ep0. 序章
誰しもが一度は、いや、一度と言わず二度三度。あるいは四度五度。
十進法が崩壊するほどに、思ったことがあるのではないだろうか。
あのとき、ああしていれば。
あるいは、こうしていなければ。
あんな風に言っていれば。
あの発言をしていなければ。
人は皆、そんなちょっとした後悔の上に生きている。
過去を悔やむという行為は、いわば人生という名のクソゲーを攻略し損ねたプレイヤーの、唯一の逃げ道であり、同時に、救いようのない娯楽だ。
これは、その後悔の念が殊に強く、後悔する回数も多い、一人の不器用な男が第二の人生を送る物語だ。
────
僕は、享年24歳という若さでこの世界に別れを告げた。
死因は、あえて言うまい。
語るに落ちる、という言葉があるが、僕の場合は語る前に落ちた。
とても恥ずかしい理由だ、とだけ言っておこう。
今際の際に、夢を見たような気がする。
その世界は白い光に包まれていて。
暖かい、心地の良い空気に包まれた、とても居心地のいい世界だった。
「とても不憫な人生だったようじゃの」
声がする。
光の乱反射に遮られ、その輪郭は判然としないが、白いローブに白い髭を蓄えた典型的なおじいちゃんがそこにはいた。
(僕は、どうなったんだ?ここはどこだ?)
尋ねたいことは山ほどある。
いや、山というには些か過剰か。
大して頭の良くない僕の口から出る質問なぞ、せいぜい一つや二つだろう。
しかし、その一つや二つすらも聞くことができない。
声が出ない。
「案ずるな。ここにはお主を縛るものは何もない」
これは言葉通りの意味だった。
縛るものが、何もない。
呼吸をする必要もなく、音もなく、重力すらも感じられない。
時間の経過もわからない。
とても不思議な空間だ。
その老人がどれほど黙っていたのか、皆目見当もつかない。
それは一度瞬きする程度の刹那だったかもしれないし、文明が一度滅び、再び復興する程の悠久だったかもしれない。
「さて、お主には第二の人生を与えようと思う。かつての人生で終わりというには、あまりに、不憫じゃからのう」
「次は、どんな人生を歩みたい?」
ああ、とても優しい声だ。
安心する。
ここでは人に気を遣う必要もないし、怒らせてしまうリスクも、悲しませる心配も、一切考えなくて済む。
ずっとこの空間にいたいものだ。
「じゃが、そうもいかんのじゃ。今回はハードモードが過ぎたかもしれんが、次はイージーモード、あるいはハッピーエンドへ至るための手助けをしよう。もう一度聞こう。次は、どんな人生を歩みたい?」
人生か。
自分の人生を振り返れば、嫌な事ばかりが思い浮かぶ。
そうだな。
もしも、生まれ変わることが許されるというのなら──。
後悔のないように、生きたい。
選択肢を、間違えないように。
「あい聞き入れた。それじゃあの。最後に儂から一つ、アドバイスをするとすれば……精一杯楽しむことじゃ」
後半はあまり聞き取れなかった。
視界の光はさらに強さを増し、真っ白に埋め尽くされていき、それと同時に僕の意識も遠のいていった。
グレゴウス歴64年。
アステリア国、とある貴族家に男の子が生まれた。
この物語の主人公──エリク・リンドベルクの爆誕である。




