狩りの仕方6
長く感じたが、それでも10秒程度か。ランタンの光で姿がはっきりと見えた。ゴーンと言われた獣は、頭を大きく怪我しているようで、色はよくわからないが、体にはどすぐろいものがついているように見える。血だろうか。
(なに、あのグロいのは。あれで、い、生きてるのか?)
「・・・なんだあれ」
プヨンはそうつぶやくと同時に、出口の光に向かってダッシュしていた。ユコナもほぼ同時に走り出し、すぐ後をついてくる。まわりに数秒遅れてレオンも走り出した。ガチャガチャと金属鎧の音がする。
「ね、ねぇ、あれって、なんかおかしくない?」
サラリスはランタンを持ったまま、後ろを振り返った。
「えっ?」
遠ざかっていく3人が見えた。
もう一度、ゆっくりとゴーンのほうを振り返ると、ゆっくりとではあるが、サラリスのほうに近づいてくるようだ。
「え。ま、待って。なんで3人ともダッシュしてるのよ」
サラリスも走り出そうとしたが、気が動転したからか、ふわふわとしたような感覚で、足がもつれて思うように進まない。スローモーションのようなぎこちない動きだ。
(ちょ、ちょっと。わたしの足、ちゃんと動きなさいよ。ユコナ、私をおいていったわね)
全力で走っているつもりのサラリスであったが、ふつうに歩くのより遅かった。
(こわい。後ろはもう見れない。肩つかまれたら、ショック死するかも・・・)
プヨンとユコナは、もうすぐ出口につくところまできた。レオンは、後ろを振り返って、サラリスもついてきているか確認した・・・・ところ、例のゴーンとサラリスは、スローモーションのような動きで、はるか後方で追いかけっこをしているのが見えた。ゴーンは、ゆっくりなので追いつかれることはなさそうだったが、
「な、なにをしているんですか?サ、サラリス様・・・・はやく逃げてください」
レオンは、奥に向かって大声で叫んでいた。
「ま、待ってー。あ、足が・・・」
30mほど後方、すなわち、ほとんど十字路のあたりから、かぼそい声が返ってくる。
「ユコナ様、プヨンさん、待ってください。サラリス様がついてきてません」
レオンは、そう叫ぶと、サラリスの方に取って返した。
「えっ」
レオンの言葉を聞いて、プヨンとユコナは思わず声が出た。ほぼ出口にいたが、立ち止まって奥を見る。レオンが戻っていく姿がうっすらと見え、さらに奥の方にランタンの明かりが見えた。さっき見た姿を思い出すと、即座に戻ろうという気にもなれなかったが、やむを得ず引き返すことにした。
「ちょっと見てくるから、ユコナはそこで」
3人で行く必要もないと判断して、プヨンは、ユコナには残ってもらって、引き返していった。
レオンは、サラリスのところにつくと、サラリスの手を引いて、連れ出そうとしたが、
「ご、ごめん、レオン、足が動かないよ」
サラリスは、腰が抜けたような状態になっている。
ゴーンは、サラリスの後ろ3mくらいのところにいる。頭を大けがしてるのがはっきりわかるが、
なぜか、無表情のまま、ゆっくりと歩いている。
「サラリス様、すいません」
「え、え、えっ」
プヨンは、レオンがサラリスを持ち上げるのを見て、奥に向かって走るのをやめ、再び出口に走りはじめた。
(レオン、力持ちだな。金属鎧を着て、大人でないとはいえ、女の子を一人抱えて走れるとは、相当な力があるよな。あれが、身体強化なのか?)
そう考えていると、レオンがプヨンのところまで追いついてきた。さすがにちょっと呼吸が荒くなっているが、約2倍の体重で走っていると考えると、相当な力だと思われる。レオンに付き添って走りながら、プヨンは、
「サラ、大丈夫か?」
と、一応、聞いてみた。サラリスは、じっとしていて、返事がない。まぁ、状況からも元気いっぱいのはずはないが。少し恥ずかしがっているようにも見え、頬を赤らめているが、まだ、震えてもいるようだった。レオンは、そのまま抱きかかえて走り続け、全員出口までやってきた。ユコナは、奥を見ながら警戒しているが、とりあえず、一息つくことができた。
4人は、洞窟の外に出た。サラリスも地面に下ろしてもらって、腰かけている。プヨンとレオンは、さっきのゴーンが後を追って出てくると予測し、入口から奥の方をじっと見ていたが、15分以上経っても、何もでてくる気配はなかった。ようやく、ほんとの意味で、一息つくことができていた。
それでも、レオンが、奥の方に注意を払いながら、ぼそっとつぶやいた。
「どうやら、外にはでてこないようですね・・・」
「そうみたいだね、でも、さっきのは、なんだったんだろう」
プヨンは、さっき見たものを思い出していた。
「なんか、頭を大けがして、血かなんかがついているように見えた。腕も片方ないように見えたし。大けがしてるように見えたけど」
「そうですね。私もあれなにって思って、反射的に逃げてました。へへへ」
「へへへ、じゃないー。ユコナ、あんた1人で逃げたわよねー」
サラリスは、ユコナを睨んでいった。
「えっ。ひ、ひとりじゃないです。3人ですよ?」
ユコナは、プヨンを見てきたが、プヨンは、気づかないふりをしていた。
「プヨンがここで待ってろといったので、3人戻っても仕方ないかなと」
(あ、ユコナめ)
ユコナは、プヨンをかばうつもりはないようだ。当たり前だが。だが、しかし、
「ちっがーーう。最初よ、さいしょ。走り出す前に、私に何も言わなかったでしょー」
サラリス、ご立腹である。ユコナは、怒りのポイントを悟ったようで、
「あっ・・・」
と、つぶやいた後は、平謝りしていた。
プヨンが心の中で、86まで数えたころ、サラリスの怒りゲージが下がってきたようだ。
(禁固86秒か。まぁ、こんなもんかな)
ユコナのためにも、話題を変えてあげることにした。
「なぁ、それはそうと、もう一度聞くけど、さっきのって、あれ何?怪我してるように見えたけど。外に出てきたらどうするの?レオン?」
そう聞くと、レオンは、即答できず、ちょっと考えていた。
「・・・そ、そうですね。・・・見た目から、ゴーンに違いないですが、・・・・頭を含め、かなり・・・、大けがしてますね。それは間違いないと思います」
そこで、ちょっと間が開いた。いろいろ考えているようで、残り3人は黙ってレオンを見ていた。
「もともとは、私が言われたことは、町の人から何度か不審な生き物の報告があったので、それらしいものがほんとにいるのか見てこい、でした。ですので、結論としては、『へんな生き物がいました』でもいいのですが、さっきのが外に出て、万が一、人に被害が出ると非常にまずいですよね。それに、報告しても、応援がでるんですけど、結局なんとかしてこいと言われるでしょうし、二度手間ですよね」
「じゃぁ、退治するの?」
サラリスがそう聞くと、レオンは、
「たしかに、二度手間だと言いましたけど、サラリス様、ユコナ様を危険に遭わせる可能性を考えると、今、ここで、戦闘で駆除するのは難しいと思います」
レオンは戦闘では対応できないと言うけど、プヨンの印象としては、
「そうは言っても、なんか、様子がおかしかったよ。えらく動作が遅いように感じたし。そのゴーンとかいう猿は、よくは知らないんだけど、あんなにゆっくりなの?しかも、群れになるっていうわりに、1匹だけっぽいし、なんとかなりそうな気もするよ」
レオンも、思うところがあるようで、
「そうですよね。自分もちょっとひっかかるんですよ。ゴーンってけっこう素早いんですよ。ただ、なんか、怪我もだけど・・・・、なんていうか、へんですよね」
そこで、レオンは一呼吸おいて、
「プヨンさん、あれの頭みました?」
「うっ・・・。見た・・・。頭」
「ですよね・・・・」
そこで、ちょっと沈黙モードになった。
「レオンは、ゴーンを倒そうと思ったら倒せるの?自信ある?」
「勝てなくはないと思うのですが、ちょっと気になってることがありまして・・・、あれは、もしかしたら、カルカスってやつじゃないのかなと」




