裏02
「”祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ”か・・・」
津守景虎という少年が崖の上から、九頭龍とタケルを見つめていた。
傘を閉じて、天を仰ぐ。
「その後の平家を本当に知らないのか、平家が敗れたのはお前の呪いだったのかわからないね。なぜ阿仁三タケルだけがこうも優遇されるんだろう」
黒蝶が舞いおりてきて、手に止まった。
『阿仁三タケルは前世の記憶がないそうです。この目で確認しましたが』
黒蝶が羽についた目を瞬かせた。
『嘘はついていないようです』
「ま、いずれ思い出すと思うよ。それにしても、本当に九頭龍の姫と婚姻を結ぶとは、前世の記憶がないのに魂が天下を取ることを望んでるのか?」
『景虎様・・・』
「まぁ、今回は想定内だ。滝夜叉姫がいたこと以外はな」
『追いかけましょうか?』
「あぁ、よろしく。タケルの式神に気をつけてくれ」
『承知しました』
黒蝶がひらりと舞いながら崖を下りていった。
『景虎様、申し訳ございません!』
タカコと、同じ穢れを持つ少女数名が景虎に近づく。
足元から消えかかっていた。
『九頭龍の贄を集めたのですが、四神の白虎に敗れてしまい・・・』
『このように霊力が無くなりかけています』
『何百年も恨み貫いてきたのに』
少女が乱れた髪を掻きむしった。
『九頭龍め・・・憎き九頭龍』
「いいよ。滝夜叉姫が出てきた以上、別に君らが束になろうと、九頭龍に敵わないことくらいわかってる」
景虎が印を結んだ。
「用済みだ。消えろ」
『え・・・・・』
― 烈浄の炎 ―
ぼうっ
足を鳴らすと青い炎が巻き起こり、一瞬にして少女たちが消えていった。
「醜い奴らだ。九頭龍の贄は、優遇されてきたはず。まぁ、村に捨てられたのは確かだけどな」
一枚の葉を拾って、天にかざす。
雲間から差し込んだ日差しが、葉を輝かせていた。
「何を思い出して、何を恨みとするかだ。1000年近く募らせた恨みだとしても、将門を守ろうとする滝夜叉姫とはだいぶ違う。比べること自体間違ってるけどね」
景虎が微笑む。
「滝夜叉姫を見られただけでも、ここまで来た価値があった。やっぱり、気高く美しい姫だ。あんな怨霊に依存しなくてもいいものを・・・」
葉を燃やして、灰を吹き飛ばす。
「滝夜叉姫に目を覚ましてもらうためにも、阿仁三は確実に抑え込まなければ」
景虎が自身を浄化すると、息をついて崖から離れていった。




