狩りの仕方5
洞窟の中に入ってどのくらい経っただろう。一応、注意しながらゆっくりすすんでいるのもあって、距離的には500mくらいか。十字路と言えばいいのか、中央の広めの道に対して、半分くらいの細さの分かれ道は何度かあったけど、基本的に中央の道をまっすぐにすすんできた。時間にして、30分経ったかなというくらいだった。途中で、サラリスは疲れてしまったのか、明かりを消してしまったので、ランタンでまとまって歩いていた。何度か道を折れ曲がったのもあって、とっくに入口は見えない。石壁はこけや草のツタが絡んでいたりするところもあるが、日光が届かないからか、石を加工でもしたのか、壁は思ったよりきれいだった。途中、2、3度、ちょっとへんな気配を感じたような気がしなくもなかったが、薄暗い雰囲気のせいとも思え、気のせいだろうと、特に確認もしないで進んできた。
先頭のサラリスの前は5mちょっとしか見えない。その先は、真っ暗だ。
「そろそろ一番奥の大広間に出るはずですよ」
レオンがそう言ってきた。すると、目の前に、大きな両開きの金属製の扉が見えてきた。4人は、扉の前に立ったが、レオンは、
「じゃぁ、中に入りますか」
躊躇なく扉を開けて中に入っていった。扉は、ギギギっと音は立てたが、そうひっかかるわけでもなく、滑らかに奥に開いた。
扉を開けて中に入ると、天井が高くなった。3mくらいか。広さも、20m四方はありそうだった。ただ、広いだけで、特に何もない。まぁ、あるとは思ってなかったけど。
「まぁ、何もないですね、あるほうがおかしいんですけどね」
レオンは、そう言って、部屋の真ん中あたりに行った。ランタンを真ん中に置いて、座り込んだ。
「まぁ、そうよね。それなりにどきどきして面白かったけどね」
サラリスもそういって、レオンから、1mほど離れたところに座って、水を飲んでいた。
「ちょっと休憩したら、戻りましょうか」
中央のランタンで、暗いながらも部屋全体が、ぼーっと見えている。プヨンは、こういった場所にくるのが初めてで、興味本位にまわりの壁とかを見てまわっていた。といってもなんの変哲もない壁しかなかったが。部屋の奥が一段高くなっているくらいで、入ってきた以外に扉もなさそうだった。
「この部屋ってなんかあるの?ここってそもそもなんのための部屋なんだろう?」
レオンに聞いてみたが、さぁ?とだけ言われてしまった。
(まぁ、そうだよね。町に近いけど、最近のものじゃないみたいだしなぁ)
さらにぼけっと壁を見ていると、壁の一部の石だけ、色の違うところがあった。1m四方くらいか。ちょっと近寄って、ランタンの明かりを頼りに調べてみたが、特に変わったところはなさそうだった。奥に何かありそうに思ったけど、壁に取っ手や動かした跡などもない。まぁ、こんな町のそばにあるところなど、さんざん調べられているはずだ。今更、すぐに目についたところを調べたところで、新しいものが見つかるはずもないと思われた。
10分ほどして、レオンは立ち上がり、宣言した。
「では、そろそろ戻りましょうか。迷子はどうなりましたか?」
「すでに迷子は発見、確保しております。隊長」
プヨンとユコナが、はもりながら即答した。
「えっ」
もちろん、サラリスは、そんなこと完全に忘れていたが。
そして、のんびり、広間から、扉を抜けて通路に出て、もと来た道を、そのまま歩き出した。
先頭がレオンで、迷子は、一番後ろをとぼとぼ歩いていた。
来た時に比べると、障害もなく、敵らしきものがいなかったこともあり、わりと気が緩んでいた。あまりまわりを警戒していないのもあって、歩くスピードも速い。行きの半分くらいの時間歩いて、その次の角を曲がると出口まで一直線のところまできたころには、サラリスの機嫌もすっかりなおっていた。サラリスも終わりが見えてきて元気がでてきたのか、急に駆け出そうとした。
「サラ、ちょっと待って」
とっさに、プヨンは声をかけた。
プヨンは、通路の奥から何か気配を感じた。それも、ちょっと普通ではない気配がする。言葉にしてうまく説明はできないが、ユコナがたまに使う、周囲の雰囲気を凍らせるものに近い。いや、もちろん、後のことを考えなければ、ユコナがよくやるものと説明はできるんだろうけれど。
サラリスは振り返って、
「な、何よ?どうかしたの?」
と聞いてきた。
(サラリスが走ろうとしたので気づかなかったかと思ったが、感じたのは俺だけなのか?)
「い、いや。なんか、通路の奥のほうがおかしい気がしたんだけど。とめてわるかった。さっさと曲がって出よう」
俺は、サラリスにそう言った。ただ、サラリスは感づいていないのもあって、
「え、おかしいって?奥の方には行くつもりはなかったけど、おかしいなら確認に行ったほうがいいんじゃないの?」
そう聞き返してきた。
曲がり角まできてサラリスは立ち止まり、レオンから奪ったランタンの光で通路の奥の方を見ようとかざしているが、暗くて何も見えていないようだった。4人が集まると、レオンとユコナも何か感じたようだ。サラリスは感じていないようだが、
「サラ、奥はやめた方がいい気がします。レオン、どうします?」
ユコナにしては珍しく、はっきりとサラリスを止めている。
「え、そうなの?やばそうなの?」
サラリスが、ランタンを持ち上げて、もっと奥が見えるようにしたとき、奥に何かがいるのが見えた。目をこらしてみていると、サラリスが、
「あ、あれ、何?」
と声をだした。姿を見ていると、もつれた2本足で歩いている1mくらいの生き物が見えた。
「あれは、影の形からすると、ゴーンのようにも見えますが、・・・・何か違いますね・・」
レオンがそう言うと、ユコナが、生き物から目を離さないで、
「ゴーンは、2本足で歩くのは遅いのですが、このあたりでも広めの森の奥の方にいる大型の肉食猿です。ふつうは樹上生活をして群れを組んで行動することが多く、知能が高く、簡単な道具なども使いこなします。どうやっているのか、群れの中にはまれに風をあやつり、砂埃をあげて目くらましをしたりする個体がいる、厄介な相手なんですが・・・」
と言ってきた。
「それって、魔法が使えるってこと?」
「魔法かはわかりませんが。社会性があるらしく、言語らしきものももっていると聞いたことがあります。ただ、私たちと意思疎通ができることはないらしく、獲物と思って襲ってきます。アルフやテラントのような、会話ができる人型の生き物とは違います。」
その生き物は、緩慢な動作でゆっくり歩いてくるように見える。ユコナは続けて、
「それでも、いくら歩くのが得意ではないといっても、遅すぎませんかね?」
ずるずると、何か、足をひきずっているような音も聞こえてきた。
4人は、その生き物をじっと見つめていた。




