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「贄田くん、怪異や神が強くなるには何が必要だろうね」


 口縄が新しくなった所長椅子に背を預けながら言った。ちなみに新品ではなく、ところどころ裂けた革張りの椅子だ。


「……信じられること」

「大正解。信じている人間が多ければ多いほどより具体的な姿になって強くなる。では、逆に弱点はなんだろうね」

「噂」

「その通り。より具体的なイメージが流布されていくにつれて、その型にはまって縛られる。噂が変われば性質も変わる。峰草 真紀菜が生み出したあれも、トンネルという限定的な場所に縛られていたからあそこを訪れた人間にしか憑りつけなかった。もしどこにでも現れる、とか、話を聞いた人間にも憑りつく、なんて話があったら大変なことになっていただろうね」


 あはは、と笑う口縄の前に、贄田は饅頭と緑茶が入った湯呑を置く。それから、彼の前で手を合わせた。


「弱くなれ、弱くなれ」

「今の話をした上えでやめなさいそれは」

「……俺がこう思った程度で変わらないだろ」


 手を下ろし、残念そうにため息を漏らす贄田は、どこか腑に落ちない表情をしていた。


「峰草さんが書いた記事が消えていた」


 独り言のような、小さな呟きだった。


「Qの方の投稿も、動画も、全部無い。ここに来た大学生たちの投稿も。女の霊の噂まで」

「ここに持ち込まれた印刷された記事も消えていたよ」

「異界プレスの方も、彼女がいなくなった事に一つも触れていない。……どうしてだ」

「知らないよ。なんでも答えてくれると思ったら大間違いだぞ贄田くん」


 饅頭を一口で平らげた口縄に、子供を宥めるような口調で言われ、贄田は僅かに苛立ちを感じたが、目の前にいる男には何を言っても無駄だろうからと早々に気持ちを落ち着けた。


「……はぁ、もういい。そろそろ出かけるぞ」

「うん?何かあったっけ」

「スーパーに行く。今日は肉の日だから肉が安い。おひとり様一パック限定品もあるからお前もついてくるんだよ」

「なるほどねぇ」


 そそくさと支度をはじめる贄田を横目に、口縄はのんびりと椅子から立ち上がり、先に事務所の扉を開ける。

 「外で待ってるよ~」と言いながら外に一歩踏み出すと、足に何かがぶつかった。視線を下に向ければ、分厚い封筒が一つ、落ちていた。あて先はなく、差出人は「異界プレス編集部」となっている。口縄は首を傾げ、事務所内に戻る。


「ありゃま。お届け物でーす」

「何言ってる、ここに届くわけ……」

「はいどうぞ。変な気配はしないよ」


 投げ渡されたそれを、贄田は慌てて受け取る。重みのあるそれを恐る恐る開封すると、手紙が一通と、古い一万円札が三十枚ほど入っていた。


『弊社所属のライターがご迷惑をお掛けしました。異界プレス編集部』


 短い手紙の内容と、詰め込まれた金を何度か見返し、贄田は天井を見上げた。


「行先変更。焼肉」

「いい話だね」








業務記録


依頼人:峰草 真紀菜

依頼内容:うぶごえトンネル(正式名称・旧金染トンネル)の現地調査

報酬:五万円(交通費別)

備考:依頼人による自作自演が判明。追加料金を徴収できなかったことが心残り。

追記:依頼人死亡。その後所属会社の異界プレスより迷惑料として三十万が届く。関りは持ちたくないが、久しぶりに満足のいく食事ができた。


依頼人:品木 冬也

依頼内容:友人に憑りついた霊を払ってほしい。

報酬:二万円(学生料金)

備考:旧金染トンネルに肝試しに行ったことが原因。無事除霊。



余白に書かれたメモ:知っていたなら早めに言えくそ野郎

メモに対する返答:ここにそんなことを書くもんじゃないよ





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