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35 黄金の矢

 印を結び終えて目を開ける。

 いつの間にか、数珠はしまっていたようだ。


 キィンッ


 片目で、敵をはっきりと見据える。

 懐かしいな。この感覚・・・。


『タケル様、その弓矢は・・・?』

「このまま大蛇双に近づけ。あいつらを倒す」

 黄金の弓矢を引いていた。


『かしこまりました』

 初めて使う武器だったが、なぜか使い方がよくわかった。

 あの紙切れになった一瞬で、滝夜叉姫が渡してきたものなのか?


 ゴオォオオオオオオオオ


 九頭龍の攻撃をうまくかいくぐりながら、大蛇双に接近する。

 大蛇双がこちらに気づいて、毒の霧を吐こうと口を開いた。


 パンッ



 グア!?


 2本の弓矢が光を放ち、弧を描く。

 大蛇双の頭にある滝夜叉姫の呪符に命中した。

 ぼうっと燃え上がり、炭になっていく。


 ガアァァァァアァァァ


 大蛇双が天を仰いで悲鳴を上げた。



 ゴオオォォォォォォ


 大蛇双の体が煙に包まれていく。


 シュウウウウウゥ


 大蛇双が崩れるように小さくなっていった。


『あれ? どこに行ったんでしょ?』

「あれだよ」

 青龍の背中から飛び降りて、二匹の蛇を捕まえた。


「こんな小さい蛇がよくあれだけ、でかく出てこれたな」


 蛇が絡まりついたり、噛みつこうとしたりして抵抗していた。


「野心だけは認めるよ」

『タケル様がまさかこんな霊力の高く美しい弓矢を持っていたとは・・・。さらに強くなりましたね。さすが我が主です』

 青龍が横に並ぶ。


「相手が滝夜叉姫だったからかもな」

『え? 滝夜叉姫・・・ですか?』


「・・・いや、よくわからん。それよりこいつらだが・・・」

 黄金の弓矢を消した。


 キィーッ


「・・・お前ら、馬鹿だな。九頭龍に勝てると思ったのか?」

 ため息をつきながら、蛇の目を見る。


「滝夜叉姫にうまく利用されたんだ。あのまま封印されておけば、せめて龍でいられたのかもな。とりあえず、お前らはただの蛇だ。毒すら持ってないだろ」


 キィーッ


「矢は貫通した。もう封印しておくほどの力もないし、霊力も溜められないだろう。印で封じたからな。殺さなかっただけでもよかったと思え」


 キィーッ キィーッ


 蛇が牙をむき出しにして文句を言っていた。

 人の言葉も忘れたか。


 まぁ、封印されたまま永久に生きるよりは、蛇として余生を楽しんだほうがいいだろう。


『タケル様、その蛇、使役しないのですか?』

「一応、これでも式神は選んでるって。じゃあな、大蛇双って名前はもう捨てろよ」

 ぱっと蛇を離すと泥の上を這うようにして、真っ先に森の中に飛び込んでいった。



「で、問題はここからだ」

『そうですね』

 青龍に乗りなおして、崩れかけた崖から離れる。



 

 ゴオオオオォォォォォ


 数珠に持ち替えて、九頭龍のほうを見つめた。


 雨は収まる気配すらない。

 九頭龍は大蛇双の毒を受けて、一部の龍が黒くなりかけていた。

 尻尾は噛みつかれて、怪我を負っている。


 グアアアァァァァァ


 九頭龍が敵を探して咆哮を上げる。

 雷で雲が光っていた。


『見た目以上に、大蛇双にやられてるみたいです。このまま堕ちれば、大変なことになります。取り返しのつかないくらいの犠牲者が・・・』

「リヒメ・・・・」

『多少手荒くても仕方ないと思います。あのまま暴れ続けるよりは、怪我をしてでも止めたほうがマシです。毒龍とされてしまえば、神ではなくなる』


「・・・・・・・・・・・」

 九頭龍になると頭はすべて同じに見えた。


 一番小さいのがリヒメか?

 後ろのほうに白い鱗の龍がいた。

 

『封じればもとに戻りますよ。タケル様の今の霊力なら、可能かと思いますが』

「いや、できれば封じることなく収めたい」


 ドンッ


 飛んできた岩を青龍がすっと避けた。


『なぜですか?』

「封じることは霊力を削ぐことになる。箱に収めるようなものだからな。日々邪神と戦ってるこいつらの力を削ぐのは、神に反抗するのと同じだ」

『神・・・あれが神とするのは、九頭龍の巫女くらいですよ』


「・・・・・・・」

 九頭龍は本来の目的を失っている。

 数珠を持ち直して、鎮める方法を考えていた。


 九つの頭が四方八方で暴れようとしている。

 でも、リヒメなら俺の声が聞こえるんじゃないだろうか。

 下のほうを見ると、巫女たちが小屋から出て、不安そうに九頭龍を見つめていた。


「とりあえず、九頭龍に近づく。後方にいる小柄な龍の頭に向かってくれ」



『待って・・・・・・』

 白い着物を着た少女が目の前に現れた。

 赤いかんざしをつけて、頬がふっくらしている。


 平安の時代よりも、はるか昔に死んだ少女だな。


「誰だ?」

『私は九頭龍の800年前の九頭龍の生贄のタカコ。海に放り投げられたところを、九頭龍の一柱に拾われて巫女となった。100年で九頭龍は生まれ変わるから、8代前の巫女ってこと』

「へぇ・・・・」

 口調と死んだはずの時代が一致しない。

 現代まで成仏しなかった邪神に近い生霊・・・・。


 ずっと、視線を感じていたが、こいつか。


「俺に何の用だ? 見ての通り忙しい。あとにしてくれ」

『九頭龍をこのままにしてほしい。ここから先へは行かせない』



 バチッ


「!!」

 体中に、静電気のような霊力が走っているのが見えた。


 グアアアァァァァ


『貴方に敵わないことくらいわかってる。でも、時間稼ぎくらいはしたい。ここまで来たんだから。私のすべてを使ってでも・・・』

「は?」

『もう少し・・・もう少しすれば、天も異変に気付く。天照大神が現れれば、他の神々もこの地に下る。九頭龍は裁かれるべき存在・・・このまま暴れれば犠牲者も大勢出る』

 声を荒げて言う。


『他の神々は九頭龍に甘すぎる。九頭龍は神であるべきじゃない』

「どうしてそう思うんだ?」

『あれを見て』

 タカコが目を細めながら、神社のある方角を向いていた。


『犠牲になった私たちを無視して、あんな大きな社を持ち、神として崇められるほうが間違ってる。あんな恐ろしいものを神だなんて』

「ただの言いがかりかよ。浅すぎるだろ。直接言えって」

 重くなった着物の袖を絞る。


『数百年も九頭龍が裁かれる日を待っていた。あと一歩のところで、元に戻ってしまう。でも、今度こそは・・・あれが本来の姿。あれを見れば、考えも変わるはず。邪魔しないで!!』

 タカコが両手を広げて、悪鬼を出現させた。


『随分と特徴的な悪鬼ですね』

「悪鬼なんてみんなあんなものだろ。面倒だな」

 頭を掻く。



『うらめ・・・しぃ・・・かえりたい・・・』

『故郷に・・・いいなずけに・・・』

 乳房を持つ巨大な体に、崩れた顔、大きなこん棒のようなものを持っていた。

 恨み穢れた成れの果ての悪鬼だ。



「リュウイチさん! 止めてください!」

 サクラの悲痛な叫び声が聞こえる。


「家に帰りましょうよ。私たちの家に・・・」


 ガガガガガガッ

 ドーンッ


 九頭龍が手を振り下ろして、大蛇双のいた場所に土砂崩れを起こしていた。

 濁流となった川に、木が流されていくのが見えた。 

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