神の使徒、ティア 2
ティア無双です。
「国王様!伝令です!!」
ティアがこの世界の危機を救うと宣言してから1時間後。
ティアは謁見の間に国王と王子、その他の重鎮、そして国への貢献度が大きい貴族と共にいた。
そこに一人の兵士が汗を流しながら走ってくる。
「どうした!何かあったのか?」
「はっ!リーガディアン王国前方に広がる草原に多数の天族の接近を確認!引き連れている魔物は竜種です!」
「なんだと?!」
兵士の報告にルガンツの眼が大きく見開かれ、周りの貴族たちに動揺が走る。
「な、なんだと...?」
「これはまずいぞ...すぐに国民を非難させなければ...」
「しかし、どこに避難させるというのですか..?」
貴族たちの動揺は次第に不安へと変わり、ざわめきが大きくなっていく。
「貴族の私兵を使ってでも国民を死守せよ!そして戦えるものは戦闘に出せ!何としても国民の命は守るぞ!」
「「「はっ!!」」」
国王の言葉に一斉に頷く貴族たち。
国民の事を思っている良い貴族のようだ。
「して、使徒様よ。急で申し訳ないのですが、我らに力を貸していただきたい」
「ええ、わかりました」
◇◇◇◇◇
報告された王国前の草原に行ってみると、そこは酷いありさまだった。
草は竜のブレスで焼かれ、戦いに出た兵士は天族たちに嬲り殺されている。
「アハハハハ!軟弱な人間どもめ!我らの意思に逆らうからこうなるのだ!」
「人間は皆殺しだ!主神を引きずり出せ!」
狂ったように笑いながら人を殺していく天族。
その姿はまるで殺しを楽しみ殺人鬼のよう。
「ひどい...」
思わずそんな言葉を漏らしてしまう。
「また愚かな人間が来たようだ!嬲り殺してやろう!」
一人の天族がこちらに向かって飛んでくる。
「あなたみたいな雑魚には用はないんです。死んでください」
わざわざ武器を使う必要もない。
こんな奴は私が直接殴り殺してやると言わんばかりに身体強化をかけたティアは、足を大きく踏み込み、腰を入れた右ストレートを天族の頭に向かってぶっ放す。
バコォン!!
おおよそ肉と肉同士がぶつかったときに出ないような音が戦場にこだまする。
一瞬だが、戦場が静寂に満たされ、だれもが音のなった方向を向いている。
「...弱いですね。あなたたちのような雑魚に、私は構っていられないんです」
返り血に染まったティアと、上半身がなくなり下半身のみになった天族。
誰もが目を見開いた。
ティアは武器を持っていないからだ。
「なん...だと...?」
一人の天族のつぶやきがやけに明瞭に響く。
天族は全員が混乱していることだろう。
この女は、拳だけで天族の上半身を木端微塵にしたのか、と。
事実、この光景を見るにそうだとしか思えない。
「...か、勝てる!使徒様がいれば勝てるぞぉぉぉぉ!」
一人の兵士がそう叫ぶ。
それに誘発されるように周りの兵士も次々と叫ぶ。
「王国を守るんだぁぁぁぁぁ!!!」
「勝てる!絶対勝てるぞぉぉぉぉ!!!」
「「「ウオォォォォォォォォ!!!!!」」」
何万もの兵士の雄たけび戦場を支配する。
その圧力に、天族たちは焦りを加速させていた。
「あ、あの女を狙え!雑魚は無視しても構わん!!」
天族の体調らしき人物がそう指示を出す。
「使徒様を守れ!行くぞォォォォ!!!!!」
だが、人族は天族の進路をふさぐように立ちふさがり、次々と天族に攻撃していく。
「くっ、この人間風情が!我らに歯向かうのか!」
天族の一人が怒りをあらわにして人族の兵士をまとめて吹き飛ばす。
「死ね!神の使徒め!!」
複数の天族が連携してティアを襲うが、ティアはその場から一歩も動かない。
兵士がこちらに振り向き、天族が攻撃を繰り出す。
死んだ、と誰もが思った。刹那――。
ギチャァ!
天族の体が爆散した。
「なぁっ?!」
遠くから指示を出していた天族も、これには目を見開かせる。
「き、貴様!何をした!」
「簡単なことですよ。何度も同じ場所にパンチをして、体がその負荷に耐えられなくなったから爆散した。それだけのことです」
「そ、そんな非現実的なことが起きるわけが...」
「事実、今さっき起きたじゃないですか」
何を馬鹿なことを、といった表情で天族を見るティア。
「とりあえず、自分が置かれている状況を確認したほうがいいんじゃないですか?」
「は?」
天族が辺りを見まわす。
「...いない?!」
「ええ。残りの天族はあなただけです。人間を舐めて少人数で攻めてきたのが間違いでしたね」
「ありえないっ!竜はどうなったのだ?!」
「それも死にましたよ。あまり人間を舐めないほうがいいですよ」
「そんな...」
人間に敗れたという屈辱にその場にへたり込んでしまう天族。
「じゃあ――」
ティアはその天族に近づくと、アイテムボックスから取り出したルークテンズを大きく振りかぶり――
「死んでください」
振り下ろした。
◇◇◇◇◇
「う~ん、汚れちゃいましたねぇ」
自分の服を見下ろしながらつぶやく。
あの後、兵士たちからはたくさんの感謝の声をいただいた。
だが、兵士は数が多かったので若干疲労気味だ。
「使徒様、王城のお風呂をお使いください」
「あ、ライルさんですね。お疲れ様です。気持ちは嬉しいですが、大丈夫ですよ」
「いえ、あなたのような美しい方が汚れたままでいるのはよろしくない。せめて水浴びだけでも」
正直、ハルト以外の男性に美しいとか言われてもあまりうれしくない、と内心で思いつつも笑顔を張り付けて答える。
「いえ、本当に大丈夫ですよ。【クリーニング】」
水の球体がティアの体を包むと、一瞬で体や衣服、髪の毛にこびりついた返り血がなくなる。
そして球体がなくなると、
「ほら、大丈夫ですよ」
乾いた服を着たティアが出てきた。
服だけではなく、髪まで乾いている。
「使徒様は、高貴な魔法使い様でもあられましたか...」
「う~ん、高貴かどうかは分かりませんがねぇ~」
正直言うと、あまりすごい魔法じゃないので微妙な気分。
「...話は変わりますが、使徒様のお名前は...?」
「ああ、そういえばまだ言ってませんでしたね。私はティアです」
「ティア...いい名前ですね。よろしければ、今夜、あなたの部屋に行っても?」
「お断りします」
即答だ。
いきなり部屋に行ってもいいか、と聞かれたのだから仕方ない。
「...なぜですか?あなたは恋人以外には触れられたくはないんでしょう?なら、僕と恋人になりましょう」
「...どうしてその考えになるのか知りませんが、迷惑なのでやめてください。それに、私は旦那がいますし」
「旦那だと?!...その人は僕よりは優れていないでしょう?僕は地位もあるし顔もいい」
「おい」
ライルの本能が一瞬にして警告を鳴らす。
そしてライルは後悔した。自分が言ってはならないことを言ってしまったということに。
「今、私の旦那の事を馬鹿にしたな?お前、ただで済むと思うなよ?」
それだけ言い残して立ち去るティア。
ライルはそこにしりもちをつくことしかできなかった。




