アフター 帰還後
「....ハルト。そろそろ起きないと朝ごはんが冷めちゃうよ」
「...あと10年」
「...何言ってるの。早く起きないとティアのボディーブローが飛んでくるよ」
「起きたぞ」
つい昨日のことを咄嗟に思い出し飛び起きるハルト。
昨日の朝は遅刻ギリギリまで寝ていたらティアが部屋に入ってきて「起きやがれぇ!!」といいながら腹に全力のボディーブローを放ってきたのだ。
いくら俺が化け物レベルの強さでもさすがに朝から筋力1000越えのバグネコに全力で殴られたら目も覚めますよ。
「あ、ハルトさんおはようございます。今日は早起きですね」
「お前のボディーブローが怖いからな。さっさと飯食って学校に行くぞ」
「あ、パパ!おはようなの!」
「おはようルリィ。今日も朝から元気だな」
「あなた、おはようございます」
「レミアもおはよう。ドーラとウリエルはどうしたんだ?」
「あの二人は夜遅くまで仕事をしていたので今はぐっすりですよ」
「そうか」
ドーラとウリエルの仕事とは俺が錬成で生み出した指輪やネックレス、その他アクセサリー品の販売だ。
今はネットで販売を進めているが、資金が溜まり次第小さくてもいいからオフィスでも作ろうかと思ってる。
売ってる商品のレビューは「つけてるだけで腰痛が治った」や「片頭痛が治りました」といったものだ。
実は回復魔法を付与してるので外傷的な傷もすぐ治ったりする。
「そろそろ行くか。リディア、ティア、シルフィ、行くぞ」
ちなみにだが、シルフィの耳やティアのしっぽなどは全部神魔法と光魔法をシルフィとティア自身に付与してごまかしている。
なので触り心地も普通の人間と何ら変わらない、ただちょっとかわいすぎる女の子になったわけだ。
◇◇◇◇◇
学校に着き、リディアがロッカーを開ける。
すると中からドサドサッと音をたてながら崩れ落ちる手紙。
「またか?」
「...ん。最初は手紙で断ってたけどもうめんどくさいから全部捨てちゃう」
そのまま置いてあるゴミ箱にポイ―してしまうリディア。
「お前もか?」
「はい。私もめんどくさいので捨てちゃいますね」
そして同じく入っていた手紙をポイ―しちゃうティア。
「シルフィもか」
「うん。でも私もあんまり興味ないから捨てちゃうね」
またまた同じくポイ―しちゃうシルフィ。
学校にリディアたちが入ったときからいつもこんな感じだ。
いい加減、諦めるというのを覚えてほしいんだが...。
まぁ気持ちはわからんでもない。
突如学校にやってきた美少女たちとお近づきになりたいと思うのは当然のことだろうし。
もはやテンプレと化してきたやり取りをしながら教室を目指すべく階段を上る。
そして10分ほどで教室に着く。
「やけに遠いんだよなぁ」
「...確かに」
「なんでなんでしょうかねぇ」
「朝から少しきついわ...」
そんな愚痴をこぼしながら教室のドアを開ける。
そこにはいつもと変わらぬ光景が――って異物が混ざってるぞ?
「お、やっと来たか!おいハルト、この先輩どうにかしろよ!」
「はぁ?なんで俺が何とかしなくちゃならんのだ。野村が何とかしろよ」
なぜか教室には3年の先輩がおり、それをどうにかしろという野村。
その先輩はピアスに金髪の頭。
そして制服を着崩すという、いわゆる不良生徒だ。
「いや無理だよ。この先輩リディアさんに用があるみたいだし」
「殺すか?」
「それはダメだろ。てかいい加減そのすぐ殺そうとする癖治せよ。ここは日本、お前は善良で模範的な日本人。OK?」
眼光をぎらつかせるハルトを模範的な日本人にしようと宥める野村。
そうだ。俺は模範的な日本人。善良な日本人...。
「お、やっと来たの?リディアちゃんだったかな?どうして俺の手紙を無視したわけ?」
今まで対応していたクラスメイトも理由はわからなかったらしく、その先輩の言葉に「あ~」という顔になる。
そして密かに「あの先輩勇者だわ。和希よりも勇者してるわ」や「いくら勇者の俺でもあそこまで直球に聞けないぞ...」という声がささやかれる。
クラスメイトの中ではある定義が作られていたのだ。
ハルトの身内に手を出す="死"の定義が...。
「ねぇねぇハルト君、あれ止めなくてもいいのかな?」
「あー、大丈夫だ。なんかあっても"あいつ"が止めるからな」
「あいつ?」
「ほら、あれだよ。あの暗殺者の...あれ、名前なんだっけ」
「確か...う~ん、わからないなぁ」
「田中だよ!」
「そうだ田中だ。って田中!いつからいたんだ?」
「さっきからいたよ!なんで神レベルのお前でも察知できないんだよ!」
「田中君、さりげなく人類最強...?」
「さりげなくってなんだよ!くそぉ...」
「ほら田中、あの先輩が手を出そうとしてるぞ」
「ったく。...とりあえず気絶させて職員室の前に置いてくるぞ」
無駄に威圧感のあるハルトが行くより、気配を完全に消せる田中に背後から回り込んでもらい、気絶させて職員室の前に置いとくように頼んだほうが安全だと判断したハルト。
気絶から目覚めた先輩はきっと保健室で「あれ?俺何してたっけ...」となるに違いない。
その後、先輩を運び終えた田中にお礼の言葉を言い席に着く。
いつものように授業を始め、敬語を使うハルトをクスクスと笑うクラスメイトに電撃を飛ばし、言語理解でもはや外国人なんじゃないかと思わせる発音で英語の先生を泣かし、やっと昼休みになる。
昼休みは高確率で全員一緒になるが、その理由はハルトはわかっていない。
「来ました~」
「おー、ほのちゃん先生。私んところにおいでよ~」
走ってきたのか息を乱している先生を手招きする千優。
「なぁ、なんで昼休みの時だけ全員一緒になるんだ?」
「なんでって...そりゃあなぁ?」
「ねぇ?」
と、意味深に頷きあう甚太と千優。
「「また召還されたら帰れないじゃん!」」
...見事なはもりだ。
「...そうかよ」
その後は普通に昼食をとり終わり、午後の授業が始まる。
午後の授業は大半の生徒が夢の世界に旅立っていたが、ハルトが稀に出す雷で全員が午後の授業を無事に乗り切ったのだった。




