041 工場
区画は、簡単に言えば巨大な穴が開いているとだけ言えた。真四角の区画は、碁盤目状に道路が走り、その間は百メートル以上の縦穴があいている。ただし、その幅自体もかなりある。工場を建てるのではなく、設備を組み込んだ工場というパーツそのものを縦穴にはめ込んでいくらしい。
二人は、一つの工場の前にやってきていた。
「いきなり、ビンゴか」
本来付いていたはずの熱反応を関知するセンサー、パッと見ると太めのマジックペンのようなものが、中の配線を取り出されていた。異常を伝えはしないが、人間にも関知しない。
「思っていたほど、安物つかっていやがるな。質より量で警戒していたか」
サイラスが、工作されたセンサーを手に取る。それなりの専門知識とセンサーの構造を知っていればさほど難しくもないだろう。そもろも関係者以外、特に浮浪者や事情をよく知らない子供が入らないように一応設置しているだけのであるが。警備隊の管轄ではなく、工事をしている業者の管轄であるから、警備隊のほうとは連動も連絡もいきずらかった。
「ま、潜伏するだけなら悪くはないっ」
入り口で立っていた二人は、左右へと飛んで入り口から離れると同時に、銃弾が工場から飛び出してくる。
「ったく、手荒いな」
サイラスはそう言いながら、懐から大型のオートマチック拳銃を取り出す。軍用の無骨なフォルムに、銃身の下にはライトが取り付けられている。
ドミニクは首に掲げていたゴーグルをつける。顔の半分は覆ってしまうようなものだったが、視界を遮るようには出来ていない。競技用などではなく軍用の野戦用の代物だった。ここから、本格的に賞金稼ぎに切り替わる。
店の経営が道楽ならば、こちらは野暮用程度のことであるが。
「あはは。こんなに急にプロポーズされると照れるね」
浮雲はゴーグル越しにニヤリと笑い立ち上がる。
「じゃ、いってくるね~」
「あ、いや、お前」
サイラスが止めるのも無視して、銃弾が飛び出てくる入り口へと入っていく。
「ったく」
サイラスも続いて建物内部に銃を突きつける。
入ってすぐにガランとした薄暗い空間が広がり、四角い装置の影から何人かが銃を撃ってきているのが見える。
浮雲は銃弾など見えないように気楽そうに無防備に、両手をつくような低姿勢から飛んだ。飛んだと言うよりは、弾けた。バネの用に弾けたというよりは、爆発的なまでの急加速で装置の影へと吹き飛んでいく。銃弾を両手で防ぎながら、飛んでいく。
物陰から銃を撃っていた二人に対して、瞬時に距離が縮まり、両手で殴りつけ、二人はあっさりと床へとたたき付けられる。
が、サイラスは浮雲が向かった方向とは別の方向に片手で構え、銃弾を二発撃っていく。ガランとした空間に銃声が鳴り響き、数テンポあとに鈍く何かが倒れる音がする。
「違うね。こいつ」
あっさりと容赦なく顔面ごと吹き飛ばした二人を見下ろす。二、三十代の二人は何も判らないままあっさりと気を失って、口をだらしなくあけていた。
「こっちもな」
サイラスは自分で撃ち倒した男を見下ろす。男の右手と左手に穴が開き、血が流れていた。男は両手とも押さえながらうずくまっていたが、サイラスは無情にも蹴り飛ばし、右の手を踏みつける。
「ああー!!! 」
「撃たれた程度でわめくな」
そう言ってサイラスは銃口を向ける。
「お前らは誰だ? なんで撃ってきた? 」
「た、たのまれ、手を離し」
「誰にだ? 」
サイラスはさらに強く踏みつけ、グリグリと穴の開いた手を床に押しつける。
「あああっっっ!!! い、言うから、ど、どけ」
サイラスは舌打ちしながら、銃口を向けたまま脚を離す。
「ちゅ、仲介屋だ」
「仲介? 」
「お、奥にいる」
「まだ、いるのか? 昼間の港の事件に関係あるのか? 」
「し、しらねぇ」
「ちっ」
それ以上は何も情報を引き出せないと判断したのか、顔面に血の付いた靴で踏みつける。男の顔には血で靴跡がのこり気が失う。そして、男に背を向ける。全くの容赦ない行動だった。
浮雲はボンヤリ、興味なさそうにその様子を見ていた。
「別件? 」
「いや、恐らく関連はあるだろうな……だが、妙だな。奴らは逃亡してきたはずだよな?」
サイラスの仕入れた情報では、港で事件を起こしたのは不正パスだと露呈して拘束されることに抵抗したからだ。この大陸最大の都市ならば、人も多く紛れやすいと考えてのことだろう。
ただ、潜伏するにしても、逃亡するにしても、わざわざ捜査員に攻撃を仕掛けるような派手な動きをするとは考えられない。逃亡する人間の心理は出来る限り息を潜めるはずである。
「おい、ギルドからの連絡だと、何故逃亡することになった? 」
「あー、うん。テロリストに雇われて、銀行を襲撃しようとしたのを賞金稼ぎに返り討ちにあって、そのまま逃げているってことだった。防衛した賞金稼ぎもそのまま追跡にきているって。あ、そろそろ来る頃かな? 」
そう言えばそうだったみたいな表情で虚空を見ながら、両手をポンとたたき、思い出したように言う。相変わらず、賞金稼ぎに切り替わってもキャラも変わらずに緊張感の無い様子だった。
「……そうか。とにかく、二手に分かれてここを調べるか。まだまだクズどもがいやがるかもしれん。俺は上に行く」
サイラスは、考え込んで、どちらにしろ状況を把握するべきと考えてそう言った。まだまだ、
「じゃ、下に行くね」
浮雲は深く何も考えていない様子でフラフラと奥へと向かっていった。
「はぁ。ほんと、あいつの考えはよめねぇな」
サイラスは呆れ気味にため息をついて、歩いていった。




