領地運営の仕方
とうとう、この日がやってきた。3週間前に受けた試験の結果の通知がレスルにきたそうだ。
以前より、例の学校は合格率が高いと言われていた。すると、落ちるとかなりつらい立場になる。ほぼ合格すると言われる試験と、ほとんどが落ちる試験、どちらが心理的に楽なのかという命題に取り組んでいたが、結局、プヨンは、結論を出せなかった。
まぁ、レスルの仕組上、落ちたらメサルの護衛という仕事がなくなってしまうわけなので、プヨンとしては受かるしか選択肢がない。とても緊張していたが、落ちたら落ちたで違う仕事をすればいいはずだ。もちろん、おばかのレッテルを貼られて、肩身はせまくなるだろうが。
プヨンは、なかなかまっすぐ向かう気にはなれなかったが、それでもレスルに到着した。
レスルは、いつもより人が多く、あちらこちらで話し合う姿が見える。特に、先日、レオンからも聞いた、北方の敵対していた数ヵ国が融和政策をとる噂の件が聞こえてくる。
そして、それには尾ひれがついていた。敵対国間で手が出しにくかった貿易が安全貿易になり活発になるだろうといった経済的な話や、その貿易を独占していた通商連合に関連した政治的な話、北方が安定したから、南下政策に入る=どこかで紛争なり戦争が起こる、という軍事需要の高まりを期待する話があちこちで交わされていた。
要するに、仕事が増えるだろうという期待から、とても活気があった。
レスルで交わされる会話に一通り聞き耳を立てた後、プヨンは、ヒルマのところにやってきた。当然、ヒルマはすでに要件を知っているからだろう、わざと焦らすような、ゆっくりとした言い回しで、
「プヨン、待ってたわよ。じゃぁ、あちらで説明しましょうか」
ヒルマには似合わない気がするが、『じゃぁ』が特にかわいらしく感じられた。それに、ニコニコと笑うような顔つきをみると、言いにくそうな雰囲気ではない。
ダメだったらもっと見下すだろうから、それだけでもなんとなく結果は予想できた。
指定された、広間の隅のテーブルに座る。ヒルマは、あまり意地悪はしないで、あっさり結論を教えてくれた。
「プヨン、一応、合格らしいわよ。ご・う・か・く。ビリから2番目で」
「うっ」
ビリから2番。ギリギリ。
大半が合格と聞く中で、これだと、入ってから先が思いやられる。そう思っていると、
「なんかね、今回、相当合格者を絞ってるらしいわよ。プヨンは、北方で戦争あるかもみたいな話聞いたことある?」
それは、さんざんそのあたりでも噂になっている。黙ってうなずくと、
「そう。なんか、聞いた話によるとね、今までは北側だけでもめてたけど、あっちでまとまってどっかに攻め入るらしいって情報がきてるのよね。おそらく、学校もそれにあわせて、即戦力だけに絞ったみたいよ。そういうとき、過去には、実践訓練といった名目で、予備兵として駆り出されたことが何度もあったからね」
ヒルマの言うことは、納得できた。
なるほど、合格人数が絞られたので、最低ラインがあがったのだろう。それは、理解できたが、少しほっとしたところで、
「それでね、プヨン、あんた、筆記の正解率。3割ないらしいわよ。4択で。勉強した?」
「えっ?」
予想外の方向から一撃をくらった。乱数の神様は、この世には存在していないことが確定した。
4択で、3割ということは、ほぼ覚えていなかったことに等しい。ヒルマの視線が突き刺さる。
「まぁ、受かったのならいいんだけどね。でも、理論面も知らないと入ってから大変よ」
そこまでいうと、急に、にこっと笑顔になり、事務的な話になった。
「あとね、追記があって、大きさは問わないから、入学時に黄色系の尖晶石が1個いりますって付箋があったわ。石の精度や大きさは問わないらしいけど、なんでも、学校で使う、スピン服用なんだってさ。石は買っても、狩ってもどっちでもいいらしいけどね。それから、入学までに一度くるか、この書類を送り返してほしいそうよ。採寸とからしいわね。以上よ」
ヒルマの説明は終わった。なんとか受かってほっとしていたが、入ったら入ったで、いろいろと厳しそうだ。プヨンは、安心と不安と両方を感じていた。
その後、町の門のところに、レオンに会いにいった。先日のパンツァー服の色が白になったままで、不良品ではないかと言われたためだ。
「すいません、わざわざ来ていただいて。こちらは回収して新しいものをお渡ししますね」
結局、その後、他の人が試しても、白から変わらず、レオンは申し訳なさそうに、新しいものを出してくれた。
新しい服は、触ると、すぐ色が水色になり、良品であることを確認した。
レオンの件も終了し、詰所を出ると、プヨンは恐ろしいものを見た。
詰所を出て、少し離れた町の出入り口近くに、少し人だかりができている。何ごとだろうと、見に行くが、見た瞬間、慌てて目を伏せた。
“公開恥刑中 私は、機密情報を漏洩しました”
先日捕まったユコナが、サラリスに監視され、首からプラカードをぶら下げている。しかも、熊の着ぐるみのようなものを着ていた。
おそらく、サラリスの個人情報をうっかり公開してしまったからだろう。過酷な刑罰を受けているようだ。
(これは、目を合わしてはいけない)
人ごみに紛れながら、プヨンは、そっと、その場を立ち去ることにした。




