神の使徒、ティア 3
「使徒様。此度の活躍、見事でしたぞ!使徒様のおかげで我らはこの国を守ることができた!」
「いえ、守るといったからには協力しないといけませんからね」
あの戦いが終わってから1日が経った。
未だに迎えは来ていない。
もしかしたら迎えに来ないんじゃないか、と焦りを覚える中、ティアは謁見の間で国王と貴族たちに囲まれていた。
王子は居ない。
「使徒様、そういえばまだ名前を聞いておらんかったな。差し支えなければ、教えていただきたいのじゃ」
「ええ、構いませんよ。私の名前はティア。猫人族の長の娘です」
「なんと!使徒様は獣人族であられましたか!」
一人の貴族が驚きを含んだ表情で反応すると、突如謁見の間の扉が開かれた。
「どうやら神の使徒は獣人族のようだな。なら、我らとともにいるのが正しいはずだ」
入ってきたのは2m近くあるであろう巨体に筋骨隆々とした肉体の持ち主だった。
「...何の用だ。獣王ガヴリール」
どうやら獣人族の王のようだ。
「いやなに、軟弱な人間がどう天族に足掻くのか気になってな。少々様子を見に来ただけだ」
「...あまり人間を屈辱しないでいただきたい。獣王ガヴリールよ」
「なぜ弱いものを弱いと言ってはならぬのだ?お主ら人間は今回の戦いでは使徒以外は役に立たなかったそうじゃないか」
「貴様!」
「なんだ?歯向かうのか?天族の大軍を相手に一歩も引かずに押し返した獣国ルヴィンスの王である俺にか?」
「くっ...」
どうやらこの獣王、力があるからと言って人間を馬鹿にしているようだ。
力があってもその力を振るう者がこれなら、獣国とやらも長く続かないだろう。
「おい、ティアといったな?」
「え?は、はい」
突然呼ばれたことに驚きながらも、しっかりと答えるティア。
「俺の妃になれ。拒否権はない」
「は?」
何を言っているんだ?馬鹿かこいつは?といった目でガヴリールを見るティア。
対するガヴリールは自信に満ちた表情でどや顔しており、「早くはいと言え」と言わんばかりに鼻を鳴らしている。
「お断りします」
「は?」
だからこそ、ティアの返答に驚いた。
この猫人族はなんといったのだ?自分の求婚を断っただと?
「何故だ?俺は力がある。お前を幸せにすることもできるんだぞ?」
「いえ、私には愛を誓った人がいますし...」
「...なんだと?」
絶望したような表情になるガヴリール。
すぐに問いただそうとするが、それは伝令の兵士によって遮られた。
「ほ、報告します!王国前草原に天王族を発見!その数300!天族も1000体ほど確認しました!」
「「なんだと?!」」
ルガンツとガヴリールの声がはもる。
ティアは天王族という聞いたことのない言葉に首を傾げる。
「あの、天王族って何です?」
「ああ、使徒様。天王族というのは天族の最終形態のようなものでな。天使よりも強い力を持っているといわれる。そして、下手な神よりも強い」
「へぇ~...」
ルガンツの説明に、間延びした答えを返すティア。
そんなティアにガヴリールが怒鳴る。
「おいティア!これが危機だと認識しているのか?!」
「え?いや、少し厄介だな~とは思いますが...」
「そういう問題じゃないのだ!」
さらに怒鳴ろうとするも、城が轟音と共に揺れたことに警戒態勢を見せる。
「遠距離攻撃だ!急いで草原に向かうぞ!!!」
ルガンツの指示に急いで支度を進める貴族と兵士。
「ガヴリールよ」
「ああ、わかっている。今回ばかりは協力しないとまずいな。だが、俺の国の兵士は出せない」
「ああ、お主が協力してくれるだけでもありがたい」
王様同士は何やら和解したようだ。
「さて、私も行きますか」
◇◇◇◇◇
「クソッ!クソッ!なんで見つからないんだよッッ!!」
「ハルト...」
ティアが疾走してから三日。
未だにティアの居場所がつかめず、ハルトは苛立ちを露わにしていた。
三日間、食べず寝ずで過ごしたハルトは、ティアがいなくなった極度のストレスからか、目の下は3日でできるとは思わないほどの隈ができており、目は真っ赤に充血していた。
そんなハルトを心配そうな目で見つめるのはリディアだ。
何度も休むように言っているのだが、「ああ」「わかった」としかハルトは言わないので、休めさせないでいる。
「ねぇハルト...そろそろ休んだほうが...」
「ティアを見捨てろっていうのか?」
「...そこまでは言ってない。私は疲れている状態で探しても見つからないと言っただけ。少しは休むべき」
「....」
先ほどまでとは違く、力の込められた言葉に反論できないハルト。
「...分かってるさ。これが終わったら休む」
「ダメ。今すぐ休んで」
「...クソが。なんで俺はティアの居場所すら分からないんだよ...」
何もできない自分に悪態をつくハルト。
「...そんなに自分を責めないで。ハルトは悪くない」
優しくハルトに言うリディア。
「...悔しいんだよ。自分が愛した女を、すぐに見つけてやれなくて」
「...そっか」
「俺は多寡を括っていたんだ。主神を倒せた俺にできないことはない、ってな」
ソファに座り込み、愚痴を零すハルト。
隣にリディアがそっと座る。
「でも、その矢先にこれだよ。俺は自分の嫁を探し出すこともできない。所詮は口だけだったんだ」
「そんなこと...!」
ない。そういいそうになったリディアだが、言うのをやめた。
泣いていたのだ。あのハルトが。
ハルトにとってティアとはそれほどまでに大切な存在で、探し出せない自分が本当にみじめで仕方がないのだろう。
「...今は、もう休んで」
「..ああ」
リディアの膝に頭をおろすハルト。
ハルトは3日間の疲れもあり、すぐに眠気が襲う。
「.....必ず、見つけてやるからな...」
リディアはそんなハルトの頭を優しく撫でる。
数分後、ハルトに意識は眠気の中に沈んでいった。
◇◇◇◇◇
「――きて。――ハルト、起きて」
「...リディア?」
いったいどれくらい眠っていたのだろうか。
辺りを見回すと、窓からは夕日の光が部屋に差し込んでいた。
「...そうだ、ティアを...!!」
「...大丈夫。ティアの居場所が分かった」
リディアのその言葉に、心底嬉しそうな表情になるハルト。
眠る前とは大違いだ。
その違いに、思わずリディアの頬が緩む。
「どこにいるんだ?!」
「...居場所はマジックフロンティアよりさらに遠い場所。恐らく、銀河自体が違うのかもしれない」
「...またとんでもない場所にいるんだな。よし、さっそく移動するぞ」
すぐに魔力を練り上げ、転移門を開こうとするも、うまく展開できない。
「...ハルトは魔力切れ。私たちが転移門を開くから、回復させておいて。その代わり、私たちがティアのところに行けなくなっちゃうけど...」
「すまない。助かる」
リディアは魔法でクラスメイトや嫁たちに連絡を取ると、次々と集まってきた。
「――ティア、今行くからな」
クラスメイト達や嫁たちに感謝しながらも、ハルトは転移門をくぐるのだった。




