狩りの仕方7
「カルカスって、一度死んだ人や動物が、別の生き物に宿るってやつですか?」
ユコナが、カルカスという言葉を聞いて興味を持ったのか、話に加わってきた。それに対して、レオンが、
「そうです。ふつうは、死ぬと精神が肉体から切り離されてしまうんですけど、人やある程度の知性のある生き物が死んだりすると、残ってしまうことがあるんです。そのとき、まわりにいる知性の弱い生きものにとりついたり、まれに自分の肉体が死んだ状態でもとどまり続けるということがあるんですよ」
「もし、そうだったら、どうするの?」
サラリスが聞くと、
「そうですね。すでに死んでいるので、体をばらばらにすると、とりあえず、動けなくなるので、ほぼ害はなくなりますけどね。残っている精神も、元の肉体の中にいるというだけで、肉体とつながっているわけではなく、時間が経つにつれて霧散していき、なくなってしまいます。まぁ、成仏ですね。まぁ、教会提供の特殊な薬で浄化するのが一番楽なんですけどね。本来の姿に戻す効果が作用するらしいです」
「ふーん、よく知ってるね」
「目撃情報がぱらぱらあって、実は行く前から、そういう話がでていましたので・・・」
(レオン、せっかく博識だって言われてるのに、それいったら意味がないのでは?)
プヨンはそう思ったが、口には出さなかった。レオンは見栄ははらないようだ。
「じゃぁ、いったん町に戻るんだ?」
サラリスが、そういうと、レオンは、
「そうですね。実は、もう一度、様子を見に行こうかなと思っていたんですが・・・。ちらっと見ただけでしたし。かなり動きが遅かったので、危険は少ないと思いまして。ただ、倒すのかと言われると、戦えるのが自分一人ですので、無理はしないでおこうと思います」
レオンは、考えながら、ゆっくりと話をした。剣を抜いて、刃先を確認したりしている。けっこうやる気のようにも見える。プヨンが適当に使っている護身用の木剣と違って、本物の金属製だ。人を殺傷する能力がある武器であり、輝いている刃先を見ているだけで、なんとなく凄みを感じてしまう。
サラリスは、そんなレオンを見ていたが、ついていくかはちょっと悩んでいた。
「わ、私はどうしようかな。さっきは確かに怖かったけど、突然だったのもあったし、いるのがわかってて、中に入るぶんには大丈夫とも思うんだけど」
怖いもの見たさなのか、さっきまで腰が抜けそうになっていたわりには、行きたいようなことも言っている。ただ、中にいるのが1匹だけとも限らないこともあり、ユコナが、
「でも、相手が一匹だけとも限りませんよ。奥にはさらにいるかもしれませんし。もし、行くにしても、出口を確保したうえで、さっきの十字路までにしたほうがいいんじゃないですかね?レオンも盾を持っていないですし、複数いると厳しいと思います」
レオンは、ユコナの指摘に、ちょっと険しい顔をしながら、
「たしかに、そうですよね。奥に何匹いるかわからない以上、出口側に回り込まれて出られなくならないようにしないといけませんね」
「レオンは、怖くはないの?」
サラリスは、レオンに聞いてみたが、
「そうですね。1匹だけなら、油断さえしなければ、負ける相手とは思わないですけどね。奥に大量にいたりするとまずいので、慎重にいきたいと思います」
レオンは、さすがに見習いとは言え、兵士だけあって、あまり怖いとは思っていないようだった。
「どうする?レオンがいくんなら、サポートするけど。一応、みんなちょっとは魔法が使えるし、回復もできるから、邪魔にはならないと思うし、多少の怪我は何とかなると思うよ」
プヨンは、一応、足手まといにはならないと、レオンに伝えてみた。ただ、レオンは、自分以外に3人も連れて行くのは、万が一のことを考えると、避けたいように見える。自分一人だと逃げることもできるけれど、さっきのように、腰を抜かしたサラリスが一緒と考えると、それは当然だと思えた。
「まぁ、気を付けて、ゆっくり行ってみましょうか。でも、危ないと思ったら、すぐに出口に逃げてください。もし、生身のゴーンだと動きはけっこう速いので、腰は抜かさないでください」
最後のセリフは、サラリスをみて、笑いながら言っていた。
「クッ。レオンめ。覚えておきなさいよ」
サラリス、ぷんぷんだが、外まで運んでもらった身では、反論は不可能だった。
「じゃぁ、とりあえず、4人で、もう一度はいってみますか?」
ユコナは、確認のためにも、口に出していた。もちろん、自分も行く気のようだった。
ユコナがそう宣言したのもあって、4人は、入口まで戻ってきた。
4人は、ゆっくりと一歩一歩、洞窟に入っていく。レオンがランタンに火をつけて、先頭を歩いている。洞窟に入ってすぐ、ユコナがレオンに確認した。
「レオン、もし、さっきのがいたら、どうするのですか?」
レオンは、即答しないで、歩きながら考えているようだ。
「そうですね・・・・。相手が、さっきの一匹だけなら・・・・、できれば、倒してしまいたいですね。教会の祈祷薬がないので、力づくですが」
力づくというからには、ばらばらになるまでやるようだ。ちょっとグロいなぁとプヨンは考えていた。レオンが、そういうと、ユコナは、自分でも覚悟を決めたのか、ゆっくりとうなずいた。
「ふつうのゴーンならいいけど、もし、カルカスなら?どうするのですか?まぁ、どちらが手ごわいのかはわかりませんけど」
ユコナは、おそらく、戦いになってしまってから迷うのは避けたいようで、事前に行動を確認しておきたいようだった。倒すということは頭の中でわかっていても、ほんとにそれでいいのか、あるいは、レオンは、もっと違うことを考えているなどと迷ってしまうと致命的になる。それは、当然のことのようにも思えた。
「そうですね。今回は、まず、怪我をしないことを最優先にします。討伐隊を出すにしても、相手の数とかを確認するようにして、倒すのは、余裕がある場合だけになりますが・・・」
そこで、レオンは、いったん間をおいた。聞き方を考えているように見えたが、おそらく、これを聞きたいのだろう。
「ユコナとサラリスって、狩りは何度かしたから、戦うことにためらいはないよね?」
プヨンは、レオンにも知ってもらっておいたほうがいいかと、あえてサラリスに質問してみた。
「うん。まぁ、鳥程度なら、ちょくちょく狩りをしていたから、そういう抵抗はないけど・・・猛獣とかを駆除するとかになると怖いかな。血などが飛び散ったりするのは、苦手だけど。それに、人は、たとえ、勝てるとしてもちょっといやかな」
「お二人とも、動物を狩りした経験があったんですね?それなら、じゃぁ、小型であれば、狩れちゃうんですね」
レオンは、2人はそういう経験がないと思っていたようで、どの程度までサポートがいるのか不安そうだったが、まったく初めてじゃないとわかって、少し安心したようだった。たしかに、剣をふって獲物を切ったり、魔法をはなったりしたことがあるのなら、敵を前にして、後れをとることはすくなそうだ。
「でも、さっきのようなのが出てきても、自分からは戦おうとしないでください。特に2匹目がいた場合は、囲まれる前に引き返してくださいよ。同時に3人は守り切れませんので」
「うん、わかってる。今度は自分で逃げるから」
殊勝にも、サラリスは、自分が守られる立場であることを受け入れ、レオンから2mほど距離をあけ、そろそろと後ろを歩いている。ユコナも、だまってサラリスの横にならんで歩いていた。
プヨンも、あーいった2足歩行タイプとの戦いの経験はほとんどないので無理はしないつもりだったが、
(あの3人というのは、俺も入っているのかな?それとも、俺=レオン、サラリス、ユコナで俺は入ってないのかな?俺も守ってくれる対象なのか)
自分の身は自分で守れと暗に言われているのか、ちょっと考えてしまった。まぁ、自力で逃げるつもりではあったけど。そこは、とりあえず、置いておいて、
「レオンは、さっきのを見つけたら、いきなり仕掛けるのかい?」
と、聞いてみたが、レオンもそこまで好戦的ではないのか、
「ゴーンは群れることが多いので、うっかり仕掛けて、後からうじゃうじゃでてくるのは避けたいですね」
と、いきなり仕掛けないでと注意を促してきた。プヨンも、思い出したことがあり、
「あ、サラリス、火魔法連発は禁止ね。酸欠は怖いから」
サラリスに念のため、注意しておく必要があった。
「え、酸欠って何よ?火魔法ダメなの?私、何もできなくなるよ?」
「やっぱり。中で使うつもりだったよなぁ。こんな狭い空間で使ったらダメだと思うよ」
プヨンは、一応、聞いておいてよかったと思ったが、
「酸欠ってなんですか?危ないんですか?」
ユコナが、聞いてきた。レオンも意外そうな顔をしている。おそらく、2人とも、密閉空間で火を使うことに対して、危険だという認識がなさそうに見えた。
「えっ」
プヨンは、ちょっと驚いたけど、狭いところで火魔法を使うと、とても危険だということを簡単に説明しておいた。みんな、今一つよくわかっていないようだったけれど。
(そうなんか?一番気を付けることのようにも思ったけれど、そこまで心配しなくてもいいのかな?)
そう考えていた。




