4 水の街カルディア
【カルディア到着】
探偵とエコーは、次の街へと到着した。
カルディアは中央に川が流れる大きな街で、広場を中心に商店が並んでいる。武器の強化や素材の加工など、新たなゲーム要素が解禁されるエリアでもある。
街の入り口を抜けると、まず目に飛び込んできたのは、巨大な煙突から煙を吐き出す鍛冶屋の建物だった。
通りには防具屋、道具屋、そして旅人たちが武具を抱えながら行き交っている。
「さてさて、ここから先は《素材の加工》や《武器の強化》ができるようになる!」
エコーは街の入口で、当然のように解説を始める。
「街の鍛冶屋に持ち込めば、モンスターのドロップ素材を使って武器の性能を上げられるぞ!」
だが、探偵は特に興味を示した様子もなく、軽く街の様子を見回すだけだった。
「……ま、興味ないんだろうけどな。」
エコーは肩をすくめる。
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【探偵、鍛冶屋で武器加工を頼む】
——だが、その予想はすぐに裏切られる。
探偵は、特に迷うことなく街の鍛冶屋のカウンターへ向かい、何の前触れもなく武器の加工を頼んでいた。
「おいおいおいおいおい!!!?」
エコーが全力で探偵の前に回り込む。
「ちょっと待て! 俺の話を聞いてる時、めっちゃ興味なさそうだったよな!? なんで普通に加工頼んでんの!?」
探偵は無言で、腰から取り出した短剣と、ポケットから出したファング・ウルフの牙を鍛冶屋のカウンターに置く。
「……今の武器は、クリティカルが出にくい。」
エコーは一瞬、探偵の言葉の意味を理解できなかったが、すぐにツッコミを入れた。
「……お前、素でクリティカル結構出してたよな!? 何が"出にくい"だよ!!!?」
探偵は短剣の刃を指先で軽くなぞりながら、淡々と答える。
「それに、弱点に当ててもダメージが不安定だった。
ファング・ウルフ戦の時も、クリティカルを出さなければほとんどダメージが通らなかった。」
「そりゃ、お前の攻撃力が足りなかっただけだろ!!」
「だから、それを補う。」
エコーの抗議を聞き流しながら、探偵は鍛冶屋の職人に向き直る。
「この牙を使って、短剣に加工できるか?」
鍛冶屋の職人は、しばらく素材を見比べた後、無骨な手で短剣を手に取り、静かに頷いた。
「やれるぞ。……強化すれば、獣種に対しての切れ味も増すだろう。」
職人が作業台の奥へと消えていく。
カンッ——カンッ——!
鍛冶屋の奥で火花が飛び、金属を叩く音が響き渡る。
炎の赤い光が、店内の天井に揺らめいていた。
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【武器加工完了】
——《武器加工完了》
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《ウルフファング・ナイフ》(レア度:★★★)
ATK +6
クリティカル率 +15%
追加効果:獣種へのダメージ +10%
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探偵はナイフを手に取り、軽く振るって感触を確かめる。
「まあ、これなら悪くないな。」
「いやいや、悪くないとかじゃねぇよ!!
お前、ゲームに興味ないとか言いつつ、武器強化はしっかりするんだな!!」
エコーは宙をぐるぐる回りながら、信じられないという様子で叫ぶ。
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【防具の装備に関するツッコミ】
「さて、防具も強化しとくか?」
エコーが当然のように促すが——
探偵は、防具のコーナーには目もくれず、一足のブーツだけを購入した。
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《ハイスピード・ブーツ》(レア度:★★)
移動速度 +10%
ダッシュ時のスタミナ消費軽減
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「……ちょっと待て。」
エコーが沈黙し、じっと探偵の装備を見つめる。
「お前……防具ほぼ初期装備のままなのに、ブーツだけ強化すんのかよ!?」
探偵はブーツを履きながら、さらりと答える。
「速い方がいいだろ。」
「いや、そりゃ速い方がいいかもしれねぇけど!!
お前、もう戦闘スタイルが『回避と急所攻撃』な時点でスピード型だったろ!!」
「それが加速した。」
「無駄に尖ってんじゃねぇよ!!!!!」
エコーが両手(?)を天に向かって広げ、呆れたように叫ぶ。
「普通のプレイヤーは、まずダメージ軽減の装備を揃えるんだよ!!
なんでお前、回避全振りしてるのに、さらに速くなる方向に突っ込んでんの!?」
探偵はブーツの感触を確かめながら、軽く地面を蹴る。
「これなら、攻撃を受けなくて済む。」
「いやいや、受けないんじゃなくて、防御を考えろって!!」
「当たらない方がいいだろ。」
「……いや、言ってることは正しいんだけどさぁ!?」
エコーは、もうどうツッコんでいいのか分からなくなってきた。
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【身のこなしの良さについて】
「……そういや、聞いたことなかったけどさ。」
ふと、エコーが声を潜めるようにして尋ねた。
「お前、何か武術やってたのか?」
探偵の回避の動きは、単なる「ゲームの反射」ではない。
VRの操作感に慣れているわけでもないのに、身体の動きだけで敵の攻撃をかわしている。
それは、リアルで培った技術がなければ不可能な動きだった。
探偵はエコーの問いに対し、何でもないことのように答える。
「バリツは探偵の基本だ。」
「バリツ!?」
エコーが、ピタッと動きを止めた。
「バリツって、あのシャーロック・ホームズが使ってた架空の武術のことか!?」
「そうだが?」
「いや、ねぇから!! 現実には存在しねぇから!!!」
エコーのツッコミが街中に響く中、探偵は淡々とブーツの紐を締め直し、新たな装備を試すように歩き出した。