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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
幕間:綾姫周辺観察日誌 ~嵐の前のてんやわんや~

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其の四:フィーバー!影詠み様!~都を席巻する謎のブームと姫君の苦悩~


「聞いたかい、お隣さん! うちの息子がね、夜中に熱を出してうなされてたんだけど、枕元に『影詠み様お守り』を置いたら、朝にはケロリと治ってたんだよ!」

「まあ、それはご利益があったのねぇ! やっぱり、影詠み様は我々庶民の味方だわ!」


都では、空前の「影詠み様」ブームが巻き起こっていた。

きっかけは、橘香子率いる「影詠み乙女の会」が熱心に配布(?)した、あの「影詠み様お守り(綾が適当にデザインしたエネルギー回路図の簡略版刺繍入り)」だった。

最初は、ごく一部の貴族令嬢の間での「おまじないグッズ」程度のものだったはずが、いつの間にか「持っているだけで幸運が訪れる」「悪霊を退ける」と、尾ひれ背びれがつきまくり、都の庶民の間にも急速に広まっていったのだ。


今や、都の市場では、「影詠み様お守り(偽物)」を売る露天商まで現れる始末。本家(?)の「影詠み乙女の会」は、「我々の影詠み様への愛が、ついに庶民にまで届いたのね!」と、あらぬ方向で感動していたが、綾は内心(いや、それ、ただの便乗商売だから……。というか、私のデザインが勝手に……)と、頭を抱えていた。


ブームは、お守りだけに留まらなかった。

都の絵草子売りたちは、こぞって「影詠み様」の活躍譚(もちろん、大部分は想像と脚色)を描き立て、子供たちは「影詠み様ごっこ」に夢中になった。黒い布を頭から被り、木の枝を刀代わりに振り回し、「影詠み参上! 悪党め、覚悟しろ!」と叫びながら路地を駆け回るのが、都の子供たちの最新のトレンドだった。

その光景を、時折、牛車の中から見かける綾は、(……私のイメージ、完全にそっち系になっちゃってるのね……。まあ、子供たちが元気ならいいけど……)と、複雑な表情を浮かべるしかなかった。


そして、極めつけは、「影詠み様音頭」なるものまで作られ、宴会の席などで陽気に歌い踊られるようになったことだ。

「♪月夜に現る黒頭巾~(ソレ!) 悪を懲らしめ風と去る~(ヨイショ!) 我らが味方だ影詠み様~ 今日も都の平和を守る~♪」

……その歌詞と踊りは、綾が聞いたら卒倒しそうなほど、本来の「影詠み」のイメージとはかけ離れた、底抜けに明るくコミカルなものだった。


《マスター……都における「影詠み」のパブリックイメージ、初期設定とは大幅な乖離かいりが見られますが……これは、ある種の親しみやすさを醸成し、民衆の支持を得る上では、結果的にプラスに働いている可能性も……》

フィラが、シェルターで冷静に分析結果を報告する。

「……フィラ、慰めてくれてるの? それとも、本気で言ってる?」

綾は、ぐったりとコンソールに突っ伏した。


しかし、この「影詠み様フィーバー」は、決して悪いことばかりではなかった。

人々は、「影詠み様が見ているかもしれない」と思うことで、自然と悪事を控えたり、困っている人に手を差し伸べたりするようになった。都の治安は、以前よりも心なしか良くなったようにさえ感じられる。

そして何よりも、人々の心に「何かあっても、影詠み様が助けてくれる」という、漠然とした、しかし確かな希望が芽生え始めていた。


「影詠み乙女の会」のメンバーたちは、このブームに大いに気を良くし、さらなる「応援活動」に邁進していた。

「皆様! 今度、『影詠み様への感謝の歌』を、皆で作詞作曲するのはいかがかしら!?」

「まあ、素敵! そして、完成した暁には、東寺の五重塔の頂上で、影詠み様に向けて奉納演奏会を開きましょう!」

「きっと、影詠み様もお喜びになるわ!」

(……いや、五重塔の上で演奏会とか、絶対やめて……! 私、聞きに行けないし、そもそもそんなキャラじゃないから!)

綾の心の叫びは、熱狂する乙女たちには届かない。


この、ある意味で制御不能となった「影詠み様」への民衆の期待と信仰。

それは、綾にとって、時に頭痛の種であり、時に自分の行動を縛るかせにもなりかねないものだった。

しかし、フィラの言う通り、この「期待」が、やがて本当に魑魅魍魎が跋扈し、都が絶望に包まれた時、人々の心を繋ぎ止め、社会の秩序を保つための、最後の「砦」となるのかもしれない。

そして、綾自身もまた、その「期待」に応えようとすることで、まだ自分でも気づいていない、新たな力を引き出すことになるのかもしれないのだ。


「……はあ。まあ、とりあえず、あの『影詠み様音頭』だけは、どうにかして流行を終わらせたいわね……」

綾は、今日も今日とて、都の片隅で、人知れず頭を悩ませるのであった。

その苦悩が、実は都の平和に多大なる貢献をしている(かもしれない)とは、誰も知らない。そして、この「影詠み様」への熱狂が、後に綾を絶体絶命のピンチから救うことになるかもしれない、ということも……。


【あとがき(という名の、作者の心の叫び)】


……えーっと、作者の〜かぐや〜です。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


……あのー、ちょっと、いいですか?

私、この物語、もうちょっとこう……シリアスで、ミステリアスで、手に汗握るような展開を……って思ってたんですよ。ええ、当初は。

「影詠み」様もね、もっとこう、ダークヒーロー的な、クールで孤高な存在……みたいな。


なのに、何ですか、この「影詠み様フィーバー」は!?


お守り? 絵草子? 影詠み様ごっこ……?

挙句の果てには「影詠み様音頭」って……!

♪月夜に現る黒頭巾~(ソレ!)♪ じゃないんですよ! 全然ソレじゃないんですよ!

私の頭の中のBGMは、もっとこう、荘厳でミステリアスなオーケストラだったはずなのに、いつの間にか軽快な祭り囃子に……。


いや、もちろんね? 橘香子ちゃんたち「乙女の会」の純粋な応援は微笑ましいですし、民衆が「影詠み様」に希望を抱いてくれるのは、結果的には良いことなのかもしれませんよ? ええ、分かってます、分かってますとも。

でもね、でもですよ!

主人公の綾ちゃんが、自分のデザインした適当な文様が「ご利益のあるお守り」として大流行してるのを見て、頭抱えてるんですよ!? 作者としても、ちょっと、いや、かなり頭抱えたい気分です!


フィラが「広報戦略としては成功」とか冷静に分析してますけど、君、本当にそれでいいと思ってる!? 君のマスター、毎晩「私のイメージが……私の築き上げたクールな影詠み様像が……」って枕を濡らしてる(かもしれない)んだぞ!?


……はっ! い、いや、これはこれで、物語の「味」ということで……ええ、きっと……たぶん……。

読者の皆様が楽しんでくださっているのなら、それが一番……なんですけど……。


でも、この後、本当に魑魅魍魎とか出てきて、シリアスな戦いとかできるの!?

「フレー、フレー、影詠み様ー!」って応援されながら、血反吐吐いて戦うの!?

なんか、こう……シュールすぎやしませんかね……?


……と、まあ、そんな作者の心の叫びはさておき。

次回からは、いよいよ世界の歪みが本格的に……って、このテンションでシリアスに戻れるのか、私!?


……とにかく!

こんな感じで、作者の思惑とはあらぬ方向に転がり始めた「影詠み様」伝説ですが、これもまた一興ということで、温かく見守っていただけますと幸いです。

ええ、きっと、このギャップが、後のシリアス展開をより引き立てる……はず……!(震え声)


それでは、また次回!

(誰か、この暴走特急を止めてくれ……いや、面白いからこのままでもいいのか……? ああ、もう分からん!)

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