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魔法少女は夢をみる  作者: 華永夢倶楽部
魔法少女は夢をみる 外道編
10/12

『魔法少女信仰』

 いつもの時間に起きて、いつもの時間に学校へ通う。それが私の変わらない日常。

 でも、最近どこか変な感じがして堪らなかった。

『この前さ、渋谷で魔法少女見たんだよ。めっちゃ可愛かったんだぜ?』

『俺は上野で見たぞ。忍者みたいにトリッキーに戦ってたぞ』

 ここ最近、魔法少女の認知度が格段に上がっている日常が始まっていた。

 その原因は、多分ネットでトレンドになっている「魔法少女信仰」だと思っている。

 一昨日からトレンド入りして、今では一万以上のつぶやきを維持している。

“コスプレのツイートが発端になった訳じゃないみたいだなぁ……”

 そもそも私は「魔法少女信仰」の意味はまだ詳しく知らない。出来る限り調べて分かった事は、魔法少女をアイドルと見立てファンになったりパパラッチとして追いかけをする人達をアイドル信仰から取って「魔法少女信仰」と呼んでいるらしい。

 魔法少女はそもそも、未成年の少女がなるからこそ若者達にハマった……

 ……と言う事になるのかな?

「おはよう、かなえ」

「あ、透哉くん。おはよう」

 この人は私の恋人である秦 透哉くん。私が魔法少女である事を知っている人だよ。

「今日も大丈夫だった? 誰かに見られてたらとか……」

「うん、今日も大丈夫だよ。私は元々戦う力がないから、他の魔法少女と比べると目立たないし」

「そうだよな…… 俺が見た時の魔法少女は、ガタイが良い男をワンパンでKOしてたから」

“あぁ、きっと蓮さんの事だなぁ……”

 蓮さんの戦いを見ていると、どうも魔法少女じゃなくて物理少女に見えてくる。そう思うのは私だけかな?

「かなえも魔法少女だから、周りを警戒しないといけないのは正直辛くないか?」

「うん…… 確かに辛いけど、毎日楽しく過ごせれば、それだけででも十分幸せだと思うから」

「そうだよな。じゃあまた放課後」

 透哉くんは自分の席に座り、午前授業の準備をし始めた。

“よし、私も頑張らないと…… 負けるな、楠木 かなえ‼︎”

 ほっぺを軽く叩いて、気合を入れ授業に取り組んだ。


 お昼の時間になったからお弁当を取り出していると、誰かが私の前に立った。

「あ、あの…… カナエさん、お弁当を一緒に食べたいです……」

「うん良いよ、一緒に食べようかレミちゃん」

 オドオドしながらも話しかけて来たのは、クラスの親友で留学生のレミちゃん。

 本名はレミ・ハンニバルと言って、私は「レミちゃん」と呼んでいるよ。ちなみにレミちゃんは、私が魔法少女だって事は知らない。

「カナエさん。魔法少女って、ホントにいるんですね……」

「もしかして、レミちゃんも見かけたの?」

 へぇ、意外だなぁ。レミちゃんって空想の類を信じるタイプだったんだ……

「レミより背が低くて、子供みたいな魔法少女とブランコで遊んだんです……」

 ……って、その子まさか翼ちゃんだよね⁉︎

「レミちゃん、その子って近くの街の魔法少女だったりしたかな?」

「え、えぇ…… 一緒に遊んだり、走ったりしてました」

 やっぱりその子、翼ちゃんだね……

 もしかしたら翼ちゃんはレミちゃんの事を、小学生だと思って近付いたのかも……

「そっ、そっかぁ…… 世の中には小学生くらいの魔法少女もいるんだね〜。私びっくりだよ〜」

 どこか棒読みになっちゃった所為で、さすがにレミちゃんの頭の上にハテナが浮かんでいる様子が目に見えてしまった。

「それにしてもカナエさん、魔法少女は学校もあるはずですから毎日大変そうですね……」

「うん、学校の途中で敵の気配を感じたら複雑な気分になるだろうしね…… 早退するわけにもいかないし、無視するわけにもいかないし」

 ふと、気になってチラッとレミちゃんのお弁当を覗いてみた。

“今日のレミちゃんのお弁当って何だろう…………”

 そこには、とても黒くて立派な重箱の姿が。

「重箱っ⁉︎」

 レミちゃんは重箱に入っているカツ丼、牛丼、ベーコン丼を美味しそうに食べている。

「きょっ、今日のお弁当も凄いねレミちゃん……」

「はい! レミはこの位ヨユーなので!」

 レミちゃんは宣言通り、私だったら完食出来ない量のお弁当を見事に平らげた。

「す、すごいね……」

 いつもレミちゃんの食欲には驚きの連続。胃袋がブラックホールとはこの事かな……?

「そう言えばレミちゃんって、ほぼ毎日お弁当に肉が入ってるけどお金の方は大丈夫なの?」

「大丈夫です! 両親からお金を貰いつつ、レミ自身アルバイトしてるので!」

 そっかぁ、レミちゃんアルバイトしてるんだ…………

「ちなみに、何処で働いてるの?」

「スーパーの食品販売をやってマス!」

 レミちゃんが食品販売って、何だか嫌な予感が……

「あぁ、勝手に商品を盗んだりしてませんから……! ちゃんとお金を払ってから食べてるので!」

 良かった、それなら安心だね。

 改めて周りを見渡してみるけど、今日も魔法少女トークは二分程度で終わっていた。

 これはいつもの事で、一日中魔法少女の話題で持ちきりになっている訳じゃない。流石に芸能人の悪い噂には、勝てないから……

 私やレミちゃんは、空になったお弁当箱を片付けて昼の授業の準備を始めている。

「それじゃあ、また帰りにねレミちゃん」

「はい、今日も一緒に!」

 レミちゃんはお弁当箱片手に自分の席に戻って行った。私もお昼の授業を頑張らないと……


 帰り道をレミちゃんと一緒に帰る途中、レミちゃんが私に何か言いたそうな目で見つめている事に気付いた。

「どうしたのレミちゃん? 近くに誰かいたの?」

「い、いえ…… そもそも、魔法少女達が人気になったらその後どうなるのか気になってて…… カナエさんは何か魔法少女について知らないんですか?」

 魔法少女側が人気になったらどんな生活になるか、レミちゃんはそこがどうやら気になっているみたい。

 そう言えば私も一応魔法少女だけど、能力的に戦えないからそういうのを意識した事が無かったなぁ……

 そんな私が人気魔法少女になった後の生活を、どうやってレミちゃんに説明しよう……

「あんまり詳しくないからちゃんと説明出来ないけど、多分アイドルと同じ様な生活になるんじゃないかな? 人に見られない様に注意しながら買い物したり、お出かけしたり…… でも、中には恋人がいる魔法少女がいるかもしれないからとても追いかけられる魔法少女にとって、とても窮屈な毎日になると思うなぁ……」

 アイドル側も、何かとファンとの間にトラブルがあるみたいだし、それがもっと身近な存在である魔法少女と接触出来たとなると、より酷い事件に発展したとなっても何もおかしくないよね。

 私も、それを今日から意識して生活しないと…………

「男子って、魔法少女がスキなんですね…………」

「うん、そうだね…………」

 透哉くんも、魔法少女が好きみたいだし……

 ある日突然、私を女の子じゃなく魔法少女として見る様になったら、私は一人で生活しなきゃいけなくなるのかな?

 それとも、透哉くんと二人きりで隠れて暮らすとか?

 ……もしそんな生活を強いられるとしたら、魔法少女も楽じゃないよ。

 知らない人に追いかけられて、最悪家まで特定されるかも知れないし……

 という事は、魔法少女って結局はアイドルと変わらない。世の男性達が好きになって、私達はそれに応える。アイドルと比べるとやる事は少ないかも知れない。でもお互いに辛い毎日なのは変わらないと思う。

“私は、本当にこのままで良いのかな……?”

「…………さん? カナエさん?」

 いつの間にか一人で考え込んでいた。危うく塀にぶつかるところだった。

「ごめん、ちょっと考え混んじゃった……」

「何となく分かってました。それにしてもカナエさん、すごく真剣な目で考えてましたけど…………」

 レミちゃんが私の目をジッと見つめる。しかも至近距離で。

「もしかして、カナエさんの友達が魔法少女なんですか?」

「うん、まぁね……」

 頭の中で魔法少女の蓮さんと翼ちゃんを思い浮かべる。蓮さんなら何とかごまかしながら生活していそうだけど、翼ちゃんが心配なんだよなぁ。

 『真実』を見つけたら、人目を気にせずにすぐ魔法少女に変身しそうだから、色んな人に追いかけられそうだから正直不安…………

「大丈夫です! もし魔法少女に危害を加える輩はレミが全部食べちゃいますから‼︎」

「食べちゃ駄目だよ‼︎」

 レミちゃんが食べるって言うと、冗談に聞こえないから余計怖いよ……

「とりあえず、今は私達の生活だよ。魔法少女の皆は自分で自分を守っているから、きっと大丈夫だよ」

 そう、自分の身は自分で守らないとね。

「それじゃあレミちゃん、また明日ね」

 その場でレミちゃんと別れ、私はしばらく歩いて自分の家に帰った。

 リビングに上がってすぐにテレビを付けると、昼のニュース番組が流れ始めた。

『…………地区で少女を誘拐、わいせつ行為を行った容疑者はこの事件に対し容疑を認めており、そのまま現行犯逮捕されました。この事件に対し近くの住民は––––』

 コメンテーターの話を聞き流しながらテレビを見つめ、私以外にもいる魔法少女達の人生を想像した。

“何処か知らない魔法少女が事件に巻き込まれるニュースを毎日見続けて、相当精神が参ってるはずなのに…… それでも戦い続けているのは、きっと強い心があるからなんだろうなぁ。それに比べて私の心は……”

 ただ綺麗なだけ。

 こんな魔法しか持ってない私なんて、まともに戦えるわけない。

 実際に私が魔法少女になってから今まで無くしてきた『真実』は、泣いてる子供を元気付けたり悪い事をした子供の話を聞いたりしただけ。

 私が持ってる力をフル活用出来たのは、子供相手が限界だった。

“希望を助けようと必死に頑張ったのに、結局助からなかったし…………”

 こんなにも能力的にか弱く強くもない魔法少女の私でも、見知らぬ男の人にいつか狙われる。

 私だけじゃなく、皆も狙われている。

 「魔法少女だから」という理由それだけで知らない人に狙われる恐怖。それを想像しただけで体が震えてくる。

 私の日常は、既に終わっていたのかもしれない。

「もう、いいや」

 テレビの電源を落として、私の部屋へ入ってベットに倒れ込む。

 一ヶ月前はこんな生活になるとは、一瞬たりとも考えてなかった。ましてや魔法少女が男の人の的になるなんて、全然思わなかった。

“でもゲームやアニメが好きな人にとって、魔法少女はまさに夢が現実になった瞬間だから、無視しないわけがないよね…… 実際、私が魔法少女だって事を知らない美紀はいつも私に魔法少女の良さを教えてくれるし”

 私達にも人権があるし、皆と同じ様に生活がしたい。それなのに魔法少女という特別な力を持っただけで、目を付けられ追いかけられる。

“どうしてこんな事に……”

 考えて、考えていく。どうしたら良いのか、どうしたら良いのかを。

 ヒントは若者の間で流行っている事。その事から分かった真実は…………

「そっか、何となく分かったかも」

 スマホを取り出し、SNSを起動する。そして今のトレンドをくまなく確認していく。

「魔法少女信仰…… 魔法少女信仰……」

 何回も探したけど、このワードは一度も出てこなかった。その代わり、さっきテレビで観たニュースの事を示唆する単語があった。

「やっぱり、私の考えは合ってた…… かな?」

 この考えが正解かどうかはまだ分からない。

 でも、これはそれっぽいと思う。

「魔法少女なんて、結局いないんだ…………」

 この発言を誤解の無い様言い直すと、「魔法少女は世の中にいて当たり前」という事になる。


 秋葉原に行けば、アニメやゲームのポスターがずらりと並んでいる様に、普段からあると分かればそれはもう特別な存在じゃなくなる。

 テレビに出てきた人が何回かの出演を経て、いつの間にか一人の人間に見えてくるのと同じ。

 水が流れる川に石を投げても何一つ変わらないのと同じく、小さな変化一つでは世間を大きく変えられない。そういう事なんだと、私は考えた。

「なぁ〜んだ、案外簡単にブームが終わっちゃったなぁ。嬉しいような、嬉しくないような」

 ブームが終わるまでに、何人の魔法少女が犠牲になったのかは分からない。でも、これで久しぶりにストレスのない快適な一日を過ごせそうな気がしてきた。

 どこに行っても誰かに見られているなんて、私には耐えられないからね…………

「よしっ、気分が晴れてきた事だし…… 今日もパトロールにでも行こうかな」

 身だしなみを整えて、家を飛び出し『真実』を抱える子供がいないか捜し始めた。


 子供が抱える『真実』を無くし、楽しい毎日を送ってもらう為にも…………

 私は、今日も戦う。

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