終章
争乱が鎮まって。貴志らは琴羽の義勇軍とともに砦に戻った。
信岳敦はしばらく景都にとどまり、治安の維持につとめるという。
砦に戻れば。
香澄、源龍、貴志、羅彩女、龍玉、虎碧、穆蘭、マリー、リオン、コヒョと、みんな勢ぞろいした。よくみんな無事だったものだと、安堵したものだった。
大鵰は砦の土塁の上で休んでいる。
大将部屋にみんなで集まって、貴志は琴羽に全てを打ち明けた。
「異世界から来たの、あんたら」
「まあ、そういうわけです、はい」
「それで、ここでやることみんなやったから、おさらばってわけ」
「まあ、そうです。なんか薄情ですみません」
「本当にねえ。これからもまた何かあった時のために、貴志殿たちにもいてほしいんだけどね」
「でも、王も麗燦様も、立ち直られましたし。我らがいなくても、大丈夫です」
琴羽は無理に引き止めなかった。せめて送別の宴をとも思ったが、去る者追わず、未練を抱かず。
「まあ、なんのかんので楽しかったぜ。あばよ」
源龍は珍しく愛嬌のある笑顔を見せて、椅子から立ち上がる。それを合図に、他の面々も続いた。同じように、愛嬌のある笑顔で。
部屋を出て、じゃあな、それでは、さようなら、とそれぞれ一言別れの挨拶をして。琴羽や義勇兵らはその背中を見送った。
「そうだ!」
琴羽は閃いて言う。
「あいつら面白かったから、忘れないように書き留めておこう、っと」
と自室に戻って筆を握り、いそいそと執筆に励んだのだった。
大鵰は空高く舞いあがった。
しばらく歩けば、河沿いに船。リオンとコヒョが降ろしたのだった。みんなそれに乗船する。穆蘭は、降下した大鵰の背に飛び乗った。
船は大鵰とともに上昇し、空高く舞い上がった。
地上が遠くなる。雲が近くなる。風の向きを変えたあの南の山のてっぺんも見える。風は程よく北から吹く。晴天の飛行日和だ。
その南の山の上を、船と大鵰は飛び越えてゆく。
「お兄さまー」
穆蘭は大鵰の背の上から、笑顔で船の貴志に手を振り。貴志も笑顔で手を振り返す。そんな貴志の横には、香澄とマリーとリオン、コヒョに龍玉、虎碧もいて、一緒に手を振り返す。
そこからやや離れて、源龍は帆柱に背をもたれかけさせて腰を下ろし、空を見上げていた。そのそばに羅彩女。一緒に帆柱に背を預けて、空を見上げている。
「で、次はどこに行くんだ?」
「さあね。風の向くまま、かねえ」
などと言ってる時。
「ああッ!」
という貴志の声。
手にはあの、筆の天下を持っている。
何か閃くものがあって、懐から取り出せば。天下は中空に文字を描く。その文字が一塊になったと思ったら、一冊の本になったではないか。
それが浮いてる間に貴志は手に取り、本の題名を見れば。人海の国の物語とあった。眠っていた貴志の記憶が蘇った。
その様子を、他の面々も見ていた。まことに不可思議なる筆である、天下は。
消えて、忘れられたと思われた人海の国の物語だったが、筆の天下によって再び蘇えったのだから。
これも、第六天魔王に打ち克ったからなのかどうか。
「よかった……」
貴志は嬉しそうにし。その本を愛おしく見つめていた。
「それはどんな話なの? 読んで聞かせて」
香澄が言えば、貴志はうんと頷き。みんなと一緒に源龍と羅彩女のいるところまで来て、車座になった。その様子を見て、
「私も!」
と、穆蘭も船に飛び移る。
「おいなんでオレのところに……」
「まあいいじゃん、一緒に聞こうよ」
しぶる源龍だったが、羅彩女の諫めで、しぶしぶながら、みんなと一緒に貴志の読み聞かせの輪にくわわった。
終わり




