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番外5.異文化プレゼント

リクエストをありがとうございました!

>鳥ちゃんへの結婚祝い


結婚祝いだか出産祝いだかのお話です。

 「質問です。鳥ちゃんが貰って喜ぶものと言えば?」

 「水」

 「とまり木」

 「虫かなぁ?」


 投げた問いには、比較的普通の答えが返ってきた。大きく一度頷いてきびすを返す。


 「はい、ありがとうございました」

 「待て待て」


 もうここに用はない。時間がおしているので次をあたろうと思ったのに、無遠慮に襟首を掴んで引き戻された。

 なにくそと目を瞑って離脱を試みるが。


 「ひあああ!?」

 「待てっつってんだろ」


 服の裾から脇腹に手を突っ込まれて悲鳴を上げた。何が腹立たしいって、乙女の素肌に触れる理由がお色気的な行動ではなくて、美晴を怯ませるためだけに動いていやがるところである。いや、お色気的な意味があっても困り果てるんだけど。

 涙目でティティの背後に避難するが、世界は残酷だった。何そのグッジョブ。もう何も信じられない。


 「酷いセクハラを受けた……訴訟も辞さないよ私は……誰か、凄腕の弁護士をここへ!」

 「どーうどうどう、落ち着いてー、ほら怖くない」

 「うるさい、怖くない!私にはミラクル痛め付けガス一時間耐久噴出機という強い味方が」

 「捨てよう!そんな誰も幸せになれない最終兵器はッ!」


 どうやらティティに与えた撃退スプレー第三弾も体験済みらしい。ヒューダと同じ痛苦を味わえるなんて親友冥利に尽きるというものだろう。

 ひとしきり騒いだら満足した。アルトの尋常でない脅えっぷりに引いたというのもある。強引に武器を奪われたから、また調達してこないとなあ。

 しかし目論見が外れた。自然と近い場所で生きる人たちだから動物に詳しいかと思ったが、考えてみるとペットとして鳥を飼う人口は逆に少ないのかもしれない。

 これが猫や犬なら話は簡単なのに。オモチャとか買えば終わる話なんだから。


 「で、どういう意図だったんだ」

 「いや実はさあ」


 先日彼らに引き合わせた鳥人。どうも折り合いが悪そうだったものの、美晴にとっては大事な友人である。

 その友人が、突然の結婚──のみならず驚愕の出産まで済ませていたとあって、まさかお祝いしないでいられるはずもない。

 何度か見に行った卵から雛が出てくるのはもうすぐとのことで、できれば孵る前に何かしらのプレゼントをあげたいと思っていた。ものの。


 「何が嬉しいかなんてわっかんなくて困ってるんだよね。鳥の好きなものって何かとか、そもそも鳥と同じ習性なのかとか」


 しかしプレゼントを用意するのに所望品を尋ねるのは美晴の信条に障る。必死に考えて、喜んで貰えたときの嬉しさこそが醍醐味だ。

 間違っても現金とか金券類図書カードとかカタログギフトとかはご法度である。あくまで美晴の信念として。

 ちなみに自分が貰うのは嬉しい。

 鳥なあ、とヒューダが早速やる気を削がれた顔で頭を掻いた。まだアルトの方が思考能力を残した顔をしているほどだ。物凄く気がない。相手は辛うじて知り合いだろうに。


 「うーん、鳥って光りものとか食い付くよね」 

 「宝石?そんなの買えないよ!」


 自慢じゃないが中の中の中くらいの一般家庭だ。ゴロ売りの水晶の原石くらいなら手に入れるのは可能だけど、あんまり光ってないしな。


 「いや、そんなんじゃなく、ガラス玉とかで良いんじゃないの」

 「うーん、思いがけずちゃんと考えてくれてるとこ悪いんだけど、普通にガラスっぽいコップ使ってるところにガラス玉渡して喜んで貰える自信ない」

 「……鳥がどうやってガラス溶かしてんの?」

 「知らないよ。魔法とかじゃないの」

 「うっかりしたら良い匂いしそうだよね」

 「焼き鳥。止めて」


 じわりと湧いた唾をこっそり飲み込んだ。友人に対してそんな、涎垂らすなんていやらしい。アルトからうつったらしき穢れた目を乱暴に擦って、空いた腹を紛らわす。今度あっち行くときまでにお腹一杯焼き鳥食べて満足しておかないと、と人として当然の気遣いを胸に刻んだ。

 最早死体のようにソファに沈み込んだヒューダは全くあてにならない。数秒の沈黙の後、意気揚々と口を開いたのはまたしてもアルトだった。

 彼は何か、女子的なイベント好きそうだよね。力になって貰ってるとこ大変申し訳ないけど。付き合って一周年とかで薔薇の花束抱えてティティに特攻しそう。


 「ヒューダと仲悪くない方の鳥の人は、ミハルとお揃いのアクセサリーとかで良いんじゃな」

 「好みがわからないんなら、無難にごはんが良いんじゃないかなあ」

 「……えっと、やっぱりあげるなら夫婦で喜んで貰えると良いなって思うから、アルトごめんね」

 「あ、うん。僕もごめん」


 深い理由もなく謝罪を交わして、底の知れない笑顔を浮かべるティティから視線を外す。やけにティティと仲が悪い方の話題に、お揃いという単語は厳禁であるらしい。

 ──これはオフレコだけど、鳥人との顔合わせの後、ティティがやたらと暴走したのだ。思い出したくもない。お揃いをアピールされた翻訳紋に対し、キスマークで消してしまえとヒューダを嗾ける悪鬼のような天使(ティティ)の姿なぞ。インテリとの諍いで不機嫌の絶頂だった兄が乗って迫ってきたあの時間は悪夢のようだった。

 手を叩いてはしゃいでいたアルトは絶対に許さない。


 「鳥ちゃんのご飯だから……やっぱり、虫!で、良いんじゃないかなあ?お花屋さんちのピーちゃん、ニョロニョロ大好物だよ」

 「いや、なんか、そりゃ食生活に隔たりがあるとはいえ、プレゼントに虫ってのはちょっと」


 集めるのも持っていくのも嫌だし。

 控えめにノーセンキューを示す美晴を助けるように、のっそりとヒューダが身を起こした。


 「……生態系違うんじゃないか?突然おかしな生物をメシだと差し出されても困るだろ」

 「うーん、いじめ」


 まことごもっともである。細長い身体をウネウネさせて粘液を纏う見知らぬ物体を押し付けられるなどただの嫌がらせだ。

 ご先祖様はよく甲殻類や軟体動物門頭足綱(イカタコ)に手を出そうと思ったよね。あんなの宇宙生物じゃない。あらゆる角度から見ても食べ物の姿をしていない。

 難航した船が動き出すには日が悪いようだった。今日は諦めて、鳥の生態に詳しい鳥マニアな親戚にでも聞くとしよう。問題は、今どこら辺にいるか分からないことだけど。南米がどうのと言っていたのは何ヶ月前だったっけ?

 悩み事があると気が重い。これが晴れる瞬間の心地良さを思えば嫌にはならないが。

 溜息を吐く美晴を無言で見ていたヒューダが、いかにも渋々というように口を開いた。


 「ミハルのところの食い物って、ちょっと変わってるよな。手が込んでるというか」

 「ん?まあ、そうかも。食の国だし。無駄にこだわる民族だし」

 「生き物じゃなくてそういうのなら問題ないだろ。変に残るもの贈って子供に害があったら駄目だしな」

 「あ、そっか……食べ物なら駄目でも捨てやすいしね……」


 記念に残るものが良いかと思っていたけれど、文化のみならず生物としての根幹から違うのだから、下手なものは確かにあげない方が良い。子供が生まれるまでに消費してしまえば間違いないだろう。

 食べ物だって危ないといえば危ないものの、あのサイズなら毒見でちょいと嘗めてみるくらい平気なはず。多分。そんなイチコロな凶悪成分は作用しない、と、良いな。

 ……お茶とかは普通に飲んでたから大丈夫だよきっと。


 「どうしたの、ヒューダ。いやに親身じゃない」

 「いつまでもあいつのことで頭悩ませてるのもな、癪に障る」

 「そしてさりげなく後に残らないものを薦めるところがさすがお兄ちゃん、大人気ない!そういう大人になりたくないねッ!」

 「もう遅いと思うぞ、お前は」


 何だか後ろが騒がしいがまあ良い。帰ったらネットの番人google(ゴーグル)先生に聞いてみよう。

 鳥の好きそうな料理は何ですか、と。






 「──というわけで、こちらがプレゼントになります」


 袋の束を抱えることを、予想していなかったわけでもなかった。

 鳥の好物で、なおかつ調理だか調合だか手が加えてある、美晴の世界だからこそ存在する一品。キビ、アワ、ヒエ、その他植物の種とフルーツ顆粒等を適切なバランスで和えた健康食品──すなわち鳥の餌である。

 どうかな、とは思った。さすがに人の部分を無視して完全に鳥専用のものを渡すのは。でも、調べれば調べるほど、与えてはいけないものリストに引っ掛かるのだ。

 害悪の可能性が高いものよりは。しこたま苦悩した結果がこれだった。

 一応その、おっきいから大型の鳥用とか、おっきいから量を多くとか、そういうことは考えたんだけども。

 ……やっぱり心苦しいなこれ。


 「結婚祝い?ミハルにしては気が利くな」


 そんな美晴の後ろめたさに気付くことなく、インテリ鳥がいくつかの袋の内の一つを取り上げる。注意書きを読めもしないのに興味深げに見詰め、4本の爪で四苦八苦しながら抉じ開けた。


 「これは何ですか?」

 「えっと、多分そのまま食べれるエ……食料、なんだけど」

 「ふむ」


 躊躇なくいった。インテリのくせに生態が違う可能性があるとは考えないんだろうかこのインテリ。

 内心でハラハラしつつ、くちばしをモグモグさせる愛らしい様を見守る。時々カチカチと鳴る音がサイズの凶悪さを思い知らせはするものの、ちろりと丸い舌が覗くのも可愛い。くそ、インテリ鳥のくせに。

 丸い目がカッと見開かれた瞬間、美晴の身体は謝罪の準備に突入した。古式ゆかしい土下座の一手であった。

 膝を床に付ける前には、特に必要なかったことに気が付いた。


 「…………」

 「ちょっと、何一人で抱え込んでがっついてるんですか。私にもくださいよ、ねえちょっと!」

 「まだある!いっぱいあるから!待ってッ!」


 どうやら嗜好に合致したらしい。

 抱いた卵を転がしてまで袋を奪い取ろうとする友人を、クラウチングスタートからの跳びつきで制止する。無言で貪り食うのは譲渡者として嬉しいけど、止めようよ、旦那たるあんたが!


 「これは今は全く関係のない話だが、私の誕生日は大体100日後だ」

 「これもただの話題の続きなんですけど、私は43日後ですねぇ」

 「あ、はい」


 5Lほど持ち込んだはずのプレゼントは、その日の内になくなった。止めるには美晴はあまりに無力だった。

 プレゼントに悩むのは結構好きだったんだけど、違うもの持ってきたら轟々と非難を浴びせられそうだなあと、思いました。まる。

まあいざとなれば毒消し魔法とかあるよきっと(適当)。

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