お出かけ、そしてテロリスト
「リディアは学校に行くのか?」
「ん、学校でもう少し学んでみたい魔法がある」
「そうか。学校まで送ってくか?」
「ん、お願い」
「おう」
今日の俺は学校には行かずにレミアたちと王都を歩こうと思っている。
レミアはつい昨日来たばかりだから案内もしてやりたいしな。
リディアは学校に行くようなので学校の門まで送ってってやることにした。
「ついたぞ」
「ありがと、ハルト。迎えもお願いしていい?」
「ああ、学校が終わる頃の時間に行く」
「ん」
さて。また屋敷に戻ってレミアとルリィと出かける準備でもするか。
服や日用品も買わないとなぁ。
リディアに何か服でも買っておくか。あいつだけ買ってもらえてないと知ったら拗ねそうだし。
◇◇◇◇◇
「あなた?どうかしましたか?」
「ん?ああいや、この服とか似合いそうだなって思ってな」
ここは王都でも上位に入る服屋だ。
上質な魔物の糸を使っているらしく、お値段もそこそこする。
少なくとも平民には買えないだろう。
俺がレミアに似合うと思った服装は、白色の緩いセーターのようなものだ。
この暑い時期にセーター?と思ったが、どうやら魔法付与の効果で常に適温に保たれているようだ。
お値段は金貨10枚。
「あら?確かに素敵ですけどお値段が...」
「気にするな。これを購入したいんだが」
「パパ~!ルリィもこれが欲しいの!」
ルリィが持ってきたのは白いワンピースだ。
いつの日かのリディアを沸騰させる。
お値段は金貨15枚とお高めだが、娘のオシャレのためには戸惑わないのがハルトクオリティ。
「ん?おお、構わないぞ。これで会計を頼む」
「合計で金貨35枚になります」
「金貨35枚だ」
「1、2,3....ぴったりですね。ありがとうございました」
ちなみにリディアには金貨10枚の白のブラウスを購入した。
「そろそろ昼時じゃないか?」
「そうですねぇ...折角ですし、どこかで食べに行きますか?」
「そうするか。ルリィ、何か食べたいものはあるか?」
「ん~とね、お肉が食べたい!」
「肉か。レミアも構わないか?」
「ええ、構いませんよ」
「そうか。じゃあ....あそこなんてどうだ?」
指を指した先にあるのは高級レストランのような雰囲気の食事亭だ。
肉料理中心にやってるらしい。
「あら、高そうですね...」
「気にすんなって。行くぞ」
「なの~!」
料理亭の内装は結構清潔に保たれており、結構オシャレな感じだった。
料理のボリュームはなかなかあったし、味も結構よかった。
「おいしかったですねぇ、あなた」
「そうだなぁ...ルリィもおいしかったか?」
「おいしかったの~!でももう何も入らないの~...」
おなかをさすりながら項垂れるルリィ。
あれだけ食ったらなぁ...。
「少し早いが家に戻るか?」
「そうですね。ルリィも眠そうですし戻りましょうか」
「少し早いがリディアの迎えにでも行くか。車の中でも十分寝れるからな」
「んみゅぅ....」
どうやらルリィは既に寝てしまったようだ。
ハルトパパの腕の中でぐっすり眠っている。
「そうですねぇ。そうしましょうか」
「よし、じゃあ行くか」
◇◇◇◇◇
「おいおい、なんだありゃ...」
「やけに人が集まってますね」
学園の前で車から降りる。
学園の前には人だかりができており、何人か騎士も来ているようだ。
「何かあったのか?」
近くにいた野次馬の男に声をかける。
「あぁ。なんとも、テロリストが学園に押し入ったとか。馬鹿だよなぁ。学園の生徒や教師に勝てるわけないのに...」
「テロリスト...?」
ラーラ先生がいるし、何とかなるか...?
ふと辺りが騒がしくなる。
皆上を注目しているようだが、どうしたのだろう。
目線を上に上げると、そこには黒い服装の人物に首をつかまれ必死にもがいているアレンがいた。
「アレン!レミア、ここで待っててくれ!」
「えぇ!それよりも早く!」
【雷光】を発動させ、瞬時に移動する。
突然現れた青白い光の柱に人々が驚くが、すぐ上空に俺が現れたことですぐに静止の声が響く。
「やめろ!」「無謀だ!」などの声が聞こえるが、どうしてやめなければいけない?
友人が危機に追われている。それだけで十分じゃないか。
ドパァン!
一瞬にして黒服装の人物に接近した俺は有無を言わずにゼロ距離でレールガンモードで発砲する。
アレンは一瞬驚いたが、俺だとわかるとすぐに安堵の表情になる。
「ハルト!悪い、助かった」
「気にするな。状況は?」
「教室の中は10人の怪しい男たちで占拠された。5人は学園長、残りの5人は俺ら生徒で頑張っているが....相手のレベルが高すぎる。生徒じゃすぐにやられるだろう」
「リディアは平気か?」
「今は大丈夫だ。でもすぐにいかないと」
「了解だ。あそこの窓が俺らの教室だな?侵入するぞ」
「どうやって侵入するんだ?結構距離があるんだが...」
「こうするんだよ!しっかり捕まっとけよ」
「はっ?うわぁぁぁぁぁ?!」
俺はアレンに掴まれながら雷光を発動する。
そしてそのまま一直線に窓目掛けて突貫する。
窓を砕け散らせながら中に入ったときに見た光景はひどいものだった。
血を流して倒れるもの。
骨を折られてうずくまるもの。
そして、――リディアが腹を剣で貫かれているところだった。
「リディ、ア...?」
◇◇◇◇◇
【リディア】
それは突然のことだった。
午後にしては珍しく座学だったから授業の開始を待ちながらボ~っとする。
ラーラ先生が入ってくると同時に号令と共に授業が始まる予定だった。
だが結果は違った。
ラーラ先生が入ってくると同時に窓から11人の黒ずくめの男たちが入ってきたのだ。
すぐに異常を察知した先生は生徒たちに指示を出し、黒ずくめの男たちに魔法を繰り出した。
生徒である私たちにも6人の男たちが来たが、1人はアレンによって抑え込まれ、残りの5人は私たちで抑えている状態だった。
「アレン!」
アレンが途中で男に首をつかまれ、別の校舎に連れてかれそうになっていたのだ。
とっさに助けようとしたが彼は、
「俺のことはいい!自分の戦いに集中しろ!」
と言い、私を静止させたのだ。
言ってることはもっともなので、言うとおりに自分の戦いに集中することにする。
相手の戦力は魔法士2人、剣士3人でなかなかアンバランスだ。
先に魔法士を叩いてから剣士の相手をしたほうがいいだろう。
「【ファイヤー・ランス】!」
相手の魔法が飛んでくるが、私は錬成術で作ったオリジナルの深紅の刃を持った鎌で撃ち落としていく。
お返しに風の刃と闇の刃を飛ばしておいた。
相手の魔法士はあっさりと両腕を切断され、暫く転げまわった後にピタリと静かになった。
これで魔法士の警戒はしなくてもいいだろう。
次に剣士3人だが、全員なかなかの手慣れのようだ。
先ほどの魔法士みたいに簡単にはいかないだろう。
「...シッ!」
私は駆け出して相手の首を狙った一撃をお見舞いする。
だが相手は剣を首元にかざし、私の鎌を防いだ。
ガキィィィン!!という金属と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。
ほかの2人はクラスの剣士と魔法士に抑え込まれているようで、一番強そうなこの男には参戦できないようだ。
勇者一行は騎士団との遠征で、ちょうど今日はいない。
なんとも運が悪い。
相手の男がお返しだとでもいうように、強力な斬撃を放ってくるが、鎌の持ち手のところでガードする。
だが、思ったより威力が強く抑えられなかった衝撃でバランスを崩してしまう。
そこを狙ってたかのように相手の蹴りが私の腹に直撃する。
「ゴフッ..!?」
体重を乗せた一撃なのか、私が後ろに下がらなかったなのかわからないがかなりのダメージをもらったようだ。
だが私は痛みを引くのを待たずに相手に再度突撃を仕掛ける。
だがその前に風と闇の刃をお見舞いする。
相手はそれを回避しているが、それは陽動のための魔法に過ぎず、本命は私の斬撃だ。
ちょうど相手の死角に入り、再び斬撃をお見舞いする。
完全に殺ったと思った。
だが結果は違った。
相手はそれをも読んでたかのように滑らかに剣を滑らせ、私の腹を貫いた。
「リディ、ア...?」
私を呼ぶ声のほうに顔を向かせると、そこには世界で一番愛おしい人がいた。
「ハル、カハァ...」
名前を呼びきる前に口の中から赤い塊が出てくる。
再生は間に合わない。
このまま死んじゃうのかな。
そう思うと、自然に涙が出てきた。
もうハルトには会えない。
お父様にもお母さまにも、そしてルディアやレミア、ルリィにも。
死にたくない、ただそれだけを願った。
途端に、教室の中の空気がズン!というように重くなった。
それと同時に深紅の光と青白い色を纏った魔力光が教室中に蔓延する。
「テメェら....誰の女に手ぇ出してんだァ”!」
ものすごい殺気と威圧がテロリストたちを襲う。
私たちに当てられたわけじゃないのにそれでも息苦しくなってしまうほどのプレッシャーを感じる。
ラーラ先生が相手をしていたテロリストは全員気絶し、私を剣で貫いていた男は何とか踏ん張っているという感じだ。
ああ、助かった。
そう思った瞬間に体の力が抜け、私は意識を手放した。
◇◇◇◇◇
俺は腹を貫かれたリディアを見てすぐにブチ切れた。
「誰の女に手ぇ出してんだァ”!」
俺はスキルの威圧と自前の殺気を放ち、男たちを怯ませる。
さすがに全力で出すと余波で生徒たちにも被害が行くので手加減も忘れない。
それくらいの理性は残っているのだ。
俺はまずリディアを貫いていた男の後ろに回り、首根っこを掴み後ろに引っ張る。
強引に引っ張ったため男はそのまま吹っ飛び壁にぶち当たっていた。
「リディア!大丈夫か?!」
リディアの口に手を当て、息があるかどうかを確認する。
幸いにも息があるようだ。これならリカバリーをかければ治る。
俺は瞬時にリカバリーでリディアを治療師、近くにいる生徒の集団にリディアを預ける。
他にも怪我をしている生徒がいたが、そいつらは【エリアハイヒール】という広範囲治療魔法で治しておいた。
「さぁて、テメェらは人の女に好き勝手してくれたようじゃねぇか....この落とし前、どう付けんだ?ア”ァ”?」
幸いにも意識がある男に俺は満面の笑みを浮かべながら話しかける。
男は小さく悲鳴を漏らすが、再び強気な態度になる。
「わ、我らは聖女神教の信者!貴様らのような下等の民に話すような話などガァ!?」
「誰に向かって口聞いてんだァ”?」
ハルトはテロリストの顔にヤクザキックを喰らわせる。
クラスメイトもテロリストもこの時は「んな理不尽な!」と思ったことだろう。
「質問を変えよう。誰がこの襲撃を命じた?」
「だから貴様に話すことなどガァ?!」
再びヤクザキックを喰らわせる。
「早く答えろ」
少々威圧を強める。
男はヒィヒィ言いながら話し始めた。
「こ、この国の貴族だ!そいつはそこにいる王女を少しぐらいなら傷をつけてもいいから連れてい来いって...」
「連れてったあとはどうなる予定だったんだ?」
「そ、そこまでは知らねぇ!...だが、おそらくはその貴族の奴隷になって一生性処理に...」
再び教室の空気が変わる。
ハルトは先ほどのような不敵な笑みではなく、完全に無表情だ。
瞳の奥にはすさまじい殺意が宿っている。
「その貴族の名前を教えろ」
「そ、そうしたら俺が殺されヒィ!?」
「安心しろ。お前はもう用済みだから話し終わったら殺してやるよ。だから話せ」
「な、なん――」
「話せ」
「...クズメナ・カースオという貴族だ。爵位は子爵だ...」
「そうか。じゃあ死ね」
ドパァン!
一発の乾いた銃声のあと、一泊遅れて男だったものが倒れる。
ハルトはそのあとに気絶している男を全員頭をパイソンで粉砕しながら殺しまわった。
「クズメナ・カースオ、か...。生まれたことを後悔させてやるからな...」
無表情なハルトのつぶやきは、なぜかこの場にいる全員の耳に入った。
無表情とは一変し、今度は思案顔になるハルト。
(さて、どう殺してやろうか...子爵だということはそれなりの私兵も持っているはずだ。それを俺が叩き潰すというのもいいが、それだとただただ兵が死んだだけに過ぎない...)
この世界で蔑まれている者が叩き潰せば絶望ぐらいはするだろうが....。
...蔑まれている?そういえば、この世界で愛玩動物としてしか価値がない種族っていうのがいた気が...あ!猫人族か!
猫人族とは、高い運動神経とは裏腹に、戦闘能力はそこまで高くなく、せいぜい気配察知のレベルが異様に高い、というところだけだろうか。
さらに魔力もなく、基本的には戦闘にも役立たずのゴミという認識だ。
だが容姿はどの種族、エルフには負けるがそのエルフの次に優れており、愛玩動物――いわゆる性奴隷には人気の種族だ。
(運動能力が高いならあとはどうとでも鍛えようがある....それにいざとなったら俺の作ったアイテムで強化すればいいからな...ククク)
今度はにやけ顔になるハルト。
だがその姿はあまりにも恐ろしく、学園の生徒には今後【理不尽な魔王】として語り継がれることになる。
(そうと決まれば早速探しに行くか,,,奴隷商の店では常に売り切れだからな...だから自分で探して仲間になってもらうのが一番手っ取り早い)
クククと笑う魔王の姿に、学園では一つの決まりが生まれることになる。
曰く、「魔王の女には手を出すな。死にたくなかったら、な...」ということらしい。
手を出したら最後。
――魔王様からは逃げられない。
 




