変わっているかもしれません。

 私が主に作っているのは武器です。冒険者の皆さんの役に立ちたいんです。


 いや、本当は冒険者になりたかったんですけどね。

 私は小さいころ、街の外で魔物に襲われたところを冒険者の人に助けてもらったことがあります。それから私も冒険者になりたいと思ったのですが……私には運動神経が致命的にありませんでした。剣とか振ったら転んじゃいます。


 それなら、せめて冒険者の皆さんの役に立てる仕事に就きたいと思い、有名な女性錬金術師であるヒューレ師匠に弟子入りして学び、ついにオリジナルの武器を作れるようになりました。


 ……え、なぜ武器なのか? 薬やアクセサリでもいいのではないか、ですか?

 ふっふっふ。いい質問です。なぜ私が武器を作ることを選んだか……それは……、


 かっこいいから、です!!


 永遠のスタンダード・直剣とか! リーチを保って突き刺す槍とか! 防御を崩しやすいメイスとか! 東方諸国の魂・刀とか! もう全部全部かっこいいです!

 え、刺突にも斬撃にも使えるパルチザンですか? 実に良い! 良いです! 分かってるじゃないですか!


 あ、いや、とにかく! 強くてかっこいい武器を作って冒険者の皆さんにお届けしたい、というのが私の目標なのです! 

 私は数々の試作を重ね、既存のものとは一線を画す性能の武器を作り、師匠にお願いしてお店にスペースを用意し、ばっちり宣伝し、万全の準備を整えて武器屋をオープンさせました!


 さあ! 伝説の!! 始まりです!!!


 ……武器は1週間、全く売れませんでした。なんでですか。



[プロローグ3:3秒にも満たない悪夢]


 一瞬だった。

 巨大な影に不意を突かれ、仲間は吹き飛んだ。

 影の正体は、熊の体に狼の頭を持ったような魔物だった。

 額に奇妙な紋様を浮かべていたそいつは、さらに倒れた仲間に向かって腕を振り上げていた。


 しかし、その時の俺はそこまで焦っていなかった。俺は既にその腕を捉えていたから。

 そして、当然のように魔物の動きを止められると思っていた俺は剣を振り下ろし、


 剣が折れた。


 俺は想定外の事態に対応できなかった。

 魔物の腕を止めることはできず――



[Process1/5:天地滅殺]Flow1/5


「ああああああ……気分悪っ……」

 俺、リガルは目を覚ました。馬車での移動中に寝ちまった。夢のせいで最悪の寝覚めだ。春の陽気につつまれて、普通なら長閑のどかなはずの緑あふれる街道の風景も、今は少し恨めしい。


 あれから2年、俺は冒険者でありながら戦闘を避けて生きてきた。しかし、その間もこうして悪夢に苛まれている。頭に、胸に、重苦しいもやがかかっている。思わずため息が出てしまった。 

 すると、


「あの……大丈夫ですか?」

「ん?」

 俺の体調の心配でもしてくれたのだろうか、向かいの席に座っていた17歳くらいの少女が声をかけてきた。


 ふむ。

 第一印象:金髪碧眼セミロングヘアー。ゴーグルっぽいものを頭につけている。

 第二印象:職人風の丈夫そうな上着とミニスカート。

 第三印象:発育。

 いやいや、なにジロジロ見てんだ俺。返事をせねば。


「ああ、大丈夫だ」

 俺はそう答えたが、依然少女は不思議そうな顔をしてこっちを見ている。

 何だよ。何か気になるのか? ……と思っていたら、少女は続けて聞いてきた。


「もしかして、冒険者の方ですか?」

「まあ、そうだけど」


 俺の格好は何の変哲もないシャツとベスト、ボトムスにブーツ。その上に革製の胸当てと肩当てを着けている。いたって普通の冒険者には見えるだろう。


「武器は持っていないんですか?」

「何も」

「な、なんで持っていないんですか?」

「俺、武器とか信じられないタイプの冒険者なもんで」


 そう、俺は武器を持っていない。2年前のあの日から武器が信用できなくなり、武器を振るうことも、戦うこともやめた。今日の仕事も、戦闘のないただの配達だ。

 何が気になるのか、少女の質問は続いた。


「お、お名前はなんておっしゃるんですか?」

「……リガル。リガル・フェイル」

「私、エニアと言います! 武器屋をしているんです! どうして武器が信じられないか教えてくれませんか⁉」


 ぐいっ、と身を乗り出して聞いてくるエニアとやら。

 ……こいつ、武器屋だったのか。なるほど、商売柄気になるわけか。だが、


「やだよ。他人にする話じゃねえだろ」

「そこを何とか!」

「やだっつってんだろ」


 俺はやたら食い下がるエニアをいなす。妙にしつこい。どうしたもんかな……と思っていたその時、馬車がガクン! と急停止した。


「ひゃっ!」

「おっと」


 バランスを崩す俺とエニア。そこへ、御者ぎょしゃの慌てた声がかかる。

「魔物です! 下りないでください!」


 魔物が出たか。まあ、街の外を走る馬車には必ず護衛がいるから、片付くまで待てばいい。俺は手を貸さないし戦わない。それで問題ない。そう思った。


 しかし、外から金属が折れる音が聞こえた。続いて男の悲鳴。

 嫌な予感がした。急いで馬車の外を見る。


 護衛らしき男がいたが、腕を負傷している。

 そして彼の剣は、折れている。


 護衛の周囲には3体の『ウルフリザード』。並みの武器では通らないほど硬い、鋼鉄の鱗と骨格をもつ魔物だ。バカな。ここは奴らの生息範囲から大きく離れているはずだ。

 しかも、どういうわけか奴らは酷く凶暴化し、暴れているように見える。


「リガルさん! 何が起こっているんですか⁉」

「割と手強い奴が来てる……すこしヤバいかもしれん……」

「そんな! じゃあ、あの護衛の方が危ないです!」


 そういうが否や、エニアはあろうことか丸腰で飛び出そうとした。俺は慌ててその手をつかむ。


「馬鹿、何やってるんだ⁉ 死にたいのか⁉」

「で、でも……」


 その時、今度は馬車が急発進した。御者ぎょしゃは必死な様子で鞭を振るっている。護衛を見捨てて逃げるつもりなのか。そんなことをしたら、あの護衛は間違いなく――


 ……気付くと、俺は馬車から飛び降り、彼の元へ走っていた。武器も持たないくせに。飛び出そうとしたエニアを止めたばかりの自分が何をやっているのか。


 それでも、なぜだか足が動く。魔物が護衛に襲い掛かる。俺は彼に飛びつき、危ういところで魔物の攻撃をかわした。しかし俺の視界に入るのは、傷つき鮮血に染まる護衛の姿。


 ”悪夢”が頭を過ぎった。あのときと同じことになるのか。またあんな気持ちを味わうのか。俺は自分の内側の何かがこわばるのを感じた。

 その時だった。


「リガルさぁ~ん‼」


 こちらへよたよたと駆けてくる人影。エニアだ! あいつも馬車から飛び出したのか⁉ 死ぬだけだぞ⁉ 俺の絶望は加速する。しかし、エニアが左腕のブレスレットに触れると、そこから光と共に一振りの長剣が出現した。あれは『収納錬成具』。あいつ、なんでそんな物を⁉ 驚く俺に向かって、


「リガルさん! これを‼」


 エニアはその長剣をこちらに投げた。とっさにそれを受け取る俺。

 魔物達は、突然現れたエニアに注意を引かれた。マズい、これでは今度はエニアが危ない!


「くッ……!」


 俺は無理やり体を動かし、目の前の魔物に向けて、なんとか長剣を振るう。俺ははっきり言って威力は期待していなかった。ただ、魔物のヘイトが俺に集まってくれなければ、エニアと護衛が危ない。それだけだった。


 が、俺の予想に全く反し、エニアの剣は護衛の剣を折った魔物の体をさくりと、いとも容易く両断した。


 あまりの斬れ味に少し、戦慄せんりつした。

 なんだこれ、と思った。

 しかし、そんなことに気を取られている場合ではない。俺は残りの魔物と対峙した――


 結果、俺は魔物を全滅させた。護衛は無事だった。俺の緊張の糸が切れる。そうすると、たちまちはっきりと認識する血を流す護衛、その折れた剣、そして手の中の感触。


 勝利の安堵あんどなどない。俺を満たすのは、あの”悪夢”。眩暈めまいがした。俺の手から剣が滑り落ちた。


 魔物を討伐しておいておかしな話だが、俺はやはりもう、まともに戦えないのだと悟った。


   ◇◆◇◆◇


 でも、そんなことがあっても、お家は俺に安らかなひと時をくれる。お家にいれば、もうあんな思いしなくて済むのだ。お家こそ究極。お家こそ至高。

 こうして、俺の『最高のごろ寝』に関する探求の日々が始まった。

 

 ……2日目で終わった。俺が所属するギルドから仕事を催促する手紙が届いたのだ(正確には、3日前に手紙が届いていたことに今気づいた)。


 世界は偉大なる『ごろ寝王』の誕生を逃した。何たる悲劇か。

 しかし、まだ終わらんよ。ギルドにイチャモンつけて仕事をケってやるぜ。


 俺は『今日、午前中のいつでもいいから来い』というギルドの悪逆非道を寛大な心で許し、昼を2時間くらい過ぎてから向かった。俺くらいスケールの大きな人間にとっては、2・3時間など誤差の範囲なのだ。


 ギルドまでの道を歩きながら考える。さて、どう言って断ってやろうか。


PLAN1:『悪いが、気が乗らない』

 良くないな。多分怒らせるだけだ。

 ……ふむ、怒る? 逆ギレでもしてみるか。


PLAN2:『なんで仕事なんかしなけりゃいけねえんだよ!!』

 ……二度と仕事来なくなるな、これ。それはそれで困る。

 いや、待て、こういうのはどうだ。


PLAN3:『どれほどの案件かは知らんが、この私の貴重な時間を浪費させるつもりか?』

 おお、これはいい。俺じゃなくて、むしろギルド側が悪いような雰囲気にできるぞ。よし、これで行こう。

読んでいただきありがとうございます。

なろう初投稿作品です。

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