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夜中はバスがないから学校に着くまで地獄だった。
田舎だからタクシーなんてない。
坂道も駆け上るしかないのだ。上っている最中本気で田舎を恨んだ。
田舎に罪はないけれど、こんなにも僕の体を痛みつけるのかと。
満身創痍で学校へ行った。
学校に着くと足の震えが止まらなかった。
久々に、というか初めてこんなに走ったのだからその反動だろう。
明日の朝はきっと立てないだろう。
僕は震える足をなんとか手で押さえながら図書室へ向かった。
夜の学校は不気味だなんてよく言うけど、正直息切れが激しくそんなのを気にしている暇なんてなかった。
僕は図書室に着くと、鍵がない事に気付いたと同時に扉に鍵穴がない事にも気付いた。
警備ゆるゆるだな。
僕は今にも壊れそうな扉を開けた。真夜中の図書室は神秘的だった。
月明かりがカーテンの隙間から差し込んでいる。
その月明かりが見事に今月の本を照らしていた。
そこに行けと導いているみたいだ。
僕は真っすぐニーチェの本が置かれている所へ向かう。
そこに相沢からのなんらかのメッセージがあることを願いながら僕はニーチェの本に手を伸ばした。
ニーチェの本を手にし、中をペラペラと捲った。
これはよくある展開になるんじゃないか。
…やっぱり。
Love is more afraid of change than destruction.と書かれたページに茶色い封筒が挟まっていた。
あまりにも陳腐な展開に僕は笑ってしまった。相沢らしいな。
茶色い封筒は結構分厚い。
これがお金だったらいいのにとしょうもない事を最後まで考えながら手紙の束を取り出した。
僕は本棚を背にして座り込み深呼吸をしてから手紙を読み始めた。
 




